表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/62

挿話④ 君が好き 後編

 体育の授業中、ヒロといっしょに短距離走の順番待ちをする。吐く息が白い。


「なあ、明日のクリスマスパーティーだけどさぁ……って、そっか」


 ヒロは途中で話を切ると、モゴモゴ言葉を濁して頬をかく。


「あ~~……クリスマス・イブはカノジョの家で、だったっけ」


 なんでヒロが赤くなってるんだろう。


「うん、クリスマス当日はデートする予定」


「いや~、毎年お前とクリスマス過ごしてたから、うっかりしてたぜ」


 ヒロの家と僕の家は隣だから、小学校の時から季節のイベントはだいたいヒロといっしょだった。言われてみれば、クリスマスを別々に過ごすのは初めてかもしれない。


「にしても、カノジョとクリスマスか~! いいな~!!」


 このこのと肩をぶつけられる。けっこうな勢いで、思わずよろけてしまった。


「ま、俺は俺で楽しむからさ! お前も楽しんでこいよ!」


「う、ん……」


 カレシとして真摯であろうとすればするほど、いつも通りがいつも通りじゃなくなっていく。でも、それが当たり前で。きっとあのコと一緒にいることが、僕のいつも通りになっていくのだろう。


 隣に並んで立っているのに、ヒロと僕の距離が遠く離れてしまったような気持ちになった。


 ――さみしいな。


 思わず浮かんだ寂寥感を振り払うように空を見上げる。チカと、遠くで何かが瞬いた。白と黒と灰色のエネルギーが激しくぶつかり合いながら降ってくる。


「ヒロ! あぶない!!」


 考えるよりも先に体が動いていた。


「は?」


 呆けているヒロの体を思いっきり突き飛ばす。次の瞬間、僕の体は光の束に貫かれていた。



 ◆



 ――それは、死ぬ間際に見る走馬灯だったのかもしれない。


 小学校高学年に上がってすぐくらいのころ。ヒロは隣の席の女のコに恋をした。けれど、そのコは僕のことが好きだった。


『お前がいると俺にいっしょうカノジョできねーじゃん! お前の近くにいるのヤだ!!』


 今から思うと、初恋に破れたヒロの八つ当たりだったんだと思う。


 ただ、当時の僕はこう思った。それは困る。僕はヒロといる方が楽しい。ヒロといっしょにいるにはどうすればいいんだろう。


 浅はかだった幼い僕は、短絡的な解決方法を思いついた。


 そうだ、カノジョを作ればいいんだ。僕にカノジョがいれば、僕のカノジョになりたいって女のコはいなくなる。ヒロといっしょにいられる。


 ――そのうちにキッカケを忘れて、僕は女のコにカノジョでいてもらうことを求める人間になった。



 ◆



 目が覚めたら、放課後で、僕は女のコになっていた。


「お、お兄ちゃんが……お姉ちゃんに……」


 連絡を受けてやってきたらしい妹が、保健室の入り口で呆然と立ち尽くしている。


「たいっへん申し訳ありませんでした!!」


「さすがのアタシでも謝るわ! スマン!!」


 アンジェとイヴィルは半泣きになりながら、ベッドサイドで頭を下げた。話を聞くと、彼女たちは、異世界からやってきた狂った神と交戦中だったらしい。その戦いの余波に、僕は巻き込まれてしまったのだとか。


 そして、二つの神力と魔力が複雑に絡み合っているせいで、元に戻るのは難しいと告げられた。


 ――僕は……僕は、安堵していた。


 女のコになったから、もうカレシをがんばらなくていいんだ。いつも通りに戻っていいんだ。……ヒロの隣に立っていていいんだと、思ってしまった。



 ◆



「別れてほしい」


 クリスマス・イブの日、向かい合って座る彼女に、僕はそう言った。自分から別れを告げるのは、初めてのことだった。


「僕は、その、女の子になってしまったし……このまま付き合い続けるのは難しいと思うんだ」


 どこかボンヤリした様子だった彼女は、たどたどしく口を動かす。


「わ、たしは……性別なんか、関係なくて……」


 ゆっくりと顔を上げ、しっかりとぼくを見据えた。


「きみのことが……」


 その目には輝くような強い意志が宿っていた。


「――すき」


 思ってもみなかった言葉に息をのむ。すき……好き?


 ――僕のことが、好き?


 聞き返そうとして、言葉を飲み込む。飲み込んだ言葉が胸の内に広がっていく。


 僕は、初めからずっと間違えていた。僕がしなければならなかったのは、カレシらしく振る舞うことじゃない。彼女のことを知って、彼女を好きになることだった。けれど――


 僕が好きなのは。


 好きという言葉で思い浮かぶ相手は。


「ありがとう」


 ちゃんと彼女の目を見つめる。


「ごめん」


 彼女の目にじわりと、涙が浮かぶ。怯みそうになる自分を奮い立たせる。彼女に――いや、自分の気持ちに、向き合わなければいけない。


 この気持ちが、家族としての好きなのか、友情としての好きなのか、恋愛としての好きなのか。そんなことすら分からない。けれど、僕の心に、好きという気持ちがはじめて生まれたんだ。


「いま、はじめて気がついたんだけど……」


 僕は今から、僕の都合だけで、彼女を傷つける。


「僕、好きな人がいるんだ」


 君のことを、好きになれなくて、ごめん――



 ◆



「ひっ、ひぐっ……ぐすっ……」


 頭から毛布をかぶり、震える手でスマホを操作する。僕には、もう彼女しかいなかった。藁にも縋る思いで、コール音を聞く。通話に出た彼女に名前を伝え、返事を聞く前に自分の気持ちを吐き出す。


「ふ゛ら゛れ゛た゛」


『ええ~~~……』

※1 付き合い始めてから別れるまでの日数のみのカウントで、実際に会った回数はもっと少ない。


※2 根本的な原因を本人も周りも理解していないから。原因の詳しい内容については「エロゲの世界のカレシとカノジョ」を参照のこと。


※3 話の内訳の7割がヒロの話、2割が妹の話、1割がアンジェとイヴィル関係の話。


※4 デートを途中で切り上げて、ヒロや妹の元に行くときのことを言っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ