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第三十話 カレシとカノジョ

 明日、放課後にTS予定イケメンくんと待ち合わせして、制服デートをすることになった。気がついたらそうなっていた。TS予定イケメンくん、言いくるめ力が高い。



 ◆



 そんなこんなで翌日。


 私とTS予定イケメンくんは、おしゃべりしながら繁華街をブラブラと歩いていた。ショーウィンドウに並んで歩く二人が映る。端から見たら、まあカップルに見える、の、か? もうちょっと近くを歩いた方が恋人っぽい?? ……わからない……わたしはふんいきでコイビトをしている。


 ――秋深き、カレシカノジョとは何をする人ぞ。


 前世でも今世でも恋愛と縁の薄かった私には、普通に分からない。前世うんぬんの部分は省いて、素直にそう伝える。TS予定イケメンくんはきょとんと目を丸くした。


 あ、しまった。こっちから「カレシになってください」って言ったのに「カレシと何すればいいのか分からない」って、かなりおかしな話だ。


 もー! 自分はワケアリですって言ってるようなもんじゃん!! うかつがすぎるな!? 精神年齢 (ピーッ)歳の余裕はどこにいった!?!? ぬあ~~~!! はずかしい!!!


 はいはいはいはい、そうですとも! 前世も今世もあわせて初カレシでテンパっておりますとも!! すぐに別れる予定だけどね!!!!


 おたおたしている私に気を悪くすることなく、TS予定イケメンくんはゆっくりと声をかけてくれた。


「こういうことしたいとか、ある?」


 もんのすっっごく気を遣われているぅ~~~!


 さくっとセックスしたいですねぇ! というのが本音。だけど、言わない。


 取り巻きハーレム先輩の勃起不全を知ってから、ネットでいろいろ調べた。そして知った。男性の勃つ・勃たないは、かなり繊細な問題だと。多種多様な原因(※1)で、男性は勃たなくなる。それは困る。


 というわけで、初手からガツガツするのはよろしくない。


 まずはTS予定イケメンくんについて知ることから始めよう。そして段階を踏んで関係を進展させる。具体的に言うとキス()ペッティング()セックス()。1980年代に生まれた、恋愛の進行度を表す言葉だ。分かりやすくていいよね。


 ……ただ、出会って翌日でキスもがっつきすぎな気がする。


「手をつなぐ、とか……」


 ビビってない。私は決してビビってなどいない。ちゅーぐらい、一人称『僕』おじさんとしたし。へっちゃらだし。……あの”訓練”を、キスにカウントしていいのか分からないけど。


「こんな感じ?」


 TS予定イケメンくんの手に指が触れたと思った直後。するりと手をつないでいた。手のひらがじんわりとあったかい。誰かと手をつなぐなんて、子どもの頃ぶりで――


 …………ん?


 んんんんんんっ!?


 えっ、なっ、ええええっ!! なっ、なにが、いま、なにが!?!? なん!!!!


 愕然とする。手をつなぐという動作だけで、彼我の戦力差は明白だ。瞬間移動で後ろに回り込まれる敵キャラの気持ちが分かってしまった。


 強すぎる……! 勝てない……!!


 いや待て。落ち着け。別に勝たなくていいから。そういう勝負じゃないから。恋人として進展があったのはいいことだから。半歩ほど、二人の距離が近くなってるし。うん。


「こっちの方がよかったかな?」


 さりげない動きで、手のつなぎ方が変わる。指と指を絡めるようにお互いの手を握る。二人の距離が、さらに縮まる。


 ――いわゆる恋人つなぎ。


「ひえ」


 けっきょく私は、TS予定イケメンくんの圧倒的なカレシ(ぢから)によって蹂躙されたのだった。


 ぐずぐずに溶かされていく頭の片隅に、顔の分からない女の子の横顔が浮かぶ。きっと、元カノちゃんともこんな感じだったのだろう。


 TS予定イケメンくんが、恋人と長続きしない理由、か――


 ……まあ、長続きしないっていうのは、私にとってメリットだし、いっか。

※1 特に心因性は原因がさまざま。緊張、焦り、不安、過労、ストレス、トラウマなどなど。

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