第二十一話 七不思議の八番目
さっきまで揉めていたのが嘘のように、保養地に向かう車内は和気あいあいとしていた。お菓子をつまみながら、ワイワイとガールズトークに花を咲かせる。
はぁ~~~~っ! かわいい!! みんなかわいいねぇ!! ”女主人公”対策で荒んでいた心が癒されるーーーーっ!!
エロゲが大好きな自分は、可愛い女の子がキャッキャしているところを見るのがたまらなく好きだ。しかも、恋をしている女の子は、なおさら可愛くて大好きだ。
ていうか、恋する可愛い女の子が嫌いな人類なんておらんやろ(※1)。
今は、『七不思議研究部』のこれまでの活動について話を聞いていた。巨大人工浮島の学園では、”学園の七不思議”がまことしやかに囁かれているのだそうな。開校から数年しか経ってないのに関わらず、である。
しかも、普通の七不思議と何やら趣きが異なるのだという。
「――そしてワレらは! とうとう七不思議の謎を解き明かしたのだ!!(※2)」
「おおー!」
パチパチと拍手をすると、中二病ロリ”ヒロイン”ちゃんがムフフンと誇らしげに胸をはった。かわいい。
それにしても、すでに七不思議とやらの謎は解明してるのか。つまり、今ってクライマックス手前くらいなのかな?
「それでだな、これから行く保養地に、けんきゅ――」
「部長、ストップ」
「むぐっ」
無口クール系”ヒロイン”ちゃんが、中二病ロリ”ヒロイン”ちゃんの口をふさいだ。
「わたしたちは~、ええ~っと。この合宿で~、えっとえっと……」
なんとかフォローしようとするも、モゴモゴと口ごもるおっとり不思議系”ヒロイン”ちゃん。無口クール系”ヒロイン”ちゃんが「研究レポート」とつぶやいた。
「そう! これまで調べたことを~研究レポートにまとめようって、思ってて~。えっと、思ってるんです~」
……たぶん、部外者が聞いちゃいけないこと言いそうになったんだろうなぁ! 中二病ロリ”ヒロイン”ちゃん!!
「へ~、すごいねぇ! みんなしっかりしてるなぁ!!」
私は、すべてに気づかなかったことにして話を流すことにした。
もちろん、中二病ロリ”ヒロイン”ちゃんは『研究所』と言いかけたのではないかと察している。けど、そんな怪しい単語、掘り下げたくない。嫌な予感しかしない。
ゾンビか? ゾンビなのか??(※3)
「レポートが書けたら、キサマにも読ませてやるからな!! ありがたく思えよ!!」
ふむ。研究レポートは口から出まかせじゃなくて、ちゃんと書く予定なんだ。
そういえば、お孫さん師範代から送られてきた合宿概要メールにも、コテージの使用目的は『集中してレポートを仕上げるため』と書いてあった。
つまり、『研究所』とやらに行くのは、お孫さん師範代にもナイショにしているってことかな? まあ、もしもお孫さん師範代が知ってたら、部外者をバイトに雇わない、か。
……四人だけで大丈夫なのかなぁ?
「うん、研究レポート読むの、楽しみにしてるね」
「ムフ、ムフフー! キサマ、なかなか分かっているではないかッ!!」
中二病ロリ”ヒロイン”ちゃんはうれしそうに口元を緩ませている。えっ、そんなに喜ぶポイントあった??
「わぁ~、ぶちょー、よかったねぇ~」
「……部長のレポート、読むの大変。がんばれ」
ああ、なるほど。レポートも中二病のノリなのね。それは読みごたえがありそうだ。
※1 オタクはすぐ主語をデカくする。
※2 その結果、『七不思議研究部』は巨大人工浮島に隠された陰謀に気づいてしまった。最後の謎を解くため、保養地に向かっているという流れ。
※3 ゾンビではない。