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第十五話 その発想、庶民には無かった

 さて、呼び出し当日。私は、超高層ビルの52階にある高級レストランにやって来ていた。なんかこう、ドレスコードとかがありそうな、エントランスの雰囲気からしてお高そうな、入るのに気後れするレストランだ。


 エントランスでオドオドしていると、お姉さんに話しかけられた。私の名前を確認すると、にこやかに席まで案内してくれる。パーカーとジーンズというオシャレを度外視した格好で挙動不審になっている私に、この丁寧な接客。さすが高級レストラン……!


 取り巻きハーレム先輩の呼び出しに応じたのは、呼び出された場所がこのレストランだったから、というのもあった。確実に人目のある場所で、そう無体なことはしないだろう。



 ――と、思っていた。



 まさか、52階をフロアまるごと貸切にして、人払いまでしてるとは思わなかった。金持ちの考えることは規模が違うな~~~~! バカじゃないの!?!?


 ……まあ、マジのガチで命に関わる事態になったら……おじさんに飲まされた”お守り”が助けてくれる……はず。たぶん。きっと。


 テーブルを挟んで向かいに座る先輩は、無言でこちらを睨んでいる。神経質そうな面差しに影が落ち、不健康そうだ。前々から年齢にしては細身で華奢な体だったけど、さらに痩せたように思う。


 目が届く範囲に人はいない。飲み物も食べ物も運ばれてこない。


 貧乏ゆすりの音が、かすかに聞こえている。


「やっぱりお前も違うじゃないか」


 口火を切ったのは取り巻きハーレム先輩のつぶやきだった。


 そこからはもう立て板に水というか。よくもそこまで溜め込んでたなという罵詈雑言だ。「金があれば誰でも良かったんだろう」だの「誰にでも股を開くアバズレ」だの「媚びを売ることしかできない無能」だの「誰もオレのことを見ていない」だの「お前たちの目は違う」だの。すごい剣幕でまくし立てる。


 こんな風に面と向かって罵られれば、あの二人もキレるわなぁ。二人が玉の輿ガチ勢で、先輩本人にあんまり興味が無いのが事実だとしても。


 先輩の体目当ての私には、ちょっと的外れな内容もあった。けど、自分の都合のために他人を利用しようとした自覚があるので、粛々と罵倒を受け入れる。


 何も言わない私をどう思ったのか。取り巻きハーレム先輩は整った顔を醜悪に歪めて、引きつるように嘲笑う。


「――脱げよ。抱かれたいんだろう、オレに! 雌犬らしく、今すぐここで尻尾を振って見せろよ!!」


 え、マジでいいんですか!? それめっちゃ助かります!! ありがとうございます!!!!



 ◆



 結論から言うと、セックスできなかった。


 …………その、()たなくて。

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