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第十三話 脳裏をよぎる、これまでの日々

 ――二年生になったら両親が海外へ出張し、一人暮らしになる。


 男性向けエロゲみたいなことが起きる世界で、こんな特大のフラグを見過ごせるはずなく。それから一ヶ月は”女主人公”対策に奔走した。おじさんの”訓練”、おじいちゃんの護身術の稽古、先輩のファンクラブに入会。思い返すと濃いひと月だったなぁ。


 なんとか対策がカタチになってから、さらに一ヶ月。忙しいながらも平穏な毎日だった。



 ◆



 忘れた頃に来ると言っていた一人称『僕』おじさんは、まだ来ていない。今日来るか、明日来るかと身構えている間は、来ないのかもしれない。忘れてないってことだし。



 ◆



 雨の日以外は毎朝、河川敷でおじいちゃん師範と稽古。今は、基礎体力と持久力を鍛えつつ受け身の練習をしている(※1)。これがなかなか難しい。というか痛い。普通に痛い。最近になって、ようやく前回り受け身ができるようになった。まあ、まだぎこちないけれど。


 そうだ、ゴールデンウィークの数日間は、おじいちゃん師範が町内会の旅行でいなかったので、お孫さんに稽古をつけてもらった。


 お孫さんと言うから、同い年か少し上だと思っていたら、三十代くらいのお兄さんが来て驚いた。おじいちゃん師範に似ず、ずいぶんと寡黙な人で、必要最低限のことしか話していない。ただまあ、体つきからしてしっかりと鍛えてる人なんだろうなとは思う。


 今後も、おじいちゃん師範が用事でいないときは、お孫さん師範代が来てくれるそうだ。学生に払える程度の些細な月謝でここまでしてもらうと申し訳ないけれど、正直言ってものすごくありがたい。お手数をおかけします。



 ◆



 モブ女子取り巻きハーレム先輩のファンクラブ活動は、聞いていた通りの内容だった。お昼休みや放課後に先輩を囲んでチヤホヤする簡単なお仕事。あとは、みんなでワイワイおしゃべりしながらお菓子を食べたりしている(※2)だけだ。


 メンバーは、玉の輿を狙ってるガチ勢から、顔目当てのエンジョイ勢、友だちがいるから入っているライト勢、体目当ての私って感じだ。なお、先輩ガチ恋勢はいなかった。


 私に割り振られたお手付きの順番は、ファンクラブに入ってから三ヶ月後。もともとは二ヶ月後だったんだけど、順番が延びてしまった。取り巻きハーレム先輩がお嬢様”ヒロイン”ちゃん先輩にかなり粘着しているので、呼び出しがまちまちになっているかららしい。


 まあ、見えているオチはさておき。


 私としては、処女でなくなればオッケーなので、憂さ晴らしでいいからテキトーに呼び出してセックスしてほしいなとしみじみ思っていた。



 ◆



 ――さて、回想は負けフラグだとよく言われるが、安心してほしい。これは、戦う前の回想ではなく、精神的ショックで見えてる走馬灯だから。





 モブ女子取り巻きハーレム先輩が、お嬢様”ヒロイン”ちゃん先輩に粘着し続けた結果、”主人公”くん先輩にざまぁされて転校しました。





 週明けに夏服で登校したらこれですよ!!!


 そのうちそうなるだろうとは思ってたけど早すぎる! まだ一学期やぞ!! 衣替えしたところやぞ!? せめて夏休みまでがんばろうよ!!!! あれか?! 夏服の差分がなかったんか!?!?


 あまりにも早い取り巻きハーレム先輩の退場に、頭の中はてんやわんやのしっちゃかめっちゃか。そりゃあ走馬灯も見るってものですよ。泣きたい。


 私があんまりにもしょんぼりしているのを見かねてか、ファンクラブメンバーの友だちがめっちゃ慰めてくれた。ありがとう。でも違うんです。取り巻きハーレム先輩が好きだったから悲しんでるわけじゃないんです。


 事情通のクラスメイトによると、上流階級しか通えない全寮制の学園へ転校していったらしい。私物の持ち込みなども厳しく制限されるようなところだそうな。それって、もう会う機会がないっていいません?


 長々とため息を吐いて、机に突っ伏す。


 とにもかくにも、私の”女主人公”対策は破綻してしまった。

※1 おじいちゃん師範が道場から持ってきてくれた畳の上で練習している。さすがに地面はまだ無理。


※2 お菓子や飲み物の代金は先輩持ち。ごちそうさまです!

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