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挿話① コウモリの恩返し

 タイチとユウ(※1)には、生きていてほしかった。幸せになってほしかった。あの二人が笑って生きる未来の一助になれるなら、僕にとってこのうえない幸福だった。


 だから、僕が死んでも構わないと思っていた。


 ――まさか、命拾いするとは思わなかった。


 しかも、僕みたいな不審者(バケモノ)に、迷わず血を分けてくれる変わり者(愚か者)が、タイチ以外にもいるとは。世の中は広い。彼に出会う前の荒んでいた自分が馬鹿みたいだ。


 軽く助走をつけ、屋根から屋根に飛び移り、真っ直ぐ疾走(はし)る。僕はどちらかというと肉体派ではないのに、タイチに出会ってから走ってばかりだ。ひとまず、彼に付けた”血痕”に向かう(※2)。”血”を通して感知を行う。まだ異変はない。


 たしか、日中は”姉”とやらが起きているから自由に動けないとほざいていた。だからこそ、恩返しをする時間の余裕があったのだが(※3)。


 脳裏の広域地図に点在する”血痕”。ついさっき増やしたばかりの”血痕”は、微動だにしていない。本人の望みとはいえ、だいぶ無理を強いたから、たぶん寝てるのだろう。


 それにしても、変わったコだった。


 移動しながら、二人目の変わり者(愚か者)について考える。タイチを取り囲む女たちに「常識が無い!」とキーキー言われる僕が、「変わっている」と思ったのだから、相当の変わり者だ。


 そうしなければならないという、強迫観念。


 タイチとは、また違う方向で揺るがない瞳と感情。まあ、さすがに、僕が正体をはぐらかしたときは怒ってたか(※4)。女ってやつは、ああいう受け答えをするとすぐ怒る(※5)。


 それはさておき。あのコのしてほしいことが、短時間で済むうえに僕がすぐできることでよかった。命を救ってもらった恩返しが、きちんとできた。


『命を助けてもらってこれだけじゃ、釣り合ってない!』


 僕の目を見てそう言い切ったタイチの姿を思い出す。


「……ふ」


 なんとなくおかしくなって、唇の端が吊り上がる。彼に恩返ししてもらった僕が、誰かに恩返しすることになるなんて!


 ああ、本当にタイチの言うとおりだ。僕は、なんて狭い世界で生きていたんだろう。


 ”血痕”の感知に、おぞましい気配とそこから溢れる殺意が引っかかった。圧倒的な”死”の概念が叩きつけられる。怖ろしい。過去に置き去りにしたはずの恐怖が、じわりと胸に去来する。


 ――タイチとユウが、僕の世界から失われてしまうことが、何よりも怖ろしい。


 だから、僕は立ち向かう。


 それに――


「またね、と言ってしまったし」


 約束は、守らないと。


 そうだろう?


 命の危機にあるというのに、僕を見つけて破顔するトモダチ(愚か者)に、心の中でそう話しかけた。

※1 泰一(タイチ)夕星(ユウ)おじさんに関わりのある”主人公”と”ヒロイン”。他に四人の”ヒロイン”が存在するが、おじさんは二人の名前しかまともに覚えていない。


ただいま個別ルートのクライマックスの真っ最中。おじさんをオタク的にたとえると『推しに幸せになってほしい』&『壁や天井になりたい』タイプで、二人のために命をかけることも厭わないし、見返りを求めていない。


※2 本当は、ヤバい少年に”血痕”付けて追跡したかったが、概念から自分の居場所がバレてしまうのでできなかった。


※3 どんな時でも、エッチなことをする時間は確保される。それが、男性向けエロゲみたいなことが起きる世界。


※4 一人称『僕』おじさんを反芻していただけです。


※5 個人の経験に基づく感想であり、普遍的な価値観ではありません。

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