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乙女ゲーム? いや、違う!

6話です。主人公が交代します。


こちらのパートは、全てもう1人の主人公の独白です。



 俺、バドルス王国王太子であるヨハネス・アルトリウス・ブレンゲンハルトが前世の記憶を思い出したのは、15歳の時であった。父であるバドルス王国国王、ドルモンド4世が崩御したことを知らされた衝撃で、俺は記憶を取り戻した。


 突然に脳内にあふれ出す知識の奔流の中で、俺は「少し1人にしてくれ」と自室に篭り、それに耐えた。


 俺が前世で何をやっていたのか、詳しいことは思い出せない。しかし、この世界がどんな世界なのかは、前世の知識から理解することが出来た。


 最初は乙女ゲームである「Star Color ☆ School Life ~ 亜麻色の帝国で」の世界かと思った。しかし、自分が王族として生を受けた国が、バドルス王国であるという事実から、そうとは言い切れないと分かった。


 俺の推測によればこの世界は、ストラテジーゲームであるGlorious Empire 5で☆学の世界を再現したStar Color School Life MOD、略してSCSLの世界だ。


 Glorious Empire、略してGEは欧州の老舗ゲームメーカーが作った、中世ヨーロッパを舞台とする歴史ストラテジーゲームのシリーズである。ストラテジーといっても、個人に焦点を当てている点に大きな特徴があり、性格や特性、能力値を割り振られた大量のキャラクターが勝手に行動していく中で、歴史を紡がれるゲームシステムは日本でも世界でも非常に人気が高い。


 プレイヤーは領地を持つ貴族の1人となり、成長し、家庭を作り、戦争や外交を楽しみ、そして死ぬ。プレイヤーキャラクターが死亡すると、同じ一族の人間にキャラが切り替わり、ゲームは続行する。それを繰り返すことによって、中世の世界の中で一族を発展させていくのが、このゲームの目標だ。


 そんなGEで☆学の世界を再現しようと試みたのが、SCSLだ。☆学の綿密な設定資料に着目した有志のGEプレイヤーが、それらを基にして世界を構築した。☆学のストーリーは、ゲーム内で発生するイベントとして組み込まれており、ゲーム自体はストーリーの10年前から始まり、☆学のストーリーの期間が終わった後も最大で400年までゲームを続けることができる。


 なぜ、自分がバドルス王国の人間だと気付いたことで、これが☆学ではなく、SCSLの世界だと分かったかというと、☆学に「バドルス王国」という国家は登場しないのだ。


 ☆学の設定資料はかなり綿密だったが、乙女ゲームのための資料なので、世界地図上に存在しているのに名前がない国や、存在しているはずなのに名前や性格、役職が分からないキャラクターなど、多くの穴があった。ストラテジーゲームとして、それでは都合が悪い。そのため、SCSLが作成されるときに、それらの穴は作成者たちの想像力で埋め合わされ、適当にオリジナルの国家とキャラクターが配置された。その結果として、帝国の東にあって異教徒たちの領域に接する国家として、バドルス王国が生まれ、俺も生まれたのである。


 父が死んだというのに、この世界の秘密に気が付いた俺の胸は高鳴った。ストラテジーゲームに熱中していただろう前世の記憶がそうさせたのか、多くの臣下を従え、大軍を動かし、世界を変えうる可能性があるということに喜びを感じた。俺は生涯の目標として、この大陸を征服し、統一してみせようと決意した。



 バドルス王国の若き国王として即位した俺がまず行なったのは、自分の政治基盤の強化だ。何かと理由をつけては国内の主要貴族の領土を削減し、収入源となりうる鉱山や港湾を抑え、他は適当な弱小貴族に与えた。


 無論、領土や利権を奪われた大貴族たちの反発は激しく、徒党を組んで俺に反抗しようとした。しかしそれを主導したのは、実は俺に忠誠を誓っている貴族であり、彼らが反乱を計画し、暴発寸前になったところを急襲して一挙に壊滅させた。これによって、俺に反対する主要な貴族らはことごとく廃絶となり、彼らの領土を手に入れた王家、つまり俺の権力は著しく伸長した。


 これらの粛清には3年を要した。ゲームでは時間をかけて行なうべきところだが、これは現実だ。悠長に時間を使っていたら、俺の代で大陸統一など不可能だ。リスクを払ってでも、速度を優先させた。



 バドルス王国内部の支配を固めた俺は、異教徒が支配する東方への侵攻を打ち出した。この世界において、領民と領土の多さは、国家の力に直結する。しかし、大義名分なく他の国々に侵攻するのは具合が悪い。その点、異教徒の領域への侵攻は、「聖戦」という名目を使えて、他国からの援助も期待できた。


 最終的に、大陸全土の支配を目指す俺にとっては、同じ宗教の人間が支配する領域を攻めるのも、違う宗教の人間が支配する領域を攻めるのも、順番の違いでしかない。


 俺は大貴族たちから没収した財産を使って多数の傭兵を雇い入れ、信頼できる部下にそれを任せて東方へ侵攻させた。




 大陸を統一しようとする俺にとって最大の障害となるのは、帝国の存在である。千数百年前に建国されたという神聖ヴァレンティア帝国は大陸の大部分の諸国を臣従させ、帝国教会の庇護者として大陸の覇権を握っている。諸国の帝国への臣従が形式的なものになった現在でも皇帝の権威は何よりも高く、帝国は強力だ。帝国を何とかして排除しない限り、俺が大陸を統一するのは不可能だ。


 しかし、やりようはあった。現皇帝アルフレド2世が無能であり、その統治に批判が集まっている、ということが鍵だ。有能な宰相率いる官僚機構、老練な騎士総長率いる軍事力、大陸全体に影響力を持つ帝国教会と皇帝との密接な関係、そして若くして聡明と知られるユリウス皇太子の存在による後継の安定があり、批判は公にはされていない。しかし、それらの基盤が弱まればどうなるか。


 ランダム要素が高いSCSLの世界でも、いくつか高確率で起きるイベントがある。それが、☆学のストーリーイベントだ。それらストーリーイベントが進むことで、帝国の統治はより磐石になっていき、最終的に優秀な皇太子であるユリウスが皇帝に即位して、帝国の新たな黄金時代が訪れる。逆に言えば、☆学のストーリーイベントを起こさせないことで、ストーリー全体を破綻させ、ひいては帝国の力を削ぎ落とすことができる。


 ストーリーイベントは3種類が存在する。


 1つ目は、学園生活イベント群。これは☆学のメインストーリーに当たる部分で、このイベントを通して攻略対象たちや帝国貴族の子弟たちの結束と能力値が高まっていき、帝国の内部統治が強化される。


 2つ目は、ヒロインとメイン攻略対象たちとの関係イベント群。これは、学園生活イベント群とは別に発生し、共通ルートを通った後に、ランダムで個別ルートもしくは逆ハーレムルートに分岐する。共通ルートではメイン攻略対象たちの能力が順次強化されていく。個別ルートに入ると、ヒロインはその攻略対象の妻になり、逆ハーレムルートだと、ヒロインは皇太子妃になると同時に、他の攻略対象たちと「恋愛関係」になる。そして、ヒロインの夫、あるいはヒロインと恋愛関係になったキャラクターは大幅に能力値が強化される。


 3つ目は、帝国の隣国であるウォートリア王国の、帝国への侵攻イベント群。ウォートリア王国で国王が崩御し、ベルトラン王子が新王に即位するイベントがトリガーとなって、ウォートリア王国の戦力が著しく強化されるイベントが連続して起こり、最終的にウォートリアは帝国へと侵攻する。学園生活イベント群かヒロイン=攻略対象の関係イベント群が進んでいた場合、ウォートリアは確定で敗北する。逆にそれらのイベントが進んでいなかった時には帝国が高確率で敗北する。帝国を滅ぼしたウォートリアは、強化された戦力を駆使して大陸の統一へと乗り出し、戦火が大陸全体へと拡大してしまうのだ。


 しかし、これらのイベント群は、いずれも連鎖イベント形式を取っている。簡単に言うと、最初のイベントさえ発生させなければ、後のイベントはどれも発生しない。俺はこれを利用してイベントをなるべく潰していこうと思う。



ヨハネス君は、思考回路が戦略ゲーマーです。


次話は2月4日午後9時に投稿予定です。


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