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ラスボス兼隠しキャラは亡命し、死亡フラグもどこかに行きました

5話です。



 皇太子ユリウスが死んだことは、帝国の継承に影響を与えた。現皇帝に血統的に近いのは第2皇子ガイウス、第3皇子ルキウス、そして帝弟のエーリッヒだ。


 ガイウスとルキウスは☆学に名前だけ登場した。ガイウスは皇帝が愛妾に産ませた庶子、ルキウスは病弱な上にまだ7歳、と皇位継承に問題を抱えている。そのために、ユリウスには過度な期待がかかり、彼にとってストレスの原因になった、という設定があった。今の世界でも状況は変わっておらず、第2・第3皇子は皇太子に相応しくない、と見られている。


 数ヶ月おいて、帝弟のエーリッヒが、新たな皇太子として宣下された。そして、彼は次期皇帝としての教育を受けるために給馬長官の職を辞することになった。彼が20代後半でありながら妻帯しておらず子もいない、ということも問題視され、すぐに公爵家の1つから皇太子妃を迎えた。


 エーリッヒの個別ルートでは、彼が教えてきた学生たち、つまり若手の貴族および子女たちが集まり、親たちを説得して、帝国貴族たちの総力を使うことでウォートリア軍を撃退する。しかし、学園が創設されない現状、エーリッヒではウォートリアに対抗する手段は無い。つまり、エーリッヒには頼れない。


 私には、宰相の息子であるカールと仲良くなって、彼にウォートリアを撃退してもらう、という手段しか残されていなかった。


 カールの個別ルートでは、彼は軍師としてその智謀をフル回転し、陽動・偽攻・離間工作などの計略を駆使し、戦わずしてウォートリア軍を無力化する。ある意味で、最も被害が少ないルートだ。


 私は文官として宮中に出仕している兄のヘルマンに「お兄様、宰相様の息子であるカール様は私と同年代だと聞いております。是非とも、交友を深めたいので、お兄様の方から伝えてくれませんでしょうか」というような手紙を送った。



 1週間ほど経って、兄から手紙が帰ってきた。その内容は「宰相ガトレント侯爵はその任を解かれ、また子息カールは見聞を広めるために諸国周遊の旅に出られた」というものであった。


(なんで!?)


 2ヶ月ほどかけて、兄と文通を進めていると、以下のような経緯があったことが分かった。


 まず、前の騎士総長レーベン子爵は格上である宰相のガトレント侯爵に従っていたために、権力が宰相に集中し、政府機構は上手く回っていた。しかし、新たに騎士総長となったフラーベル侯爵は、同格である宰相に対抗心をむき出しにしたという。武官たちもそれに同調し、文官たちから指示を受けるのを拒否するようになっていった。


 文武官の対立が進んだことで、帝国の官僚機構が徐々に機能不全になっていった。これに慌てたのが、皇太子ユリウスの死からようやく立ち直った皇帝である。彼は宰相と騎士総長、文官と武官の筆頭が同格で対立していることが問題の原因だと思い、対策を行なった。


 その対策の方法が、宰相であったガトレント侯爵の解任であった。最近、騎士総長になったばかりのフラーベル侯爵を解任するのは難しい。そこで、長年にわたって宰相を務めたために、小さな失敗が幾つかあるガトレント侯爵を解任することにしたようだ。新たな宰相には、フラーベル侯爵より格上であり、娘を新皇太子のエーリッヒの妻にしたエリトゥール公爵が就いたらしい。


 ガトレント侯爵がその任を解かれたため、非公式にその補佐を行なっていたルークも暇になった。そこで、ガトレント侯爵は彼を諸国周遊の旅に出し、見聞を広めさせることにしたらしい。彼は既に帝国にはおらず、今から会うことは難しいそうだ。



 学園は創設されず、メイン攻略対象5人中4人が退場(残る1人は役に立たない)し、私は自らの死亡フラグを覆す手段を完全に失ってしまった。幸い、ウォートリアが攻めてくるまでは時間がある。しかし、未成年で社交界へも出られない私には今の段階で打つ手が無い。とにかく15歳になるまでは出来ることがない。


 私はもはや破れかぶれになり、15歳までの時間は自分が好きなように使おうと決めた。既に貴族令嬢としての教養は十分に備えている、と家庭教師たちに太鼓判を押されていた私は、もはや勉強をする必要が無く、時間だけはたっぷりとある。とりあえず、ガーデニングでもしてみた。


 しかし、これまで勉強を続けてきた習慣はなかなか抜けず、私はガーデニングに関する書籍を何十冊を読み、熟練の庭師を連れてきてその技術を吸収し、壮大な大庭園を作り上げたりしてしまった。




 そんな日々を過ごしていたある日のことである。


 私と父が食事をしていると、執事のフランツが入室してきた。


「閣下、お耳に入れたいことがございます」


「どうした、フランツ?」


「ウォートリア王国で国王ドミニウスが崩御いたしました」


 フランツは淡々とした声で父に告げる。


(ついに来てしまった……)


 今まで半ば現実逃避気味に過ごしていた私は、現実に引き戻されたかのように感じた。


 ウォートニア王が崩御し、第1王子であった「黒騎士」ベルトランが新たな王に即位する。そして、彼は帝国を滅ぼして大陸に覇を唱えようと動き出すのだ。これから約5年後、私が18歳になった時にウォートニア軍が帝国へ侵攻してくる。そして、☆学では、私はその侵攻に巻き込まれて死んでしまうのだ。


 彼は欲しい物があったら、何としてでもそれを手に入れないと気がすまない男で、彼の個別ルートの中で、「王位を継いだとき、俺はウォートリアの頂点に立った。しかし、俺はもっと多くのもの、大陸を手に入れたくなった」と本人が証言していた。彼がウォートリアの王になったら、もはや帝国が攻撃されることは間違いないだろう。


「王の後継をめぐって、第2王子シャルルと第4王子ルイが戦い始めました。既にウォートリア全土に対立が波及しています。全面的な内戦になるでしょう」


「ん?」


 フランツが続けた言葉で、私の思考が止まった。


「そうか、思ったよりも早かったな。ウォートリア王はそこまで弱っていたのか」


「手塩にかけて育てた継承者がいなくなって以来、一気に衰弱してしまったとか」


「王が死んですぐに内戦とは……事前にかなり準備していたのだろうな」


「内戦!? だ、第1王子はどうしたの? 「黒騎士」のベルトランは?」


 ようやく私の思考が追いつく。思ったことが口から出てしまった。


「ん? ああ、ベルトラン王子の話か」


 父が「ベルトラン」という言葉に反応した。


「第1王子ベルトランは……数年前に急に王位継承権を放棄して、別の国の貴族令嬢の所に行ってしまったよ」


「は!?」


(ベルトランが、ウォートリア王にならない!?)


「ウォートリア王国は隠そうとしていたから、ミリアが知らないのも無理はない。人聞きが悪い話だからな。なんでも、結婚が決まりかけていたその令嬢を横恋慕し、追っ手を片端から撃退して強引に出奔したらしい。それ以来、ウォートリアでは次の王位をめぐって緊張が続いていたんだ。ベルトラン王子が何を考えていたのかは分からないが、迷惑なことだ」


「え、でも帝国に攻めてくるんじゃ」


 もしかしたら、王がベルトランでなくとも、ウォートリアが侵攻してくるのかもしれない。なら、死亡フラグは解消されていない。


「ウォートリアが? そんなことがあるわけないだろう。ウォートリアは経済的に我が国にかなり依存している。それに今の状況では、攻めようとしても攻められないさ。うちの領地がウォートリアに接しているから不安なのは分かるが、内戦になったとしても帝国へは影響はないよ。ミリアも安心しなさい」


 父は諭すような優しい声で言ってくる。私は驚いて声も出せない。父は、何も話せなくなった私を見て、私が安心したと思ったのか、フランツの方に向き直ると真面目な顔をした。


「それでも、難民や亡命者が国境を越えてやってくるかも知れないな」


「はい、閣下」


「国境の見回りを強化しよう。領兵隊長を交えて会議が必要だ」


 そんなことを話しながら、父はフランツとともにホールを出ていってしまった。


 私はホールに1人、残された。



 ゲームの舞台となる学園は創設されず、攻略対象たちは1人を除いて死亡するか国外へ行ってしまった。もはや☆学のメインストーリーは欠片も展開されることはないだろう。しかし、私の死亡フラグになるはずの隣国は内乱で大混乱である。もはや、彼らが帝国に侵攻することはあるまい。


 原作はどこかへ吹き飛び、死亡フラグも消えてなくなった。


 隣国の混乱で仕事が増えてしまった父は、私に仕事を手伝ってくれないかと頼み込んできたので、何をしていいのか分からなくなってしまった私は、それを受け入れた。私は☆学のことを忘れようと、侯爵領の産業育成に力を注ぎ、農閑期の農民たちでも行なえるような手工業を奨励して、領民からますますの尊敬を得た。


 そして、私は15歳の誕生日を迎えた。


 帝国における貴族の成人はおおむね15歳ということになっている。成人すると、結婚と社交界への参加が許される。母から社交界での作法などを教わったが、正直あまり覚えていない。私のような高位貴族の子女は、普通は婚約者が先に決まっているものだが、私は婚約者候補だった皇太子が死んで傷心から寝込んだ、という話が広まったために、未だに決まっていなかった。


 とにかく、私は誕生日の翌月から、帝都に行き、夜会やパーティーなどに出ることになっていた。


 帝都行きの準備が着々と進み、あと数日で旅立つことになっていた日、自室で荷造りを進めていた私の元に父が興奮した様子でやってきた。


「ミリア! ミリア!」


「お父様、どうしたのですか?」


 父は右手をこちらに突き出す。そこには1枚の羊皮紙が握られていた。


「ミリア、お前に縁談だ!!」


「え?」


「驚くなよ……あのバドルス王国の国王ヨハネス2世からの縁談の申し入れだ、婚約じゃないぞ! 婚姻だ! やったなミリア!」


「は?」


(バドルス王国? どこそれ?)



これで、ミリアサイドの話は終了です。

次からは主人公は交代します。タグも増えます。


次話は2月2日午後9時に投稿予定です。


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