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悪役令嬢になってしまいました

連載作品は初投稿なので、そのテストも兼ねています。

1話なので、導入です。

 


「もしかして悪役令嬢になってる!?」


 私、ハーフロンド侯爵家の令嬢であるミリア・フォン・バーレンツは、自室で何とはなしに鏡を見ていたときに、突如として前世の記憶を思い出した。


 前世の私は、低賃金・長時間のブラック労働に耐える冴えない社畜OLだった。自宅アパートに辿りついた後に疲れから倒れこむように寝て、その後の記憶は無い。どうもそのまま孤独死したらしい。そんな前世の私はゲーム好きで、多くの乙女ゲームを収集・プレイしていた。


 ミリアは、そんな前世の私が気に入っていたゲームの1つ、『Star Color ☆ School Life ~ 亜麻色の帝国で』、略して「☆学」に出てくる敵役、いわゆる悪役令嬢という奴だ。


 帝国こと神聖ヴァレンディア帝国の上級貴族の娘として生まれたミリアは、皇太子の婚約者となる。しかし、傲慢で我侭三昧のミリアは皇太子から疎んじられ、それが更にミリアの性格を歪ませた。その振る舞いはひどくなり、周囲の人々にも危害を加えるようになった。


 ☆学はヒロインや攻略対象たちの学園生活がメインだが、ミリアは学園に入学した初日にヒロインに目を付け、取り巻きたちとともに散々にいじめる。しかし、時間が経つにつれて攻略対象たちがヒロインの味方となり、やがてミリアは学園から追放される。ここまでが、☆学の共通ルートである。


 学園を追放された後のミリアは、皇太子の婚約者の地位は維持されるものの領地に戻ることになる。しかし、領地に戻ったミリアを悲劇が襲う。隣国のウォートリア王国が大陸統一を目指して帝国へと侵攻し、ハーフロンド侯爵領は陥落。ミリアはその混乱の中で雑兵に殺されるのだ。


 その後は個別ルートに突入し、ヒロインは攻略対象と共に、ルートによって異なる方法で帝国の危機を救う。だが、今はどうでもいい。大切なのは、共通ルートの最後でミリアは確実に死亡する、ということである。



「どうしましょう……私、このままじゃ殺されちゃうわ」


 涙ぐんだ私の顔が鏡に写った。


 きらめく長い金髪、やや吊り上っているがパッチリと開いた眼、シミ1つない白磁の肌、まるで西洋人形のような容姿だ。つい、まじまじと見とれてしまう。ゲームに出てくるミリアは、金髪縦ロールで目は吊り上がり、いつも扇で顔の下半分を隠しているので、顔の全体は分からない。しかし、こうして見てみると、綺麗な顔をしていた。


 私が表情を変えると、鏡の中のミリアの顔も動く。それが面白くて、様々に表情を変えてみた。変顔をしてみても、鏡に写るミリアの顔は気品があって美しい。


「お嬢様、何をやっているのですか?」


 横から声を掛けられる。


 慌てて変顔をやめて、そちらを見ると、メイドのアナが少し引いたようにこちらを見ていた。


「貴方はアナね!」


「そうですが……」


 アナはモブとしてだが、原作にも登場する。彼女はミリアが生まれたときから仕えるメイドで、悪逆非道なミリアが唯一、心を許せる相手である。ミリアが他人に危害を加えるようになっても、アナだけはミリアに付き従い、その命令に淡々と従う。そしてウォートリア王国の侵攻の中で、ミリアと一緒に殺されるのだ。


 彼女の運命を考えると、また涙が出てきた。


「お嬢様! どうしたんですか!?」


 アナは、自らの主が突然泣き出したので、うろたえてしまっている。


 自分よりうろたえている人間を見つけると逆に落ち着く、と言うが、慌てふためくアナの様子を見ていたら、段々と落ち着いてきて、涙も止まった。そうすると、逆境に立ち向かおうという気持ちになってくる。


(私には原作の知識があるのだ。それを活かさなきゃ!)


 自分が我侭で傲慢な性格になることは回避できるし、ヒロインをいじめなければ学園を追放されることもない。ウォートリア王国の侵攻も、何とかして止めることができるんじゃないだろうか。


 幸い、私はまだ5歳、☆学のストーリーは私やヒロインが15歳になって学園に入学してから始まるので、あと10年間も時間がある。私が殺されることになるウォートリアの帝国侵攻までは、更に3年の猶予がある。これだけあれば、何かを変えることが出来るかもしれない。


 そう思ったら、やる気がわいてきた。椅子から勢いよく立ち上がる。ミアの体がビクリと震えた。


(頑張るのよ、私! せっかく生き返ったんだから、この世界で生き延びてみせるわ!)


 立ち上がって、心の中でエールを送っている私を、ミアは何か恐ろしいものに相対したかのような目で見ていた。


「お嬢様、大丈夫ですか? 拾い食いでもなされましたか?」


「アナ!」


「はい?」


「お父様は家にいるの?」


「旦那様なら執務室にいらっしゃい……」


「じゃあ、すぐに会いにいくわ!」


「え? あ、待ってくださいお嬢様!」


 私は自室のドアを蹴飛ばすように開けると、父の元へ急いだ。



 父の執務室に駆け込むと、父は机に向かい、書類と格闘していた。私は大声を上げて注意を引く。


「お父様!」


「ん? ミリアじゃないか、どうしたんだ?」


 娘がいつもは近づこうともしない自分の仕事場にやってきたのを認めて、父、ハーフロンド侯爵は目を丸くしている。


「今日はお願いがあってきました」


 改まって父に向き直る。父は「またか」というような顔をした。


「なんだ、ドレスか? 宝石か?」


 記憶を取り戻すまでのミリアは、贅沢好きな母の真似をして、いつも新しいドレスや宝飾品を父にねだっていた。さすがに、それほどに高額な物を頼むようなことはしていなかったが、うんざりしていたのだろう。投げやりな態度だ。


 しかし、今回の頼み事はそれとは違う。


「違います! 私に家庭教師を付けてください!」


「家庭教師!!?? ミリアにか!?」


 父は私の言葉に心底驚いたらしく、素っ頓狂な声を上げた


「そうです! 他に誰がいるのですか」


 ☆学のストーリーの中でのミリアは、取り巻きたちといつもお茶会やら何やらを開いてばかりで勉強している描写はなかったが、皇太子の婚約者であるだけあって、その能力は攻略対象たちには及ばないものの、全体的に高かった。それに、ミリアは学園から追放された後も、皇太子の婚約者のままだったのだ。実はすごく優秀だったのだろう。


 この世界を生き残るためには、最低でも原作のミリア並みのスペックを得る必要がある。その上で、性格を良くして、主人公と仲良くなれば完璧だ。


 前世の競争社会を生き抜いていたのだ(生き抜けなかったが)。多少の勉強には耐えられる。早いうちから優秀な令嬢になる準備をしておけば、後で空いた時間を生き残るための対策に充てることができるはずだ。


「うーん……まぁ、いいだろう。それで、何を学びたいんだ」


 父は戸惑ったような顔で聞いてくる。


「貴族の令嬢として必要な、あらゆる事です!」




次話は1月24日午後9時に投稿予定です。


感想や評価をしてくれたら嬉しいです。


この作品とは別の短編作品も同時投稿していますので、よかったら読んでください。

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