表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ちょうちんわん公がゆく  作者: イズクラジエイ
第二章 犬は星に願う
7/63

#006 『願い』


 西暦2029年11月3日 午後9時27分


「お前、どーしてくれんだよ。いきなりだったから、始末に昨日買った〈洗顔シート〉全部使っちまったぞ」


 厚手のやつで助かった。ほんとに。


 まさか、ズッ友宣言した直後に下の世話をさせられるとは思わなかったが、かばんに入っていた物で何とか事なきをえた。



「っておい、コラ! ネクタイを噛むな!」


 俺のお気に入りの水色の肉球柄のネクタイを咥えて離さない〈犬〉。


 こんなにはしゃいで、遊んでほしいのだろうが、俺の今の精神的余裕の無さでは、これを笑って受け入れるのは難しい。


 今日は仕事だったから、ワイシャツにネクタイだが、別にうちの会社は設立時からネクタイの着用義務はない。


 ただ、俺が好きでオシャレで付けているだけだが、そのネクタイが今、犬に噛み千切られ、ボロボロになっている。


 以前言った事は撤回しよう。


 こいつはきっと、頭が悪い〈犬〉だ。賢そうに見せかけている分、余計たちが悪い。


 犬は飼い主に似るというが、そんな所を咄嗟とっさに寄せてこなくても結構である。


 先が思いやられるぜ。


 もしかして俺が餌をあげたせいか?……まぁいいや、そんな事。




 あーそうだ、そうだ。犬にかまけて忘れていた。星に願い事言わないとな。


 えーと、願い願い。欲しい物?んー?ん?


 欲しいものは一杯、それこそ星の数ほどあるけれど。


 あると思うんだけど。


 周りから聞こえてくる皆みたいに〈一息で叫ぶ〉となると、なんだろうな。なんか絞れないな。



 俺、身長が163cmで微妙だから、平均目指してもう10cmくらい欲しい?


 いや、切実すぎるだろ。星に願うにしてはなんかロマンがないし、自分でそれを空に叫んでるの想像して悲しくなったわ。


 友達。……駄目だ。こればかりはなんか、他に頼ってはいけない気がする。友達を天に願うその時点で敗北者だ。絶対に駄目。


 んー不老不死とか?いやーそんなんいらんな。


 富か、地位か、名誉か。無難ー。いやコレ欲しいけど候補。保留!


 やっぱ力か。多少力強くても現代科学の前ではなぁ〈大いなる力には大いなる代償を伴う〉とか偉い人が言ってた気がするし。英雄とかめざしてないしな。変に目立つと恥ずかしいし。


 土地?世界の半分をもらって、世界征服的なーって半分しか征服できとらんやんけー。


 …………。


 空を自由にとびたいなって、それはドラ○もんに頼むわ!ベタかよ!



 ……やっぱ俺、馬鹿かもしれん。


 我ながら変態極まりない。容姿こそ整っているとは思うが、中身が凶悪だ。


 けっこうな自己中だが、そんな事問題にならない、コンマ数秒の瞬時にこの思考が出てくるこの〈変人〉さ。他人と考えがすれ違い、思考と言動の同期が取れず誤解され、まったく話が噛み合わないボッチの原因がここにある。


 俺の頭の中、一見高速回転してるようで、無駄情報が満載だわ。


 正確に測れているか怪しいIQ139も実生活にイマイチ役に立たない。思考整理が苦手にも程があるぞ。


 馬鹿と天才は紙一重とはよく言ったものだ。紙一重で馬鹿の方に測り針が指し示しているのが見える。


 えーい!バカバカ!俺のアホー!


 がんばれーがんばえーがんばー俺の脳みそー!




「よし!」


 俺は何かを思い出したかのように、懐から手帳とペンを取り出し、今考えたことをメモしだした。


 頭の中だけでは整理しきれない事もある。


 望みっていうのは案外、紙に書いたり、情報端末に入力してみたり、音声情報として口にしてみないと駄目なのかもしれないな。勉強になったわ。その勉強すら、すぐ忘れるからメモるんだが。




「……できた」


 俺は手帳を駆使し色々頑張って、5分くらいで一息で口に出来そうな〈願い〉ができた。


 手帳は相当使い込まれており、革製のカバーの中に数種の小さなノートがクリップや紐で結ばれ挟まっている状態である。これは海外製の手帳を買ってカスタマイズした物であり、俺のお気に入りだ。


 それのとあるページは元々白かったものが、びっしりと書き込まれ、遠目に見ると中央に向かって黒くなって見えるほど書き込まれ、その〈願い〉は完成した。



「はぁ……ふぅ」


 足元の〈犬〉を撫でながら再度周りを見渡す。


 外からみたら、「なんであのリーマン冬なのにあんなに汗をかいてるのかしら?」と思うことであろう。


 答えは、俺が本気を出すと、例え一歩も動かずとも、一瞬で異常にカロリーを消費して体が火照る〈変態体質〉だからだ。まいったか。


 普段ならこの症状は、非常に恥ずかしいので封印するべき所だが、もうそんな小さな事で臆する俺ではない。


 この〈願い〉を叫んだら、俺はこの混沌の渦巻く公園から逃げるようにダッシュで帰って、たまには朝まで沢山寝るのだ。キッチリ8時間以上寝るのだ。そう決めたんだ。


(お前がいなかったらここまで辿り着けなかったかもしれない、助かったぞ)


 そして、いぜん星降る夜空に向かって、深呼吸をし息を整え準備する。


「すぅ……はぁーーーすぅーー……」






「この野良犬のように! 自由に何処へでも行けて! 金銭的、時間的自由と! 輝かしい未来が欲しいっ!」








「わん! わん! わん、わん!!」



 やってやったぜ、と言わんばかりの勢いで叫んだ〈俺の声〉と足元の〈犬の鳴き声〉を発した時、偶然にもその瞬間、まわりが急に静まり返った。


 上空は大自然がまたたき、地上は人々で溢れかえる異様な夜の公園にその〈願い〉は響き渡った。



感想を貰えると、作者のイズクラジエイが喜ぶと共に今後の執筆の参考にさせて頂きます。


もし、少しでも拙作が『面白い』『続きが気になる』と思われましたなら、


ブックマーク、広告下にある【☆☆☆☆☆】マークを選んで応援頂けると執筆の励みとなります。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。それでは、またね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ