#061 『裏事情』
蒼白い閃光が結界を突き抜け、その向こうにあった森の木々も刹那に灼き斬って貫き、円形の貫通跡を残して静まり返る。
全てを消し去るかのような凄まじい光はその威力とは裏腹に触れていない場所は何も壊さず、ロアの炎とは違って山火事になるような被害も残していない。ただ、照らした先にあった岩も木もポッカリと穴があいていた。
「ど、どういうつもりにゃろ」
放火魔の猫は無事だった。
そう、俺はわざとロアに当てないように少しだけ狙いをずらし脅すつもりだったのだ。
自分で思ってたよりラジアルレイの閃光が太くて焦ったのは内緒だ。
本気で怒ってはいたが、10歳の子供を殺してしまっては寝覚めが悪い。
(あぶねぇ。猫殺してしまうとこだった)
「……おかしいにゃろ。貴様らも俺様を殺さないと自由になれないにゃろ?」
「ん? どういう事だ?」
「他の魔獣をぜんぶ燃やしたら好きにしていいって約束したにゃろ」
なるほど、そういう事か。……してやられた。
熱風で吹き飛ばされたバウムも無事だったようで俺の近くへ飛んで帰ってくる。
「大丈夫だったか。今の聞いたか? どう思うバウム」
「ウム。デミタスの入れ知恵だろうな」
俺の予想もそうだった。多分、魔獣同士の仲間割れを狙って軍が裏取引を持ちかけたに違いない。
そして精神的に幼いロアはそれをまともに信じた。それで辻褄は合う。
「おかしいにゃろ。おかしいにゃろ。俺様にもわかるよう説明するにゃろ」
「お前は騙されたんだよロア。俺たちを燃やしてもお前は自由にはなれない」
「ウム。なぜなら、フォビドゥンの存在は国家機密だ。お主が何か喋ると軍は困るのだ」
それは、そうだろう。
10歳の子供を人体実験して、こんな猫の化け物に変えてしまったのがバレたら暴動ものだ。
動物愛護団体からも叩かれ、人権侵害で新聞のトップ記事になるだろうし、保護者からは刑事訴訟で裁判沙汰だ。
この世界に新聞やまともな法制度があるかは怪しいが。
「こっかきみつ? 何が困るにゃろ? 何の事かさっぱりわからんにゃろ」
だめだ。子供以前にたぶんこいつ、そもそもあまり賢いタイプではない。
もっと砕いて説明する必要があった。
「ロア、事実だけを言うぞ。お前は悪いやつに嘘を教えられた。俺たち魔獣は追われてて、この少し先の国境を超えれば助かるんだ。おーけー?」
「……燃やしても自由に……なれない?」
「そう、なれない。騙されてる。だから、俺がお前を殺しても何も得はしない」
よし、これで納得してくれたか?
「……ひどいにゃろ」
そうだな。軍はこんな子供まで利用して利益を得ようとは。酷い世の中だまったく。
ロアはうつむいて先程からふるふると震えている。
さぞかしショックだったろう。
ただでさえ猫の魔獣にされた上にこの仕打だからな。
悲しむのも無理はない。
「……むかちん」
「ん?」
震えるロアの様子が何かおかしい。
「むかちーん! 怒ったにゃろー! 全部、ぜんぶ! もやしてやるにゃろー!」
「ダメだ~! バウムこいつただのアホだ。早く抑えろ!」
「ウム! 施設に居たときからこんな感じだったの」
「ピエーン」
わん公の逃走劇は前途多難であった。
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