#060 『狂乱の炎の海 後編』
これはまずいぞ。来る、奴の火炎が。
どうしたらいい? 何が最善か? 考えるんだ。
「ちょっとまてロア。俺たちの置かれている状況わかってるのかお前」
「そんなの知らないにゃろー。全部燃やせばっ! 解決にゃろーくらえっ! カイザーブレイズ!」
「ウムッ、やらせん!」
バウムが間に割り込み、その両方の羽で風を巻き起こす。
風圧でロアの放った火球は散ったが、火の粉とその熱風はそのままバウムに襲いかかり押し負けて飛ばされてしまう。
「バウムっ!」
俺を庇うかのように飛ばされたバウムを尻目に俺の中に怒りが込み上がってくる。
子供だと思って多めに見ていたが、もう、そうも言っていられない。
名実ともに降りかかる火の粉は払わなければならない。
「ちっ! 邪魔が入ったにゃろ。もう一度だにゃろー! カイザーブレイズ!」
バウムが時間を稼いでくれたお陰で、俺の能力を使う時間と移動する隙ができた。
ロアのせまい額の辺りから飛んできた炎は俺の体をすり抜け結界の外まで飛んでいき後方の見えない何かにぶつかって火柱を上げる。
「!? 何にゃろ? 当たったはずにゃろ?」
「このやろう!」
俺は回り込んで猫の魔獣の懐へ飛び込み押し倒した後、転がって掴み合う。
魔獣としての本能のまま牙をむき出し、お互いを睨んでもみ合う取っ組み合いになった。
「どうしてにゃろ? ちょうちん。何をしたにゃろ?」
「俺はレイト。お前の炎と同じような光を操る力がある。……屈折だよ。光の進む角度を曲げて目の錯覚を起こさせただけだ」
そう、俺は光をただ出すだけじゃなく、周囲の光そのものをコントロール出来る。周囲の光を一点に集めて光線が出せることがわかった時からだんだんコツが掴めてきた。
屈折でずらせる相手の見え方が俺側から把握出来ないので不安はあったが、攻撃を透かせる程度には錯覚を起こせたようだ。
きっとこの能力【ラジアルレイ】にはもっと可能性がある。そう確信した。
「くっせつ? 何を言ってるかわからないにゃろ!」
「アホ猫には理解できんか」
「また馬鹿にしたにゃろ。ゆるさないにゃろー!」
取っ組み合いのまま、肉球でお互いを殴り合う骨肉の争い。
絵面としては犬と猫が喧嘩しているだけなのだが。
ロアが俺のちょうちんの先に噛みつこうとしたので、咄嗟に巴投げで跳ね飛ばした。
しかし、ネコ科であるロアの身は軽く、華麗に着地して態勢を立て直す。
「やってくれたにゃろー。今度こそ全力で燃やしてやるにゃろー」
「しまった! つい……」
焦って投げたせいで距離を取られてしまった。
取っ組み合いで力負けはしてない事はわかったが、離れればあの凶悪な炎が出せるロアの方が有利だ。
「ピエーーーン!」
「!? エクレア、来るなっ!」
俺が危ないのを悟ってか、気がついたエクレアがピョコピョコ跳ねてこっちに走ってくる。
「あの時のうさぎも居たのかにゃろー。最大火力でまとめて燃やし尽くしてやるにゃろー!」
「やめろぉぉぉぉぉぉぉ!」
「フルパワーにゃろ! カイザーブレイズ!」
ロアの頭上で渦巻いた火の粉が集まって、視界を覆い尽くす今まで見たどの炎よりも巨大な火球が俺たちに目掛けて放たれた。
★ ★ ★ ★ ★
俺たちを狙ったロアの巨大な火球はそのスピードはともかく大きすぎて回避不能だった。無関係なエクレアを巻き込み無意味な戦いを強いられる。
こんな状況に心底怒りがこみ上げ、かつて無い感情のうねりが魔獣の本能を呼び覚ます。
「ほんっ当にいいかげんにしろよ……」
ほぼ無意識下でエクレアをかばい発動したその力は、ロアの最大火力の炎さえもすべて受け止めた。
「な……なんにゃろ? その青い光は。うそにゃろ……全然燃えてないにゃろ」
俺の灰色の毛並みはその一本一本までもが激しく青く輝いていた。
ロアの質問への答えは当の俺さえわからない。
とにかく、頭のちょうちんだけではなく、全身が光ってロアの炎を受けた上で炎からの光は吸収し、当たった瞬間は熱かったが、その熱波さえもすぐにかき消した。
「もう怒ったロア。どうなっても知らんぞ」
「おかしいにゃろ。おかしいにゃろ。そんなのインチキにゃろー」
「力に踏みにじられる屈辱を思い知れ。……ラジアルレイ!!」
覚醒した俺を包む光はその怒りを体現し、あらゆるものを貫く一本の太い光線となって眼前の猫に向かって放たれた。
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