#059 『狂乱の炎の海 中編』
「お……お前は」
「ん? 貴様は……そのちょうちん! あの時、燃えてなかったのかぁ。ちょうちんめ、こんにゃろー」
「何なんだお前は! いきなり飛んで来て、今度は野原まで一面火の海にしやがって」
「ロア様の新必殺技にケチをつける気かこんにゃろー」
だめだ、こいつ。やはり話が通じてない。目の前で何でも燃やす狂った猫がイキり倒している。
「ウム。ロアはまだ10歳の子供だ。例の13匹の魔獣のなかでも一番の無邪気。それゆえに凶悪だの」
「軍も軍だ。なんて実験しやがる。アホの子を兵器利用しようとしたのか? これじゃ、だたの無差別放火魔だぞ……もしかしてあの山火事も!?」
ここへ来る途中の山が燃えていたことを思い出した。
「にゃろー。さっきから聞いてれば、凶悪だの、アホだの、舐めてるのかこんにゃろー」
「ちょっと落ち着けよ猫。お前と俺達は同類だ。俺たちは軍の追手から逃げられる情報を持ってる。ここで争う必要はないだろ?」
「俺様にはロアって名前があるにゃろ。あと、猫じゃなくて虎にゃろ。ロアは百獣の王になるにゃろ!」
やっぱり話が微妙に噛み合っていない。だが、相手は子供だ。
前のように問答無用で燃やされて海に沈むのはごめんだ。
ここであの炎を食らっては浜辺のように火を消せる水もないし、考えただけでゾッとする。
これは切り口を変えて説得するしか無いと俺は頭をフル回転しながら話した。
「わかったロア。百獣の王にはなればいい。だが、王様は無闇に物を燃やしたりはしない。知らないのか?」
少しばかり賭けだけど、性格的に自尊心の強いと思われるロアの心に刺さるよう挑発していく。
「し、知ってるにゃろそれくらい。王者のふうかく? を見せつけるために必殺技の練習してただけにゃろ」
(どっか他でやってくれよ迷惑すぎんだろ)
と内心思ったが、ここは迂闊に刺激してはいけない。何とか話し合いで解決に持っていかなければ。
「王者になるために強くなりたいんだろ? だったら敵を増やすだけじゃ駄目じゃないのか」
ここでバウムが会話に入ってくる。
「ウム。にゃん公には好敵手が必要だの」
(おいサイコパス。話がややこしくなるからやめて!)
「うーん。たしかにライバルは強くなるのにいるかもにゃろ。今まで俺様の炎で燃えなかった奴はちょうちんだけにゃろ。貴様がライバルにゃろ」
なんか話の方向性がおかしくなってきたぞ。でも、いいのかこれで。
「ライバルでも何でもやってやるから。兎に角やたらに燃やすのはやめるんだ。とりあえずこの火を消せよ」
ロアは訝しみ、何か腑に落ちないような態度を取りながら、何か考えて目の前をうろうろと往復し歩いている。
思いついたように尻尾を地面に叩きつけると、周囲で燃え盛っていた炎が全て一瞬で消沈した。
「……わかったにゃろ。じゃあ、ライバルの貴様。ちょうちんを燃やす練習をするにゃろー」
駄目だ。こいつ全然わかってねぇぇぇぇ。




