#055 『存在理由と目的地』
「あの城へ行けば何か分かるのか?」
「ウム……多分な」
「今は廃墟なんだろ。誰も住んでない場所に一体何が有るんだ?」
「ウム、問題は住人ではない。城自体に秘められた魔力と城内部のの地下迷宮の存在が関係している」
バウムはそれから【古代魔城レーベンシュタイン】について話をしてくれた。
「私もフォビドゥンの研究室から更迭される直前で知ったことだが、デミタス総統は一般のギア兵器で突破できなかった魔法障壁の事の強く懸念して、より強い兵器開発を望んでいたのだ」
「強い兵器……ん? もしかして、それって」
「ピエー?」
俺はこの話だけでだいたい自分の置かれている状況が推測できた。
エクレアは落ち着いたのか。てか、そこに居たのか。
「ウム、そうだ。デミタスは私達、つまり強力な魔獣の力を兵器として利用し、魔法障壁を破壊したかったのだ」
「どうしてそんな力があるのにアラビカ王国だっけ? そっちが戦争に負けるんだ?」
「ウム、それはな。ロブスタが宣戦布告をした後、アラビカ国王が一般人への被害を嫌ってすぐに和平をもちかけたのだ。もし、あの国の魔道士全てがなりふり構わず抵抗したのなら、ロブスタ連邦共和国はきっと勝てなかっただろう」
話からするに、俺は異世界の冷戦に巻き込まれた上に、その戦火の鍵となる力の一端を担っているというわけだ。
先の戦争も総力戦で決着をつけたというより、傷が広がらないうちに白旗をあげて喧嘩をやめたというという事だった。
「アラビカ国王は随分と聡明なんだな」
「ウム。あとは、アラビカは国内の他の問題も多い。侵略戦争なんぞに関わっていられないはずだの」
「バウムの話だと、デミタスって奴が全部悪いように見えるぞ」
「ウム。和平条件次第で国は豊かになるが、方法が劣悪だの。魔法障壁を崩せる強力な兵器が出来れば、さらなる条件を突きつけるに違いない」
「そいつはひでぇ」
もちろん、そんな政治的なややこしい話に利用されたくはない。
というか、俺は元の人間に戻りたいだけだ。
もとの地球に戻りたいだけなんだ。
ちょっと犬の体に慣れて、気分的な余裕ができていたけど、納得できない状態に変わりはない。
戦地では銃弾が飛び交い、時折爆弾が近くに落ちてくる。いつ死ぬか分からないのに笑って生きている人々が居る。
そんな場面をネット動画で見たことがあるけれど、今ならその気分が分かる。
どんなに過酷でも、どんなに納得できなくても、希望を持って生きていないと何も手に入らないんだ。
「あの城は安全なんだな?」
「ウム、どちらにせよ亡命には、あの場所を経由せねばなるまい」
「わかった。いこう、そこに答えがあるのなら」
「ピエーン!」
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