#054 『聳え立つ魔城』
バウムに聞いた話では俺たちは魔獣の中でも特に優秀な上位種を元に造られた存在だ。
その力は時に人々の生活を脅かし、怒れる魔獣は自然を破壊して地形すら変えるという。
今まさに宝涙うさぎがその力を遺憾なく発揮して、涙とともに山が崩れていく。
【宝涙うさぎ】とはエクレアと融合した魔獣の通称だ。
俺にもインペリアル・アングラーという通称【深海の帝王】と呼ばれる魔獣の力が宿っている。
一歩間違えば軍の実験に加担し、場合によっては魔導兵器としてまさに国家の犬のように使われたのかもしれない。
「エクレア! エクレア落ち着けー!」
「ウム、これはまいったの」
「お前は落ち着きすぎだー!」
洪水となった涙の濁流はなおも加速し、通りの小さな木々をなぎ倒して、新たな道を作ってゆく。
大漁の水と一緒に押し流されて、くるくると周りながら変わってゆく景色に恐怖を覚えながらもどうにもならない。
「ピエーーン!」
「お前も流されるんかーい!」
自分で出したはずの涙に溺れながらエクレア自身も一緒に流され、山を下っていった。
★ ★ ★ ★ ★
結局何の打つ手も無いまま俺たちは山の麓まで押し流され、平地まで辿り着いてへたり込んでいた。
周囲は森林に囲まれているが、涙で流された部分が凄まじく不自然な痕跡として残っている。
こんなに目立ってしまっては追手の誰かに見つかるのも時間の問題だ。
それに、こんな能力がもしも悪用されたらと思うとゾッとする。
なんとしても国境の向こうまで逃げ切る必要があった。
「わん公、見ろあれを」
「なんだ? バウム」
バウムが指し示す方角の遠くに高くそびえる城が見える。
「ウム、あれが古代魔城レーベンシュタインだ。国境は近いぞ」
「古代魔城!? ……なにそれ?」
「ウム、戦争があった時にロブスタ侵攻軍が攻略を諦めた有名な魔城だの。今は誰も住んでおらず廃墟になっておる」
「なるほど。……どうしてそんな事を知っているんだ?」
「ウム。その住んでいたのが、例の双子のポラリスの魔女だったからだ」
「あいつら双子だったの!? あの天然インチキ魔法少女」
ここからでは俺の目にはハッキリ見えないが、それでも雰囲気からして嫌な予感しかしない。
それに、思い出すのも恐ろしいあの凶悪なはわはわ魔法少女がもう一匹居るとか。
「ウム。姉のカロは幼少の頃から天才的魔女だったが、戦争前に魔獣と戦って死んだと言われておる」
「じゃあ、俺が会ったのは……」
「ウム。頭が悪い方の妹ティピカだの」
(やっぱりー!?)
俺の動物的本能があそこへ近づくのはまずいと告げている。
魔女に弄ばれたあの時の記憶が蘇る。
無理やりテレポートで空に飛ばされたり、海中に沈められたりする恐怖はバウムには分からないだろう。
「なぁ、あそこへ近づくのはやめておかないか? 嫌な予感がする」
「ウム、嫌な予感? ……しかし、目指しているのはあの場所だ。過去の歴史から見てもあの城が一番安全だの」
「えぇーー!?」
「ウム。それに、今の状況を作った理由の一端があの場所にあるのだ」
過去に何があったか知らないが、この世界にも色々事情があるようだ。
俺はそれらに巻き込まれて物理的にも因果的にも流されココへ辿り着いたのだった。
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