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ちょうちんわん公がゆく  作者: イズクラジエイ
第三章 星の海と炎の海
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#051 『罠』



 たぶん奴にまともに殴られれば、俺の体はグチャグチャの敗北は必至。


 そんなビトーの鍛え抜かれた上腕二頭筋がはち切れそうなもり上がりをみせ、振りかぶって投げた岩は俺の掛け声が届く前にバウムに命中した。



「ゥヌ!?」


 微妙に声になっていないうめきと共に、一匹の梟と肩から下しかない動かぬ右腕は地面に落ちていった。



「おいおいおい! 俺の右腕を捨ててこようなんて卑怯だぞおい! 正々堂々かかってこいよ」



 確かに彼の言う通り俺達は卑怯な戦法を取っている。


 そもそも3対1であっちは人間で素手。軍の命令で任務遂行にあたっている真面目な兵士だ、一方こっちは軍から脱走した国家反逆罪の魔獣兵器だ。


 客観的には俺たちが悪者に映るだろう。


 不本意ながら人権はなくなってしまったようだが、生きる権利はある。


 こうなってしまった事を知る権利がある。


 いつの間にか絶対に負けられない戦いが始まっていた。


 そしてこれはチャンスだ。


 ビトーは落ちた腕を拾うために俺に背を向け歩いてゆく。


 俺の体は先程振りほどかれて態勢が悪いが、走ればたぶん間に合う。


 俺は落ちた右手に手を伸ばすビトー目掛けて全力で追い打ちをかけに向かった。



「わん公! 罠だ!」


「わかってる」


「遅い! かかったな! 犬コロめ! カウンターだ!」



 そう、罠だ。


 ただし、奴は勘違いしているようだがビトーが仕掛けた油断したふりの罠ではない。


 バウムが言ったのは俺たちの罠の話だ。



「ラジアルレイ!」


「うぉ!? くそ!」



 あと少しで良かった。


 ほんの少し隙を作って押し込むだけだ。


 俺は力を振り絞りビトーに向かって走った後、もう一度目眩ましの光を放ってビトーの腰が引けたのを確認した。



「俺は不死身だぁっ! こんな子供だましで俺は倒せんぞ!」


「エクレアー!」


「ピエーーーン!」



 俺とエクレアは丁度同じタイミングで眩しさでよろめいたビトーに体当たりをして突き飛ばした。


 作戦通りに。



「なん……だと!?」



 ビトーは転げまいと足を下げ踏ん張ろうとしたが、そこには踏ん張るべき地面がなかった。


 俺達は始めから相手をここへ落とすために疲れさせバウムは途中で邪魔されたが、おそらく計画的に拾った腕を穴の近くへ運んだのだ。



「落とし穴だとぉぉぉぉぉぉぉ!」



 敵が近づいてきているのを察知していた俺達が夜通し頑張って掘った落とし穴にビトーは綺麗に落ちていったのだった。



「よし、成功だ! エクレア、埋めろ埋めろ!」


「ピエーン」


「おい、おい! やめろっ! ぷえっ、泥をかけるな!」



 巧妙に近づかないと分かりづらいように掘った穴は時間の関係でそこまで大きくはなかったが、人が入るには十分な幅とちょっと手を伸ばした程度では這い上がれない深さにしてあった。


 計算していない偶然ではあるが、ビトーは現在片手な上に疲労しきっている。


 よく見ると不自然に丘の上にぽっかりあいた深い縦穴。


 そこからビトーが自力で出ることはかなわなかった。


 なんかまだ元気があるし、足掻いてて恐いので入念に土をかけて埋めていく俺とエクレア。



「卑怯だぞおい!」



 彼の言う通り卑怯極まりないのは否めない。



「やめろっておい! くそっ、息がっ! 死んだらっ! 化けて出るからな! 覚えてろ!」


「ウム。確かお主不死身なんじゃなかったかの。それに命の取り合いに卑怯も何もあるか」



 バウムの言う通り命の取り合いに卑怯とか言ってられない。


 3人寄れば文殊の知恵と言うが、3匹でもどうやらそれは適用されるようだ。


 そう、敵は超人と聞いていたので正攻法じゃ勝てないと睨んで考えついた作戦がこれだったのだ。



「大丈夫かバウム」


「ウム。痛いの」


 血まみれになってはいるが、岩の直撃で怪我をしているバウムも無事なようだった。



「これ、自分で埋めといて何だが……ちょっと残酷じゃないか?」


「ビトーはこうでもせんと倒せんからな。あとは粉々にするとか、燃やし尽くすとか――その辺に爆弾とか落ちてないかの」


 バウムは出会った時からだが、しれっと酷いことを言う。


 俺もこの異世界に来て熾烈な戦いに慣れてきてしまっているのが恐い。


 人間の時はこんな何かと戦うなんて行動は絶対できなかったが、魔獣になってしまった影響だろうか。


 考え方も微妙に変わってきている気がする。



「おいおい! このっ、人でなしがぁぁぁぁぁぁ!」


「もはや人では無いからな。ウム。」


「ピエーン」


(……やっぱ酷いわ俺たち)



 こうして俺たちは何とか筋肉ダルマ撃退に成功したのだった――


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