#047 『丘の上の戦い』
(……ほんとに大丈夫かよ 飛行船で見た限り相当強いぞあいつ)
ビトーの情報を聞いた上で戦う作戦を立てたが、それでも不安が残る。
俺たち魔獣はこう見えて普通の人間の何倍も力がある。
それをいともたやすく倒してみせたビトーを目の前にして正直震え上がっていた。
見たところ武器らしい武器は持っていないが、先の2人組の軍人の件もある。
まったく油断ならない。
「おいおい、もはや手加減はしないぞ博士!」
「ウム。それはお互い様だの」
ビトーが岩に停まっているバウムめがけて猛進していく。
「ウム。単純な奴め」
バウムはビトーに向かって得意の真空波を放つもそれは避けられ、タックルをするような形で両手でバウムに掴みかかった。
当然バウムとて素直に捕まるわけもなく、空に飛んで回避した。
「ぬん!」
ところがビトーは超人的な身体能力のジャンプで空に飛んだバウムの足を掴みかかった。
「何だと!?」
予想外の抵抗で捕まるバウムは驚きつつもそのまま飛び続け、ビトーが暴れるせいで高度が下がっていく。
(なんなんだあのマッチョ!? どう鍛えたらそんなに跳べるんだよ)
「おいおいおい、舐めてもらっちゃ困るな」
「離せビトー、ウム」
バタバタと頭上で暴れる一人と一匹。
「ピエーン」
事前の打ち合わせ通りエクレアは遠巻きに心配そうに見ている。
初手から予想外の展開に少し動揺したが、バウムが捕まったままでは困る。
「ちくしょう!」
俺も助走をつけて空へ跳びビトーの足に噛み付いた。
「ウム!? 余計なことはするなわん公」
「おいおいおい! いててて……離せ犬コロおい! あーおい! おいって!」
「ふぁ、はうむをはわへ~」(バウムを離せ)
夜明けの丘の上で上から梟に捕まってぶら下がる筋肉男。さらにその筋肉男の足に噛み付いてぶら下がるわんこというこれまたシュールかつ通常見ることのない構図ができあがった。
「ピエーン! ピエーン!」
エクレアはどうしたら良いか分からず、暴れながら滑空する俺たちの周りを跳ねて回っている様子だ。
「ウ、ウム、流石に重いの……」
「イテテ……わーった。わーったから。降りるからって! おい!」
ビトーはそう言って一旦バウムの足を離し、地面にドスという鈍い音をたて着地した。
しかし尚も俺は噛みつき続け、ビトーの動きを抑え込もうとした。
「離せって、おい! くそ犬コロが」
ビトーは蹴るような素振りで思い切り足を振って、その勢いで無理やり俺を振りほどき飛ばしたのだった。
「ぐぁ! うっ! うあぁぁぁ!」
凄まじい振り抜き速度に俺の体は地面を何度もバウンドしながら転がっていった。
「わん公ーーーー!」
「ピエーーーーン!」
それを見たエクレアがビトーに向かって例の超音波飛行で真っ直ぐ体ごとぶつかっていったのが見えた。
作戦には無かった行動だ。
俺も予定ではビトーには近づかずにバウムが低空飛行して撹乱するはずだったのだが、すでに最初の打ち合わせは無意味となっていた。
「ピエッ!」
突撃したエクレアはビトーに体当りした衝撃でお互い吹っ飛んだが、体が小さく軽いエクレアのほうが強く弾かれたような形となっていた。
よろめきつつも片膝をついて転倒する所を耐えているビトー。
大きく弾かれたエクレアをバウムのかぎ爪の足が空でキャッチする。
俺は横ばいなってに地面に伏しながらその様子を見ていた。
「ウム。大丈夫かわん公!」
「大丈夫だ。問題ない」
この丘の地面が比較的柔らかい為、ビトーに蹴飛ばされたものの思ったほど体へのダメージはない。
「おいおい、これだから魔獣相手はめんどくせぇ。だいたいすばしっこいんだよなぁ獣は」
「……仕切り直しだの、ウム」
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