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ちょうちんわん公がゆく  作者: イズクラジエイ
第三章 星の海と炎の海
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#043 『身上』



 バウムの話ではここはヴァルート海、通称、星海せいかいに面したシュレース地方という場所らしい。


 こんな状況じゃなければ見える山々の深緑も美しく、観光でゆっくりしたいような綺麗な場所だ。


 ここが故郷であるエクレアには悪いが、亡命のためこの地を早急に去らなければならない。


 内陸に向かって行けば山越えは必要だが、徒歩でも国境越えは可能な距離らしい。


 街の外は整備された道もあり、森の中を突っ切るより幾分進みやすかった。



「……俺たちこれからどうなるんだろうな」


「ウム。こればかりは私にもわからん。この目の予知は疲れるし、ほんの少し先しか見えないのだ」


「ピエーン」



 エクレアは俺たちの雑談を聞きながらも、道中でむしった草をモゴモゴと食べている。



(こうして見ると完全にただのうさぎだ……)



 辛いことがあっても腹は減るという事だろう。


 あんな事があって憔悴していたであろうエクレア連れて行くことをためらったけれど、かといって放っておくことも出来なかった。


 言葉は理解しているようなので、本人に問えばすぐに同行するような意志を見せてくれた。


 逞しい精神の持ち主で助かったというところか。



「よかったのかエクレア。……その――俺たちに付いてきて」


「ピエー」



 うさぎが未だに何を言っているか分からないが、承諾したと受け取っておこう。



「ウム。そこ娘は強い子だよ。借金のかたに軍に身売りしたのだ。その時、既に身寄りもなかったよ」


「借金で身売り……かなり過酷な経歴をお持ちで」


「ウム。そして魔獣との融合に適合し、4番目のフォビドゥンとなったのだ。確かまだ16歳の小柄な女性だったよ」


「16歳!? まだ子供じゃないか……ところでバウムは何歳なんだ?」


「私か? 私は66歳だの。ウム」



(結構年輩だったー。元博士らしいし、失礼な喋りしてたー)



「……いや、なんかすいません。ずっとタメ口で」


「ウム。気にするな。こんな姿と状況で話し方まで気にかけてられまい。今までどおりでよいの」


「ありがとう。そうする」



 俺のような20代半ばのノリとは違うなとは思っていたが、まさか還暦こえてる長寿の梟とは。



「ウム。それに、他の【造られし禁断の魔獣(フォビドゥン)】もそれぞれ過酷な人生を歩んでおる。皆抜き差しならない業を背負って魔獣となったのだ」



 犬、鳥、兎のファンタジーな動物大行進に見えるが、話の内容はなかなか重かった。


 旅にうさぎが同行しているだけで視覚的に癒やしがあるのがせめてもの救いだった。



「俺は元々27歳のリーマンで日本という国で働いていたんだ」


「ウム。リーマンというのが何か知らんが、別の世界から来たと。他にも例はあるが、異世界転移は珍しいの」


「あー何というか、あれだ。情報分析して人々の生活を豊かにする仕事だ」


「なるほど、同業者か。ウム」


「そういうカテゴリになるのね」



 こうして雑談をしながら目的地方面へ向かい、お互いの身上も分かってきた。



「そうだ、あのロアとかいう猫も元は人間なんだろ?」


「ウム。あれはかわいそうだったの。戦争孤児でまだ10歳くらいだの。精神にも異常をきたしておった」


「10歳!? 俺は小学生に殺されかけてたのかよ……」



 軍の人体実験【造られし禁断の魔獣(フォビドゥン)】計画とはなんとも恐ろしい実験だったか思い知らされた。


 バウムが軍を裏切って情報をリークしようとしたのも頷ける。


 彼から話を聞いて非道な実験の実情が垣間見えた。

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