#042 『交渉決裂』
俺はデミタスの持ちかけた理不尽な条件の取引を断り、一蹴した。
交渉決裂だ。
働くために居場所の自由を奪われ。
お金のために時間の自由を奪われ。
生きるためにお金の自由も奪われる。
人生は常に自由を求める戦いなんだ。
他人に自由を奪われて生きるのはもう懲り懲りだ。
それは今までもう十分経験してきた。
なにより、そんな俺の自由を奪いにくる目の前の男は信用できなかった。
「これ以上不自由になってたまるか! 俺は自分の生きたいように生きてゆく!」
「ウム。よく言ったわん公。私もその覚悟についてゆこう」
それを聞いた瞬間、バウムは回転しながら空に羽ばたき、真空波を放って通信機を真っ二つに切り裂いた。
「バウム! 何を!?……」
「ウム。もとより私たちに道などない! 生きるには前に進むしかないのだ!」
バウムの言う通り、初めから道なんか無かった。
「ピエーン」
「エクレア、すまない。でもあいつの言うことを聞いても、きっと助からない。わかってくれるか?」
「ピエ!」
「ウム。それじゃあまず、ここから離れるとしようか。既に居場所が特定されている」
「……そうだな」
ホログラムなんかのあれだけの通信ができる科学技術があるのだから、俺たちの居場所の特定など容易かもしれない。
それでも、ここに居続けるのは得策ではなかった。
「どこかに行くとしてなにか策はあるのか?」
「ウム。追手が来るまでに間に合うか分からないが、国境を越えようと思う」
「国境を超える!? ……それ、どうなるんだ」
地球では犯罪者が捕まる前に国境を超えて逃亡し、逮捕から逃れるなんて話を聞くけれど、その理論はこの世界でも通用するのだろうか。
そもそも俺たち何も悪いことはしていない。
……いや、バウムは軍の機密漏らしたなら国家反逆罪なのか。
俺たちはどうだ?
動物園から逃げた猛獣ってところか。
(だめじゃん。追われる要素バッチリ揃ってるやん)
「ウム。隣の国に私の知り合いが居る。少なくとも国境が超えられれば、正規の軍人は追ってはこれまい。私も色々やってきたが、亡命は始めてだの」
「亡命か……そいつは信用できるのか?」
「ウム。私の古い友人で優秀な魔導士だ」
亡命とは政治や宗教上の原因で、本国を脱出して他国にのがれる事である。
ドイツの物理学者アインシュタインも政治に関わり、その功績と名声が災いしてナチス・ドイツから迫害され、アメリカに亡命している。
国家に保護してもらえるならそれに越したことはない。
無事亡命できたとして犬、鳥、兎がどういう扱いになるのかは心配だけれど。
(しかし、友達が魔導士とは……やはり異世界に来てしまったんだな)
今も先の事は全くわからない。
ここに来たときから未来は何も見えない真っ暗闇だった。
せめて、このちょうちんで暗闇を照らし、自分で道を作り進むしかないんだ。
この時俺はそんな覚悟をしていた――
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