#040 『器の大きい男』
「なんだそれ」
「ウム。あれは通信機ギアだの」
野球のボールぐらいのサイズの黄色く丸いものが転がってくる。
「ふーん。こっちの世界の通信機は画面すら無いんだな」
トランスギアが魔法を使った機械というからこの世界の科学技術は相当進んでいると思っていたけれど、そうでもないようだ。
「ウム。最近開発に力を入れていた新型だの」
(最新技術でこれか。地球で言う2000年くらいの代物か)
「俺の住んでた世界ではもっと凄い通信機があったぞ」
「ウム。それは興味深い話だの。聞かせてもらおうか」
転がっているそれを詳しく見てみようと近づいた時だった。
黄色いボールが一瞬震えてピッという電子音を出し動き出した。
特に穴らしい穴もレンズも見当たらなかったが、ボール型の通信機から空中に人物の映像が映し出される。
「やー。ここに居ましたかバウム博士」
「ウムっ!?」
(ホログラムじゃん!)
前言撤回。
空中に映像投影であの鮮明さ、しかも小型化している。
ボール1個で双方向通信が出来るとは、やはりこの世界地球の文明より進んでいる。
というか微妙に文化が違う。
「だれ?」
目の前のホログラムには歳は30くらいだろうか。綺麗に整えられた顎髭が特徴的な紳士的人物の男が見えている。
どこかで見たような気もする出で立ちだ。
「やー始めましてレイト君。私はデミタス2世。この国を誰よりも愛する者だ」
「よく言うの……ウム」
「国王!?」
「やーあまりその呼び方は好きではないがね。皆は総統と呼ぶよ。ははは」
ホログラム越しに気さくに話しかけてくるその男は話しているイメージでは危ない人物ではなさそうだ。
「ウム。デミタス、お主一体何を考えておるのだ」
「やーやーやー。まて、まて、まて。私はレイト君と話しているのだよ」
「ウヌゥ……」
デミタス2世と名乗るその男はどうやら俺に用があるらしい。
物腰は柔らく優しそうだが、何かその裏にある怖さも同時に感じていた。
「やーところでレイト君。ビトーから聞いたが、君は珍しい力をもっているようだね」
「珍しい? 光るだけなのに?」
「やー。君は多分その固有能力の全貌を知らない。その器の小さい梟は放っといて私の所へ来ないかね? 悪いようにはしないよ」
「騙されるな! 分かるだろわん公。あいつはお主を利用しようとしておる」
バウムが話に割って入ってくる。
正直俺もこのデミタスという男なにか怪しいと感じている。
おおかた、この力を調べて何かに使いたいんだろうが、その場の待遇が良い保障など無い。
「やー。伝説の深海の帝王の能力が再現できるのなら素晴らしい事だ。是非とも協力してほしい」
俺は返答に困った。
この男が国の最高権力者で軍も動かしているのだとしたら、逃げ切ることが出来るのだろうか。
どう考えても難しいだろう。
ここは無難な探りを入れてみるか。
「……もし、断ったら?」
「やーははは。レイト君。きみの意見は尊重しよう。私は父と違って器の大きい男だからね」
少し考えて口を開こうとした時、朗らかなだったデミタスの表情はまるで別人のような冷たい印象に変わっていた。
「……じゃあ」
「断ったら勿論。消えてもらうよ」
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