表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ちょうちんわん公がゆく  作者: イズクラジエイ
第二章 犬は星に願う
4/63

#003 『突発性流星群』


 西暦2029年11月4日 午前8時00分


 イギリスの総合学術誌『ネイチャー』創刊から今日で丁度170年の時が経とうとしていた。


 この日の朝、宇宙科学に関して大きなニュースがあった。


 テレビ番組、情報サイト、それらに関わる者はこのニュースが歴史的大事件として錯綜し、騒然としていた。


 朝これを見た時、「これは仕事してる場合じゃねぇ」と思ったが、キッチリ仕事は最短で片付けた。さすが俺。




 【突発性流星群】。ニュースはこの聞き慣れぬ名称の情報でもちきりだった。


 通称【いぬ座流星群】この流星群が、〈こいぬ座〉と〈おおいぬ座〉の間の範囲に観測できると予想される事から新たな流星群の名称として急遽名付けられたそうだ。


 しかも、予想ではその規模がかなり大きく、観測史上最大の流星がみられると天文学者が分析し、海外の多くの専門家が情報発信している。


 これは5000万年に一度と言われる規模であり、テレビでは報道されないが、一部の専門家は最悪の事態も想定して対策が必要だと警笛を鳴らしている。


 情報では彗星か小惑星が接近して地球を掠めるだけだが、これの核はガス体、氷の塊でなく、高密度の岩石で出来ている可能性があるという。万が一これが地球に落ちるとすれば、見えるのは綺麗な流星ではなく、天体衝突メテオである。


 ニュースでは明るい話題となっているが、一歩間違えれば、パニック映画のような地獄絵図だったのだ。


 昨今では望遠鏡技術の発達や天文学の研究、情報累積の結果、隕石や流星の軌道や周期は予想できるとされている。

ところが、突発性流星群と呼ばれる最近まで彗星だった母天体から発生した未確認の星屑(微小な隕石の集まり)は前触れ無く地球に降り注ぐのだ。


 それは、現代科学において最新鋭の人工衛星による情報分析能力を持ってしても、昨日知る事がやっとだったという事である。


 そして、その情報が一般に出たのが今朝。


 暗い話題の多かった最近では仕方の無いことだが、今朝からテレビ、インターネットサイトやSNSではもうずっとこのニュースばかりなのだ。


 夜空を照らすという物理的にも明るい話題として、嫌でも目に入ってくる情報。近年稀に見るある種異常な事態で、世間はお祭り騒ぎとなっていた。


 今夜、地球に大量に降ってくるとされる星屑、その殆どは大気圏内で燃え尽きるため、一瞬の眩い光となり、流れ星となる。これを人々は大自然が生んだ一大スペクタクルとして有難がり、皆で見ようという大きなうねりが世界中で巻き起こっているのである。


 実際、星を見るのが好きな俺としても、激しく〈わくわくするイベント〉である。ただでさえ、滅多に見れない現象だというのに、先人が数えてきた一生分の星屑を数時間で記録更新できるんだ。


 そんな歴史的瞬間をこの目で見れると言うのだから、わくわくもするだろう。


 これを、後でテレビや動画で見たのでは勿体ないというものだ。


 幸い明日は仕事も休みだし、季節は冬で肌寒いけれども、今夜の東京は天気もいい絶好の観測日和だ。


 是非この目で見て、あわよくば「願いを叶えてもらおう」ぐらいの夢のある、子供に戻ったような気持ちにさせられる、そんな魅力がある話なのである。







 ★ ★ ★ ★ ★




 西暦2029年11月4日 午後5時20分



「やばい。……甘くなかった」


 冬のだだっ広い公園は予想以上に寒い。


 俺は別に寒さに耐性があるわけでもないのに、この季節でも上着を着なかったり、ワイシャツの袖を捲くって生活をする、ちょっと変な奴なのだ。


 仕事が早く終わったから来てみたが、星が見えるにはまだ時間がある。


 もういい大人だが、無意識にテンションが上がりすぎて、いつも休憩は近くの小さな公園なのに、今日はノリで都心の普段来ることのない有名で大きな公園までやってきたのだ。ボッチのくせに。


 公園に入って少したった頃、何かが足元に駆け寄ってきた。



(ん? 小型の犬がいる。白と灰色の柴犬の雑種だ。この公園って犬入れたっけ?)


 超、尻尾ふってる。まぁ無害そうだし、いいか。


 ふと、普通じゃない感覚がしたが「問題なし」と認識しそこまで気にしなかった。







(朝仕事したから忘れていたが、そういえば、今日は土曜だったな)


 周りを見渡すと、案の定カップルで溢れかえっている公園は、ボッチリーマンには非常に精神的ダメージがある光景だった。


 茜色に染まるロマンチックな夕暮れの公園では男女は当然いちゃつき、キスは当たり前、その先へ進んでるカップルもちらほら見える。


 そんなの都市伝説かと思っていたが、少子化が進む現代ではむしろ喜ばしい絵か。っていやいや、俺が見に来たのはそこじゃない。そうじゃないだろ。そう自分に言い聞かせ、孤独に慣れて久しく枯れたはずの涙が再び湧き上がるのをただこらえ、ひたすらに目線を逸らすことで現実逃避するのであった。


 無論ここへ来ている人々はそれだけではなく、例のニュースのせいで流れ星を見ようという人で公園はごった返していたのだ。


 一人公園で缶コーヒーを飲みながら佇んでいると、いきなりキモいオジサンに宗教勧誘されたり、見知らぬ女性に逆ナンされたり、その後もよく話を聞いてなかったが、何度か人に話しかけられた。


 めんどくさいが、ある意味色々新しい発見があり、これはこれで楽しい面もあるな。


 俺は職業柄、アイデアを記録する習慣があり、あとで分析したりする。


 左後ろのポケットから愛用の手帳と、胸ポケットからおもむろにボールペンを出した。


 メモっとこう。今日あった事と、あと「この公園はカオスだ」と。




(しかし、土曜の公園ではゆっくり考え事もできないのか)


 そして空は、夕映えから黄昏たそがれへと色が変わりつつあった――



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ