#036 『梟はかく語りき 中編』
「戦争……どこの世界も一緒なんだな」
「ウム。トランスギアという力を得てつけ上がった国民は高慢になり、かつて抑圧されていた魔法の国アラビカに対して宣戦布告したのだ」
バウムからこの国で起こった悲惨な戦争の話を聞いた。
この世界でも高度に発達した国が文化の劣る国を攻めて利益を得ていた。
そこに何らかの正義や大義名分があったにせよ、地球の歴史とほぼ変わらない。
力を得た者は、やがてそれを使って他を虐げる。
その人間の愚かな考え方は異世界のここ【ルビアレス】にあっても、その根底は同じであった。
「すると、俺たちはその戦争に巻き込まれたと?」
「ウム。そんなところか。正確にはその戦争の後始末だの」
「後始末?」
「ウム。戦争自体は表向きロブスタの勝利で終結した。しかし、それは魔法の国アラビカ国王が被害拡大を嫌い退いてくれたにすぎない」
「まだ争いは終わってないと」
「ウムそうだ。平均的な武力ではロブスタが上だが、高位な魔導士や知能のある上級の魔獣の戦闘能力はギア兵器の足元にも及ばない強大な力があった」
バウムの話で分かったのは、ここが【ロブスタ】という魔導機械で発達した国である事と、その機械トランスギアが普及してギアという略称で呼ばれている事だった。
しかも、俺達のような魔獣はそのギアよりも強大な力があり、各地で小競り合い、いわゆる紛争は絶えない状態だったのだ。
「それでバウムは魔獣の研究をしていたと」
「ウム。だが、魔獣を兵器にしたかった訳ではない。魔導を解明したいだけだった私はデミタスに利用されたのだ」
「でも、軍属なら元々協力していたんだろう?」
「ウム……綺麗事だけでは研究は続けられない。研究には資金がいるそれは確かだ。兵器として転用される可能性は私とて分かってはいた」
「じゃあ、なんでこんな事になってんだよ」
「ウム……裏切られ、裏切ったのだ」
バウムはそれから何故こんな事態になったのかを教えてくれた。
それは衝撃の事実であると共に、戦争や争い事から遠い位置に居ると思っていた俺にも怒りが込み上げてきた。
「ウム、軍は私の研究を勝手に利用し、禁断の人体実験フォビドゥン計画に踏み切ったのだ」
「俺たちがその結果か」
「ウム。最初の被験者は囚人だった。課題はあったが、研究は概ね成功した。それが段々とエスカレートし、倫理などお構いなしの強さと利便性を求めた魔獣兵器【造られし禁断の魔獣】が製造されていった」
「バウムは止められなかったのか」
「無論、人体実験には反対したよ。適正があるというだけで、善良な人間を魔獣にして利用しようなんて実験。適正があっても、実験に失敗した人間が大量に死んだのだ。こんな愚かな事があってたまるか。強制的にでも中止させようと動いたよ。だが、その研究の責任者だった私を軍は更迭したのだ」
「失敗したら死ぬのか……ひでぇ」
「ウム。私はそれから監禁に近い状態で軍の施設から動けなくなっていたが、隙をみて交流のあった外部の人間に軍の情報を流した。人体実験の内容が外に漏れたことを知った軍上層部は、私を口封じと他の見せしめに被験者して放り込まれ、10番目の【造られし禁断の魔獣】となったのだ」
もし『面白い』『続きが気になる』と思ったらブックマークと、広告下にある【☆☆☆☆☆】マークを選んで応援してね!




