#032 『復活の代償』
人間に噛み付くなんてあまり気は進まなかったが、こっちとしても命がかかっている。
俺は口を大きく開け、軍人の首のそれも喉元目掛けて飛びかかったのだ。
俺の牙は相手の体に突き刺さり、流れ出たその男の血の味がする。
「痛ってぇ! しくじったか」
「ンン!?」
首に狙いをつけたつもりだったが、ギリギリの所で赤いジャケットの男は右手でそれを防いでいた。
俺が噛み付いたのは喉元ではなく軍人の捲くりあげた腕の手首の部分だった。
このままずっと手首に噛み付いていても、埒が明かない。
後ろ足で赤い軍人の胸を蹴ってその場から飛び退き、再び大きな切り株の上に降り立った。
(ダメだ、この程度の怪我では致命傷じゃないぞ)
わざわざエクレアの音波で接近する音に気づかれないようにし、追尾爆弾をちょうちんから出した光のデコイで撒いたうえでの作戦。
しかも、爆音と砂煙が視覚、聴覚、触覚を撹乱し、俺の接近を察知されない事に成功した。
問題はここからだ。
『牙で噛み付く』という犬の体で出来る最大限の攻撃だと思ったが、その作戦は失敗した――
――失敗したと思っていた。
「ウム。でかしたわん公」
「ぐわぁーーーー!」
どういうわけか赤いジャケットの男は胸を手で抑え苦しんでいる。
赤いジャケットの男はそのまま地面に倒れ込んでしまった。
なぜなのか。
もしかして魔獣って毒でももっているのか?
「バウム、これはどういう事だ?」
「ウム。マイナス能力だろうの」
「マイナス能力?」
「ウム。デメリットな能力もある。おおかた復活できる代わり軽症で戦闘不能になるといったところじゃろう」
なるほど、それならば今までの2人の男の不思議な動きも納得がいく。
「マルコー! 聞こえてるかーーー!」
(しまった! 黄色いほうが復活してるぞ)
「ウム。懲ないやつらだの」
「毎回パラシュートで降りてるくのかよ……」
黄色いジャケットの軍人は転けて気絶していた所の全く同じ上空からゆっくりと降ってくる。
「停戦だ停戦。やはり魔獣三匹の相手は分が悪い」
相手の軍人は白旗をふって停戦を申し入れてくる。
あれだけ殺気に満ちて攻撃してきたのに何とも調子のよい話だ。
敵たる軍人からどう見えているか分からないが、バウムの魔力も切れているらしいしこっちも余裕がある訳ではない。
その申し入れに特に反応するでもなく、黄色い男に先制攻撃を仕掛けるでもなく、ただ傍観していた。
「任務失敗だ。出直すぞマルコ」
黄色いジャケットの男は地上に降りた後、赤い方の男の腕を肩にかけて逃げていってしまった。
(なんなんだ。あいつら……)
いきなり森で仕掛けてきて去ってゆく男たち。
結果的に復活する謎の軍人2人組を撃退できたのだが、何か腑に落ちない感覚だけが残った。
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