#031 『光と音』
昔から『尾を振る犬は叩かれず』と言うが、この場合はどうだろうか。
今の俺は人間と比べてもそれほど大きいわけでもなく、普通の柴犬サイズだ。
ようするにただの『かわいいわんちゃん』だ。
それが叩かれるどころか、ジェノサイドされんばかりの仕打ち。
バウムとの対話の感じからして話はできる。
そこまで常識はずれの思考をしている人物でもなさそうだ。
命の危険をさらすくらいならいっそ、降伏という手段はどうだろうか。
(今から尻尾ふってみるか?……いや無理だな)
「ウム。どうしたわん公。相手は油断してるぞ、早くやるのだ」
「いやいや、俺にはバウムみたいな攻撃手段がないんだよ」
「ウム。お主には爪と牙があるだろう。それにアングラーの力は光るだけじゃないぞ」
「無茶振りだっつーの」
「ウム。だが、このままでは捕まってしまうぞ」
確かにこのまま睨み合ってるわけにもいかない。
客観的には無害な動物に見えるはずだけれど、相手はそれを捕獲しに来ている軍人だ。
(捕獲?)
いや、いきなり火炎放射ぶっぱなされたという事は、生死は問わないという可能性もある。
……さぐりを入れてみるか。
「聞きたいんだが、軍人さん。任務とやらは俺達の捕獲だけなのか?」
「正直に答える義理はないが。……まぁいい。教えてやろう」
(教えてくれるんだ)
「任務の内容はアルバート博士を生きたまま捕獲。他の魔獣の抹殺だ」
(なんだよソレ!? 最悪の答えだよ)
つまり俺とエクレアだけは初めから抹殺する気で来てたって事か。
(どうりでバウムはマシンガンでも狙われていなかったわけだ)
「……聞かなきゃ良かったよ」
「俺もゾンビやら宇宙人やら色々戦ってきたが、喋る魔獣は始めてだよ」
赤いジャケットの軍人は火炎放射器を捨て、手を首にまわして鳴らし大きなサバイバルナイフを逆手に構える。
あの火では倒せないと思ってナイフで刺し殺そうというのか。
(くるっ!)
間合いを詰めようと動いた男に合わせて俺は例の能力で対抗する。
「ラジアルレイ!」
「そう来ると思ったぜ。」
俺はつよくちょうちんを光らせまた周囲を眩しい光で包んだが、相手は目を瞑って何かを背中から取り出した。
「エネミーチェイサー! 追尾する爆弾だ。これでお前も木っ端微塵だぜ!」
俺は光ると同時に距離を取っていた。
こっちとしても予想通り相手が光に対策してくるとは思っていたが、追尾する武器があるとは思っていなかった。
(いや、これはチャンスなのでは?)
相手は目眩ましに対して目を瞑って俺の居場所を把握していない。
「逃げるか? よし、もういっちょ!」
俺は再度ちょうちんを光らせ男の視界という探知手段を遮る。
俺は追尾してくる爆弾から走って逃げなら策を考えた。
うまくいくか分からないが、これしか手はない。
「エクレアーー聞こえてるかぁぁ! 思いっきり音を出せーーー!」
エクレアはこれを聞いてか少しして超音波で一帯を鳴き声で響かせた。
赤いジャケットの男はもちろん、俺も周りの他の音が聞こえなくなるが――
――これでいい。
「ピエエエエエエーーーーーーーーーー!!」
「なんだ!?」
目を瞑ったまま軍人は鼓膜が破れそうになる騒音に驚き、両手で耳を押さえた。
「よし、今だ!」
その後すぐに大きな爆発音が2つ鳴り響き、砂煙と塵で切り株の一片を吹き飛ばした。
超音波で爆発音は聞き取りづらかったと思うが、軍人は衝撃波と広がる砂塵で爆弾が起動したことに気づいた。
「ヒャッハー! ビンゴォ! 木っ端微塵だぜ!」
その時俺はエクレアの出した超音波に合わせてちょうちんから追尾爆弾の身代わりになるデコイ出し難を逃れていた。
そして、男が勝ち誇ったような勝利の台詞を吐くとほぼ同時に、油断しきっている軍人の首元に噛み付いた。
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