#030 『赤の再来』
(攻撃がすり抜けるだと!?)
「ウム……これは厄介だの」
バウムもそれが避けられたりした訳ではないことにすぐ気づいたが、その仕組がわからない様子だった。
赤いジャケットの男は地上に降りる寸前にパラシュートを切り離してスムーズに着地する。
「おい、来るぞバウム。どうする」
「ウム。私はもう、魔力ぎれだ。後はわん公が何とかするんだの」
「……まじかよ」
「さっきのキレの良い魔法はもう使えないようだな博士。噂には聞いていたが、本当に魔獣になったんだな」
「ウム。私はお主なんぞ知らんがの」
「俺はマルコ、そっちのドジ踏んでのびてるやつはターマだ」
バウムが戦えないと知ってか、赤いジャケットの男は悠長に語りだした。
「俺たち2人はただの特殊工作兵だからな。魔獣研究の第一人者【アルバート博士】にお目にかかれて光栄だよ」
「ウム。そんな事より私達を捕まえてどうするつもりだ」
「悪いが何も知らんよ。任務で来ただけだ……そんな姿になってまで逃げ回らないといけない事には同情はするがなっ!」
赤いジャケットの男が何かを取り出して攻撃の素振りを見せる。
「くるぞ! わん公」
「ふぇっ!?」
バウムは飛んで上空に退避していたが、赤ジャケットの男が構えて放ったのは火炎放射だった。
「フレイムショット!」
「あっちぃ!」
「ピエッ!」
反応したつもりだったが、見事に避けそこねた俺はまともに炎をくらってしまう。
背後に居たエクレアも火の粉がかかり、驚いて跳ねていた。
熱い、熱いけれども死んでしまうという程でもない。
あの猫の火炎と比べると大したこと無いというのが正直な感想であった。
「ちぃっ! さすが魔獣。これが効かないのか」
「いや、効いてるし熱いけどな!」
「ウム。やれ、わん公。ただの人間に劣るほど【造られし禁断の魔獣】はヤワではないの」
梟はそうはいうが、もし不死身だったなら非常にまずい。
こっちが普通の兵器で倒せないくらい頑丈でタフな体とはいえ、相手は軍人。
しかも、特殊工作兵って事はエリート戦闘員のはずだ。
それを素人が何とか出来るものなのか?
「バウム、そんな高い所飛んでないで助けてくれよ」
「ウム。さっきも言ったが、魔力ぎれだ。頑張れわん公」
「ピエーーーン!」
エクレアは火の粉がかかったことでパニックになり、相変わらず目から水分を放出し走り回っている。
さっきから気にかけているが、黄色いジャケットの男はいまだ伸びていて動きはない。
「プエッ!?」
「あ、また踏んだ……」
黄色い男のほうは無反応である。
あいつは今放っておいても大丈夫だろう。
だが、今は梟も兎も役に立たない。
目の前には火炎放射器を構えた赤い軍人が立ちはばかり、お互い睨み合っている。
ほとんど喧嘩もした事がないっていうのに、これは酷い対面だ。
(……どうすんだよ。これ)
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