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ちょうちんわん公がゆく  作者: イズクラジエイ
第二章 犬は星に願う
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#002 『チヨノレイト』


 西暦2029年11月3日


 日本では、科学の進歩が停滞ていたいしつつも、新たな技術革新を模索し、宇宙へ目を向けた試みが始まろうとしていた――




 俺の名前は千代野玲斗ちよのれいと


 随分と甘ったれた名だが、親が付けたのだ。ソコは俺のせいではない。


 同僚は何故か皆、名字ではなく下の名の〈レイト〉と呼ぶ。


 今年、27歳を迎えた自称、童顔と健康だけが取り柄のサラリーマンだ。



 職業は〈データサイエンティスト〉という、通称〈分析屋〉をやっている。


 〈ビッグデータ〉と呼ばれる大量の情報を分析し、顧客に対して利益となる必要な情報を提供、又はそれら使った提案、アドバイスをする仕事だ。


 10年前ならともかく、今となっては最早、特段とくだん珍しい仕事でもない。


 最近は、宇宙科学に関する情報精査の仕事が増え、元々薄利で仕事を受けていて事もあり、よりいっそう忙しくなった。


 昔に比べ、PC等の情報端末も誰でも安価で買えるようになり、情報技術推進法案じょうほうぎじゅつすいしんほうあんの可決により、軍事と企業の秘匿情報ひとくじょうほうや具体的個人情報以外は誰でも閲覧可能になり、同法案のお陰で、通信料金が全て税金で賄われるようになった。


 これにより便利になった面もあれば、問題も増えた。


 デマやフェイクニュース、意図せず作られた間違った情報も溢れ、これらの精査の為に俺達〈分析屋〉は日々、働いている。


 この職が増え、競争率が上がった理由としては、現在、極端な話、情報を適切に扱う〈知識〉と〈時間〉さえあれば、この仕事は誰でも出来るようになったからだ。


 つまり、俺は〈知識〉の部分を効率化する情報分析ノウハウが会社にあるので、〈時間〉を切売りする単純労働者って事になる。


 給与面に関しては勿論、その腕前によってピンキリではあるが、どこまで仕事を任されるかで変わるように思う。


 俺は自力でプログラミング開発も出来るが、色々あってリスキーだ。


 だから現在はコンサルティング中心に仕事をしている。


 本気で稼ごうと思うと、高度な技術力と幅広い知識が必要とされるが、努力の割に思ったより儲からないというのが本音だ。


 いや、儲かっている人も居るのだろうが、俺の能力不足なのか、環境に恵まれなかったのか、俺自身の年収は400万にも満たない。データサイエンス先進国のアメリカではありえない数字だ。


 時給に換算したら酷いことになるし、他のアルバイトの方が良いんじゃないだろうか?とすら思うよ。


 知っての通りだと思うが、日本では少子高齢化に拍車がかかり、とてつもなく老人が多い。


 情報分析の有用性がイマイチ認知されていなかったこの国においては、当然、需要が低いし、老人はソコへ大金は払えないという事だろう。






 ★ ★ ★ ★ ★






「はぁ……疲れた。今日も甘くないな」


 取引先との打ち合わせも終わり、仕事が全部終わったわけではないが、ある意味では自由な時間が出来た。


 タイムカードの存在しない我が社では固定給以外だとある程度の時間外労働を想定した補助金として〈みなし残業手当〉はあるが、基本NOT残業代である。


 年功序列、終身雇用の衰退した今、年収が増えないのは多くの会社が取り入れるこの雇用システムに原因がある。


 例え給料が安くても、競争率がある程度あり、代わりが居るなら当然、経営者は無理して給料を上げたりはしない。


 同じ条件で誰かがやるのだから。




(情報技術よりさ、先に労働環境整備の優先した方がいいよな。この国は)


 そんな事を常々思う。


 もちろん、政治家はその辺も頑張っているのだろうが、あと一ヶ月で2030年を迎えようというのに、未だに労働の現場はこんなものだった。


 未来はもっと、全てが発展して輝かしいと信じていた少年時代の俺が知ったら、さぞ、ガッカリする事だろう。



 今は好物の缶コーヒーを片手に今日も公園で最新の情報端末を片手に時間外労働をしている。


(この仕事、上司への状況報告が一番めんどくさいんだよなぁ。独立したいなぁ)



 俺はタバコも吸わないし、酒もほぼ飲まない。


 飲み会も遊びの誘いも断るつまらない奴だが、趣味もやりたい事も沢山ある。


 ただ、〈金と時間〉が無いだけだ。


 あ、勿論、彼女は居ない。


 過去に資格を色々取ってみても、それを活かしていなかったり、定期的に筋トレして強くなった気分になってみたり、色々やってみるが結局、何も極められていない。


 〈チヨノ レイト〉は、そんな、そんな残念な奴なのだ――





 ――先日、癌により親父が他界した。


 母は健在だが、当然これからも老いてゆく。いずれ介護が必要だったり、弱っていくこともあるだろう。


 さすがに色々思うところがあり、これを機に何か新しい事を始めようと、俺は模索を始める。


 いや、今までだって勉強は頑張ってきたよ。


 でも、何か違うんだよなぁ。


 本当に〈何かを変える〉って勉強とか筋トレとか、そういう事じゃない気がするんだよなぁ。


 やはり、ここは一念発起して起業か?


 とりあえず、結婚目指してボッチ卒業か?


 いや、わっかんねぇなぁ。何だろうなぁ。


 答えは見つからない。




 わからん。わからないから……とりあえずお家に帰って積みゲーするか?


 いや、いや、いや、明日も朝から仕事だから!寝ないと死ぬから!現実から逃げるな俺!


 そもそも、なんで、土曜に仕事入ってるんだよ。


 きょうび週6日労働とか流行らないっつーの!




「はぁ……疲れた。ご飯買って帰ろ」


 今日も、分析屋の癖に頭の中がぐるぐる回って、情報と思考整理が出来ない、いつものダメな俺だった――

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― 新着の感想 ―
レイトさん、しっかりした専門職の会社員さんだったのに……。 すみません。不覚にもチヨコレイトさんと見間違えました。 感想を書いている今日は2/14だからというわけではありませんが(笑 『面白い』『続…
[良い点] 一人称視点で書かれているので令斗の感情が直で伝わってきて面白かったです! [一言] 時間があるときまた読みます!
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