#028 『七色の涙』
ちょうちんから放たれた光は花火のように頭上で弾けた後、周囲一帯を照らし煙幕で包まれた森の姿を再び映し出した。
エクレアの雨のように散布された涙のせいで森の切り株の上に虹がかかる。
「ぐあっ! しまった照明弾か!」
赤いジャケットの男は付けていたスコープを投げ捨てて苦しんでいる。
軽装だがナイフやハンドガンのホルスターが見える。
統一性から見て、こいつもさっきの黄色いジャケットの男と一緒に行動している軍人だろう。
それと黄色い髪に男の額には白い鉢巻をしているのも確認できた。
片手で目を抑えて悶ている様子からみて、あの目につけていたスコープのような機械は暗闇でもよく見えるような対策だったのだろうが、それが仇になって光をもろに目に受けてしまったようだ。
「ウム、隙ありだの」
すかさずバウムが動けなくなっている男に先ほどと同じ真空波の攻撃をおみまいする。
「うぐぁ!」
今度ははっきりと見えたが、なんとも恐ろしい。
開いた梟の羽根から放たれた風圧は男の赤いジャケットごと切り裂き一筋の亀裂が体に刻まれる。
すぐさま切り口から飛び出す鮮血と倒れ込む軍人の男。
倒れた後には、先程まで白かった鉢巻がすでに赤く染まっているほどの出血であきらかに致命傷だった。
(鳥の魔獣はとんでもないな……)
「マルコォーーーー!」
そこへさらに何者かが叫びながら空からパラシュートで下りてくる。
振り返ると頭上のパラシュートの男は先程倒したはずの黄色いジャケットの男だった。
同じサングラスもかけていて俺の放った閃光の影響も受けてない様子だった。
「ウム、あいつまだ動けたのか」
(動けた? 地面に倒れていたのにパラシュートで降下してくるのは変じゃないか?)
俺は整理しきれない疑問がふと頭をよぎったが、ゆっくり考えてる暇はなかった。
「くらえ! ヘビィマシンガンだ!」
黄色いジャケットの軍人はどこからともなく大型の機関銃を取り出し、狙いが定まらないはずの空から辺りに弾丸をばらまき出した。
「ビエーーーーーー!」
黄色いジャケットの軍人は一番近かったエクレアを標的にしたようで、ブレてばら撒かれて入るが概ねそこへ向かってマシンガンの銃口を向けている。
マシンガンの弾丸はエクレアの側を掠め、より一層泣き喚いた兎の通った後にはさらに水たまりが増えていく。
(なんとかしないと……)
走り回っているエクレアには今の所、弾は当たっていないようだったが、いつまでもただ逃げ回っているわけにもいかない。
上から弾丸の雨、下は兎が降らす雨で洪水。
ひどい有様だ。
策を考えていると、黄色い方の軍人はパラシュートが途中の木の枝に引っかかり、切り離して地上に着地した。
「うあ、なんだ? 地面がぬかるんで……滑る!」
泥に足をとられ、そのまま尻もちをついて後ろへ倒れ込み男は転んでしまった。
ブーツが蔦状の植物に絡まり、手をついた地面もぬかるみで滑ってもがく男は泥まみれになってゆく。
「うぐぁっ!」
そこへたまたまエクレアが泣きながら突っ込んで頭を踏みつける。
「ピエーーーーー! プエ? ピエーー!」
エクレア自身も違和感に気づいたようだが、男を踏みつけた後、さらにそのまま爆走している。
あれで致命傷になるとも思えないが、なぜか黄色いジャケットの男は気を失っていた。
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