#027 『煙幕』
「ウム、やったか」
落ちてきた軍人は確かにあのビトーではなく、サングラスをかけた黄色いジャケットで細身の男だった。
バウムの攻撃が致命的だったのか、男はピクリとも動かない。
少しだけ近寄って確認しようとしたその時、男の手から何かが転げ落ちた。
「わん公! 危ない下がれ!」
「わわわ、やべぇ」
男の手から転がったのは柄の付いた細長いハンドグレネイドだった。
すぐさま耳を劈く爆発音がして森の鳥たちが一斉に空へ飛び立っていく。
「ピエーーーン!」
爆風におどろいで逃げ惑い泣き出すエクレア。
相変わらずその体のどこからそんなに涙がでるのかってくらい、そのつぶらな瞳から滝のように水を撒き散らしている。
幸いバウムのおかげで気づくのが早くダメージは無かったものの、ハンドグレネイドの爆発の煙であたりが見えなくなっていた。
思ったほどの威力じゃなくて助かったが、問題はまだ残っていた。
気がつくと、何か他にも周りの色んな場所から煙が立ち上がってきている。
「ウムっこれはっ! 煙幕だ! わん公気をつけろ! 敵はもう一人いるぞ」
どうやら、さっきのハンドグレネイドの爆発にあわせて煙幕弾が周囲に打ち込まれていたようだ。
「まじかよ。ちくしょう」
そんな会話をしている内に今度はスコープのような物をを付けた赤いジャケットの男が森の茂みの中からナイフを持ってバウムに飛びかかってきた。
さっきの煙幕で視界が悪い中、どさくさに紛れて攻撃してくるこのタイミング。
完全にプロの軍人の動きだった。
なんとか近く数メートルの周囲のみ見えるような状態。
バウムはその男の攻撃を飛んでかわしていたが、相手も手練のようで初撃を外した後、飛べるバウムを見て不利と気づきすぐに後退していった。
「ターマを一瞬で仕留めるとは、魔獣め! やはり一筋縄ではいかないか」
煙に紛れて敵の軍人が喋りかけてくる。
「ウム。こっちにはこっちの事情がある。簡単にお前たちに捕まるわけにはいかん」
「こっちも仕事なんでね。博士さんよ……覚悟してもらおう」
「来るぞ、わん公」
バウムのこの落ち着きよう、確実に戦い慣れしている。
とても博士の言動とは思えないが。
しかし、俺は戦いはおろか、命のやりとりなんて経験のない元はただのサラリーマンだ。
そんなノリには到底ついていけない。
「もう嫌だ! こんなの」
「ウム。泣き言をいう暇があったら、この視界をなんとかしてくれ。できるだろう?」
確かに煙で視界が悪い。
バウムの固有能力なら見つけられそうなもんだが、バウムの目の力は使い続けられないようだ。
今、俺の光る能力が必要だった。
(頼むぞ、いい感じに光ってくれ)
「ゆけっ! ラジアルレイ!」
俺は亡霊を誘導した時のデコイの要領で頭のちょうちんから光の玉を切り離し、頭上に少し飛ばした後に弾け散るようなイメージで光を放った。
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