#026 『神の全能の目』
(なんだ? 何かあるのか? 何も匂いはしないぞ)
何かが来るような気配は感じなかったが、俺の認識が甘かった事がすぐわかった。
「ピエ!」
「上か!?」
急に現れた気配に気づいて上を見上げたが、一瞬の影が見えた後その姿は下へと降り立った。
切り株の年輪が幾重にも巻いたその中心に鎮座するのは新緑の羽根に身を包んだ一匹の梟だった。
「ウム。相変わらずぼさっとしとるの、わん公」
「バウム! 生きてたのか!」
「ウム。魔獣がそう簡単に死ぬことはないのだ」
「ピエー」
「ウサ公も元気だったようだの。ウムウム」
最後にバウムを見た時の血まみれに姿に絶望を感じていたが、今はそんな感じは微塵もなくすっかり元通り怪我もないようだった。
「無事で良かった。でも、よくここに居ると分かったな」
「ウム。そういう能力だからの」
「やっぱり視覚に関わる力なのか」
「ウム。固有能力|神の全能の目《 アイ・オブ・プロビデンス》。遠隔視、透視、予知の複合能力だの」
「どうりで……」
バウムにも俺と同じように固有能力がある事がわかった。
もし全てを見通せるのだとしたら、こんなに便利な能力は他にない。
これであの時、先に何があるのかや。どうなるのか知っていたかのような振る舞いの謎が解けた。
「ウム。ところでわん公。気づいておるのか?」
「なにが?」
「ウム。やはり、気づいてないようだから教えに来たが、わん公。お主、さっきから狙われておるぞ」
「なん……だと……!? 他に何か居るような匂いはしなかったぞ」
「ウム。甘いの。相手はプロだ。獣相手と分かってれば嗅覚対策くらいするのだ。ウム」
匂いがしないように消しているというのか。
追手がそんな事をするとは思ってなかった。
よく考えれば、その可能性に気づけたかもしれないのに、完全に想像の上をいかれていた。
「どこだ?」
おれはすぐさま周りをキョロキョロと見回すが、狙っていると言う追手は視界に入らない。
「ウム。ロブスタ軍の追っ手だろうが、今隠れている場所までは知らん。この能力は使うと疲れるからの。ウム」
全然気が付かなかったが、どうやら俺はずっとつけられていたらしい。
「あの筋肉ダルマのビトーって奴か?」
「……違うの。あいつなら隠れて様子を伺うなんて真似はせん。単純馬鹿だからの。ウム」
だとしたら別の追手の軍人って事か。
どちらにせよ、危険な状態に違いはない。
森の木々から聞こえる鳥のさえずりと茂みの虫の鳴き声の中、忍び寄る見えない敵。
正体のわからない敵ほど不気味で怖いものはない。
狩られる獣の気分とはこんな感じなのだろうか。
なにをされるか分からない人間への恐怖。
今、巨大な切り株の年輪の上で狼狽えながら周囲の木の隙間を首をめいいっぱい動かして見回す。
梟のバウムも同様に首を傾げて周囲を観察しているようだった。
梟の目は鳥類の中でも特に大きく、視覚は優れているものの眼球を自由に動かせない。
ここが他の鳥とは大きく違う点である。
その為、首ごとこまめに回転して動かし周囲を確認するのだ。
「何か見えたか? バウム。」
「ウム。わん公、私が喋り終わった後、3秒後に右へ避けるのだ」
(何? 3秒後!? すぐじゃねーか)
俺はバウムの言われたとおり、右へ反復横跳びの要領で飛んで移動した。
その時、ほぼ同時に元いた場所へ何かが飛んできて切り株の年輪を削る。
(狙撃!?)
「ウム。そこだっ!」
バウムは狙撃された瞬間、間髪入れずにその何かが飛んできた場所へ向かって羽根を広げ、風を巻き起こし真空波のような物を飛ばしていた。
何が起こったのか理解するのに少しかかったが、意味がわかった。
その後、すぐ小さく唸り声をあげ木の上から落ちてくる軍人が見えた。
(……この梟、強えぇ!)
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