#023 『命からがら』
――まただ。
またこの展開だ。
全身火だるまのまま海へ落ち、そのまま沈んでいく俺の頭を駆け巡る思い。
自分の考えたことなのか、誰かが話しかけているのか。
たまに起こるこの現象俺の『脳内会議』が始まった。
別に二重人格というわけでもないけれど、自分の中で思考を整理するために、沢山の自分が意見をだして議論する。
「おい、何やってんだよお前」
「言っても仕方ないだろう、もう済んだ事だ」
「あんなウサギなんか助けようとして命張るなんて、お前らしくもない」
「自分でも分からないよ。こんな事、今までなかったからな」
「だいたいお前、仕事ばっかりしててろくに他人の事なんて考えてなかっただろ」
「変わるんだよ。変わろうとしなければ、何も変わらない」
「まてまて、お前ら。今問題はそこじゃないぞ」
「どうすんだよこれ、死ぬぞ?」
「死ぬ? 俺が? どうして?」
「だって沈んでんじゃん。火傷したままで」
「マジかよ」
「とりあえず生きるぞ。話はそれからだ」
ほんの一時の事だけれど、会議は結論に至った。
頭の中の俺はすぐに考えたがる、一瞬で沢山のことを。
だが、考えるだけじゃダメだ。
何かしら結論を出して動かなければ、人間は生きていくことは出来ない。
(……もう人間じゃなかったか)
犬だろうが、魔獣だろうが同じだろう。
まず、生きていなければ考えられないし、ちっぽけな願いや願望も叶えられない。
(生きたい!)
心も体も沈んでる場合ではない。
目的は沢山あるんだ。
自分の思考なのか、動物的本能なのか、俺は浮上しようと必死でもがいた。
ボロボロの体で、完全に思い通りには動かない手足を動かして。
「ぶはぁっ。はぁっ」
水中に適応できる魔獣の俺に意味があるのかは分からないが、地上の空気は吸える。
息も上がるし、お腹も減る。
光るしか能のない犬は全身火傷しつつも、生きていた。
どれくらい海でもがいていたのだろう。
時間の感覚もおかしくなっていた俺の体に鞭打つように、無理やり浜辺に体をはいずり上がり、少しして、ふらふらと歩いていった。
(エクレア……どこだ)
そこにはエクレアも、あの燃える猫の姿も無かった。
今は疲労のせいか、微細な匂いはよくわからない。
火の海だった海岸沿いも今は落ち着いており、強い硝煙のような匂いだけが残っている。
そこには燃えて焦げた貝殻と、何かが燃えた後の黒い塊から、そこらじゅうで狼煙のようなものが空へ伸びている。
俺は歩くのもやめ、ただしばらく呆然と、立ち上がる白い煙を見上げる事しか出来なかった――
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頑張って完結までもっていくよ。感想まってます。




