#021 『炎の猫 中編』
「おい貴様、アレだ。アレにゃろ、お前も魔獣だにゃろ? さっきの強い魔力はお前にゃろー?」
(……にゃろ? また変なのが出てきやがったな。ちくしょうめ)
目の前の特徴的な真っ赤な筋と熟したみかんのような体毛色の猫は俺より小柄だったが、随分横柄で変な口調で詰め寄ってくる。
「こんにゃろー、無視かよ。アレだ。どんな技だそれ、どんな必殺技もってんだ。んにゃろ、見せてみろにゃろー」
(……喧嘩ごしだなぁ。めんどくせぇぞこれは、また喋れないふりしとくか)
「ワン! ワンワゥ!」
「なんだ貴様、アレか? 強い魔獣じゃねーのかにゃろ。てっきり同類かと思ったにゃろ。がっかりさせんなにゃろー」
「ウゥゥー」(いけるか? だませてるかこれ?)
俺はなおも人の言葉は発さず、ただの犬のふりをする。
「なんだアレかー。低級魔獣かにゃろー。このロア様の新必殺技を見せてやろうかと思ったのに、つまらんにゃろー」
勝手に独り言を喋りだす虎猫だったが、どうやらこいつも魔獣のようだ。
しかも、人語を理解して話す上にあの炎だ。
この派手に振りまいた火の粉……
おおむね、こいつは火を操るような能力を持つ猫型の魔獣といったところか。
「アレだ、この辺で強い魔力を感じたにゃろ。貴様じゃないなら、何かしらねーかにゃろ?」
「ウー……ワン!」
「アレか、俺様の言葉もわかんねーのかにゃろ。使えねー魔獣だにゃろ。それによく見るとお前すげー弱そうだにゃろ」
(言いたい放題言ってくれる。なんか知らんが、こいつ、むかついてきたぞ……)
「お、アレだ。あそこにもなんか弱そうな魔獣が居るにゃろ」
(エクレア!? まだそこに居たのか)
「そうだにゃろ。折角だから、貴様にのロア様の新必殺技を見せてやるにゃろ」
(なんだと!?)
そう言って、ロアとかいう猫の魔獣はその額の上に小さな火の玉を作り出した。
ここに猫が来たときのように、風を巻き上げ、轟音を立て火球はさらに大きくなっていく。
異変に気づいたエクレアも、必死に向こうへ逃げているが、足元がおぼつかない。
最初は野球のボールくらいの大きさだった火球も、今はバスケットボールよりも大きく燃え盛っている。
「ハハハハハッ! 見るにゃろ! この俺様の編み出した必殺技!」
「ワン! ワン、ワン!」(まずいぞ! エクレア早く逃げろっ!)
猫の作り出す火球は、周囲の空気を吸い込むように渦巻く凄まじい勢いだった。
あんな炎で焼かれたら、さっきの枯れ枝のように消し炭なってしまう。
さきほどの体験から肌でそう感じ取った。
「くらえにゃろ! カイザーブレイズ!」
(だめだ! ぬあ! ちくしょー!)
この時、深くは考えていなかった。
離れていてもなお、この身を焦がす熱さを感じる。
この炎を操る猫に恐怖を感じていなかったと言えば嘘になる。
だけれど、そんな自分の危険より、エクレアがあの炎で焼かれる事の恐怖が上回ったんだ。
咄嗟の時に「体が勝手に動いた」というのはこういう事を言うのだろう。
俺は思わず、赤い猫に対して横から思い切り体当たりをしかけていた。
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