#020 『炎の猫 前編』
嵐が急に来て去っていくような、そんな忙しい、わん公生活。
こっちの世界へ来てから、ずっとこんな調子なものだから、感覚が麻痺してきてるのかもしれない。
全てが光と共に過ぎ去った後、あっけに取られる俺は浜辺の内陸の森の方を眺め、へたりこんでいた。
(何だったんだいったい……)
随分と浜辺は穏やかになったが、森の方では鳥たちがさえずり、この世界にも他の生き物が生活しているんだと実感させられた。
「ピエー」
浜辺の方へ目をやると、砂の中から身震いをしながら出てくるウサギの姿があった。
(エクレア、あいつも無事だったんだな……)
ウサギはもともと、穴の中に住む種類が多い。
外敵から身を守るため聴覚が発達し、危険を察知し本能的に隠れて生活する能力が高いと思われる。
普段から無駄に光ってる俺と比べたら、エクレアの方が生存スキルは確実に高いだろう。
(あいつはもう、俺と一緒じゃないほうが安全かもしれないな。俺はすぐ目立って敵に狙われてしまうからな……)
そう考えてる最中、エクレアはこちらに気づき反応する。
「ピエ! ピエー!」
「エクレア! 大丈夫だったか」
ほんの数時間離れただけのエクレアとの再開に少し安心したが、それすらも甘かった――
「来るな! エクレア! また何か来るぞ!」
「ピエ!?」
この何度も苦しんだ事態で学習した俺は周囲の匂いに敏感になっていたのが幸いした。
また獣系の匂いだ。
風に乗ってわずかに感じる何かが近づいている。
(なんだこいつ!? 速いっ!)
トラベラーの時とは違い匂いを察知してからそれが強まるまでが異常に速い。
風向きのせいだけではない。
匂いの元が近づいてきている感覚だった。
「急げ! 隠れろエクレア! いけ!」
「ピッピエェ」
俺の嫌な予感は当たる。
そう思い、急いでエクレアをこの身から引き離した。
俺自身もエクレアから少しでも離れようと疲労で重い体を引きずるように浜辺を移動する。
(あっちに藻や漂流した枯れ木が山積みになっている、俺もあそこへ隠れよう)
そのつもりで移動していたが、完全なる誤算があった。
そして、その匂いの元凶は突風で耳元を何かが掠めるような轟音と共にすぐさま俺たちの前に現れた。
「熱っつっ!」
周囲が一瞬にして火の海になり、乾燥した海藻はすぐさま燃え尽き、星型の貝殻が焦げ燃え上がっている。
山積みの枯れ木も何かが勢いよく地面を叩きつけて竜巻のように上空へ昇り、周囲へ散らばって火の粉が一帯へ降り注ぐ。
「グルゥゥー……」
(赤い虎模様の猫……あれが匂いの正体か)
俺たちから少し離れ、その炎の竜巻の中心には、一匹の赤毛の猫がこちらを見て威嚇するように構え立っていた。
もし『面白い』『続きが気になる』と思ったらブックマークと、広告下にある【☆☆☆☆☆】マークを選んで応援してね!
感想も待ってます、頑張って更新します!




