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ちょうちんわん公がゆく  作者: イズクラジエイ
第三章 星の海と炎の海
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#017 『魔女のおもちゃ』



「はわー! 星の海を超え、はわっと参上! ティピカが来たからにはもう大丈夫でしょうよー!」



 なにやら俺たちの前にまたヤバそうな奴が現れた。


 というか、このピンク髪モスグリーンのパーカー少女、どこかで見たおぼえがある気がする。


 その強烈なチート魔法少女におもわず声を出しツッコミを入れそうになったが、俺は踏みとどまった。



(なにか嫌な予感がする……ここは様子を見よう)



「はわ! じぃじが〈たすけてくれー〉って言うからきてみたら。わんちゃんがぴんちだったでしょうよー まにあってよかったでしょうよー」



(じぃじ? この状況を知っている? もしかしてトラベラーの事か?)



 予測でしか無いが、なんとなく今の状態を察した。


 たぶんこうだ。




 トラベラーはなんらかの理由でここに居られなくなって、別の場所か、また別の次元にタイムトラベルした。


 戻ってこれなくてコイツ、多分トラベラーの言っていた〈ポラリスの魔女〉にこの状況を伝えた。


 そして、この〈アポーツ〉とか言う〈インチキくさい魔法〉を使う少女が現れた。


 おおむねこんなところだろう。




 と、なるとだ。


 この俺をこの世界にぶっとばした〈ポラリスの魔女〉に頼めば元の地球に戻れるんじゃないのか?


 いや、まてまて。


 仮に地球に戻れたとて、こんな犬の状態で戻っても何の解決にもならない。


 犬になったのと、ちょうちんが付いたのはまた別の理由で~なんだっけ?


 どうしてこんな事になってるんだったか。


 頭の中がまた、こんがらがってきた。



 とりあえず、目の前の少女は見るからに普通じゃないし、危険な香りがプンプンする。


 なにしろあの亡霊たちを変な詠唱からの〈アポーツ〉とかいう魔法的な何かで一撃消滅だ。


 言動からして、どう見ても頭も悪そうだし、ちゃんと話が通じるかもあやしい。


 一方俺には、ここから動く体力も気力も残されていない。


 様子を見るために、ただの犬のふりをすることにした。



「クゥーン……」



「はわー。大変だったねぇ、わんちゃん」



(だませてる!?)



「はわわー。わんちゃんになった上にまじゅうになっちゃうなんて。やっぱりすごい星をもってるでしょうよー」



(だませてねぇー! こいつも多分色々知ってるぅー)



 まずいぞ、これは。


 何か嫌な予感がしまくる。




「はわー。よーしよし、わんちゃん。もうだいじょうぶでしょうよー。こう見えてもティピカは強いでしょうよー」



 ヤバそうな少女はそう言って、ろくに動けない俺を抱きかかえ、わしゃわしゃの体毛を撫で回される。



(うわ、やめろくすぐったい!)



 完全にそのへんの野良犬を拾ったようなシチュエーションになっていた。


 だが、確かにあの魔法は凄まじい強力さだ。


 下手に逆らって暴れるより犬っぽく振る舞っていたほうが危険がきっと少ない。


 少ないはずだった――









 ★ ★ ★ ★ ★














「はわーーーー! たかいたかーーーーい!」



(うわーーーーーーーー!!)



 俺は少女の遊びに付き合わされ、朝日を浴びながら浜辺の空に投げられてキャッチされるという〈屈辱〉の犬生活を送っていた。



 上空から少し離れて震えているエクレアが見える。


 ムリもない。



 大空の頂点で落下する直前に見える海の景色は絶景であった。


 こんな殺伐とした状況の異世界で、いきなりこんなに綺麗な景色が見られるとは思わなかった。


 無限に広がる未知の世界。


 一瞬、ほんのちょっとのワクワク感。






 しかし、それは一時の気の迷い、その後すぐさま訪れる凄まじい恐怖体験。



 常識的な〈遊び〉であれば少々投げられようとも、俺も我慢しただろう。


 しかし、今の俺は上空、それもさっきまで浮かんでいた海が一望できるほど何十メートルも空に投げ飛ばされ、眼下のイカれた少女にキャッキャと笑われるというとんでもない苦痛に耐えている。


 これはもう〈高い高い〉というレベルではない。


 動物虐待だ。


 この世界にも動物愛護団体はあるのだろうか?


 あるとしたら今すぐ助けてに来てほしい。


 切実な願いだ。


 このままでは俺は少女の〈おもちゃ〉としてその短い犬の生涯を終えてしまう。






 そう思った時、急に俺の見えていた景色が変わった。




(なんだ?)




 気がつくと俺の体は空に居たはずなのに、いきなり少女の手に抱きかかえられていた。


 どうやら魔法で瞬間移動させられたようだ。


 あの〈アポーツ〉とかいう魔法、ようするにテレポートの上位互換って事なのだろうか。



「はわーーー見失っちゃったから魔法つかっちゃったでしょうよー」



 こいつ、しれっと恐ろしい事を言う。


 冗談のたぐいではない。


 明らかに天然だ。


 そして、また上空へ投げ飛ばされる俺。



「はわーーーーー! それーーーー! あっ! 手がすべったでしょうよー! ヤバイヤバーーイ。ヤババー」



(お前も色んな意味でヤバイけど、俺です。俺もヤバイのです。これは……気持ち悪い……吐きそう)



 さらに空へ放り投げられる俺は、海の方へ向かって激しく投げ飛ばされた。


 ちょうちんのついた光る犬は煌めく大空を回転して羽ばたき――


 ――いや、激しくもがいて……


 そのまま大海へと転落していった。




 昇る朝日……沈む俺。




(……あかん。地獄だ、死ぬわコレ)



挿絵(By みてみん)

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