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ちょうちんわん公がゆく  作者: イズクラジエイ
第三章 星の海と炎の海
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#016 『浜辺の亡霊 後編』


 ゆっくりと、しかし確実に迫り寄る亡霊の軍団。


 襲われるといったいどうなるのかが分からない、サメとはまた別の種類の恐怖を感じる。


 普通の人間なら、為すすべもなくやられてしまっていただろう。



「くそっ! もういっかいだ! ラジアルレイ!」



 前にこの世界を「バグったゲームみたい」と表現した事があったが、今まさにそれだ。


 敵が無限湧きしている。


 己のちょうちんから放たれる固有能力ラジアルレイが亡霊に効く分、最初は少し余裕があったが、このせいで状況が変わってきた。


 超音波に無反応な亡霊のあの様子だと、今回はエクレアの力に頼る事もできなさそうである。



(どうする? 考えろ俺。分析するんだ)



 トラベラーはこいつについて何か言ってなかったか?


 思い出せ……


 アイボリーゴースト――


 奴らは


 『人間の魂の残骸』


 『水場や篝火かがりびに集まる習性』


 『精気を奪う』


 こんなもんか。


 そして、今対峙してわかったのは、亡霊が早くは動けないこと。


 あとは発する言葉、やりとりが不可能な事からして生前のようなモノを考える力はなく、知能は低いであろうこと。



(やはり突破口があるとしたら、このちょうちんの光しかないか)



 ちょうちん、灯り、集まる、遅い……


 そんな風に考えを巡らせ、俺はひとつの案を閃いた。



(もしかしたら)



 俺はすぐさま、閃いたイメージをちょうちんに集中して光を出そうとしてみた。



「できた!」



 俺の頭から常に放つ鈍い光はそのままちょうちんから離れ、〈光の玉〉となって切り離す事ができた。


 今まで俺は、自分の能力を頭の「ちょうちんが光るだけ」の微妙な力だと思っていたが、どうやら勘違いだったようだ。


 エクレアが音をあやつっているのを見て「もしや」とは思っていたが、俺の固有能力、ラジアルレイは光を操る能力らしい。


 どこまで制御、操れるのか?もっと分析、研究の余地がありそうではあるが――



(今はこれでいい)



 〈光の玉〉はデコイだ。


 光るだけだがこの場は囮として有効活用できる。


 元来デコイとは、狩りなどで使っていた獣をおびき寄せる偽の餌としていた鳥型の模型を意味する。


 西暦2029年の地球の科学力でデコイは、主に戦闘機のミサイル誘導に使われるセンサーを騙すフレア、索敵レーダーを妨害するチャフ、人の目の誤認を狙う偽目標ダミーとして用いられる一般的な戦略兵器だ。


 情報は武器と言われるように、本当の情報が分からなくなるようにする〈撹乱戦法〉は馬鹿にならない。




 その知識がこの閃きを生んだ。


 閃きは効果覿面こうかてきめんで思ったとおりであった。


 ちょうちんから切り離した〈光の玉〉は、ふわふわと宙を浮きその場を漂っている。


 それは、以前放ったような力強い光ではなかったが、それでも亡霊の注意を引くには十分に役立っていた。


 俺はその切り離した〈光の玉〉から、そろりとゆっくり亡霊を刺激しないように動き、その場を離れた。



「よし! これで時間が稼げる」



 その後も常に俺の頭のちょうちんは鈍く光っていたので、いくばくかの亡霊はこちらへ近づいてくるが、これくらいの数ならなんとか間をぬって逃げられる。



(これで今のうちに何か他の手を考えなくては)



 しかし決め手になる策も無く、ただ時間と疲労のみが累積されてゆく。



「ちくしょう! どこまで行ってもこの亡霊、湧いてきやがる」


「ピエエエエーーーーーン!」



 もうかなりの時間粘ったが、ついにデコイとなる〈光の玉〉もその輝きを失い消えてゆく。


 体感ではもう一日中ずっと逃げ回っていたかのような感覚。


 俺よりも小柄で素早いはずのエクレアも、もう動きが鈍い。


 俺たちは双方の魔獣は限界を迎えようとしていた――








「万事休すか……」












「はわー! そこまででしょうよ!」



(!? なんだなんだ!?)



 亡霊が多量にうごめき、言葉にならぬ声でざわつく暗闇の浜辺に、なにやら聞き覚えのあるような、無いような、幼い少女の声がこだまする。



「えいしょーーーー! えいしょーーー……えいしょー……」





  ――世のことわりつかさどり 

      あまねく星の輝きに

        われの願いをここにす――」






「アポーーーーツ!!」






 その少女の声に合わせて、まるで、花火が燃え尽きる最後の一瞬のように、あれだけいた亡霊たちがほぼ同時に、それぞれ個々が輝きを放ち光の彼方かなたに消え去った。




 それは、本当に一瞬の出来事であった。


 全く何が起こったのか分からないが、それこそ星の数ほどいたあの亡霊たちはきれいさっぱり居なくなり、象牙色アイボリーに染まっていた浜辺に元の景色と静けさが戻った。



「ハァ……ハァ……助かっ……た……のか?」



 俺はそう、自分にすら聞こえるかどうかの小さな声をだした。


 俺は常に灯っていたちょうちんの鈍い光さえもう消えかかり、もう一歩も動けず立ち尽くすのみ。


 エクレアはその場にへたり込み、例の鳴き声すら発していない。


 ひとまず、ちょうちんの光のせいで理不尽に襲われた亡霊の脅威は去った。


 しかし、全てがギリギリであった――




(あいつが叫んだ言葉、アポーツ? すると、もしかしてアイツがトラベラーの言っていた……まさか!?)




 ちょうどその頃、悠久かと思われた夜明け、雲の合間から朝の光が差し込む。


 朝日を浴びるかのように神々しく、その桃色の特徴的なショートヘアの美少女が俺たちの前に姿を現した。




「あいつが……ポラリスの魔女」



【アイボリーゴースト】

いわゆる地縛霊。

光に弱く夜にしか活動しないが、昼間も見えないだけで居ないわけではない。

その割には光に集まる習性があり、焚き火などをしていると寄ってくる。

元々人間なので化け物の類ではなく、それぞれに人格があり様々な事情を抱えてはいるが

意識が希薄になっており。それを正確に伝えられない個体が多い。

なぜか水辺に群れる傾向がある。


【次回予告】


亡霊に囲まれ、切り離した光を囮に逃げ回るも、限界を迎える俺たち。


その窮地を救ったのは突然現れた謎の少女だった。


「次回! ちょうちんわん公がゆく 第17話『魔女のおもちゃ』 今度も甘くないぜ」

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