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ちょうちんわん公がゆく  作者: イズクラジエイ
第三章 星の海と炎の海
16/63

#015 『浜辺の亡霊 中編』


「おい、トラベラー! 何処へ行ったんだ!」


 忽然と消えてしまった時間旅行者に困惑するも、周りの状況はさらに危機的になっていった。



(……まじかよ。こんな時にソロパーティでどうすんだよ。意味わかんねーし)


 孤独に打ちひしがれヤケクソモードから急に冷静さを取り戻した俺だった。



(ふぅー考えろ、考えるんだ俺。まだやられた訳じゃない、分析だ――)


 相手は幽霊、亡霊?どっちでもいいが、なにか呟いているのだから和解が可能かもしれない。


 期待は薄いが。


 試しに話しかけてみよう。

 


「おいあんたら、俺はただの犬だ、騒いだのは謝る。このとおりだ。だから退いてくれないか?」



 どうみても俺はなんか光ってるし「ただの犬」では無いのだが、相手をなるべく刺激してはいけない。


 さっきのサメとかクマみたいな猛獣じゃないし、幽霊なら話し合いで解決って線がわずかに――


 ――わずかに?



「ブッシャーーーーーーー! ギャーーーーー!」


「ウゴァァァーーーーーー!」


「サバァーーーーカァニィーオダゥレィヨーーーーーー!」


「ファkjジャイjランmンmンジャfフtkljンmcンジャーーーーーーー!!」



 俺に言葉に呼応するかのように各々に超お怒りの雄叫びのあげる亡霊たち。


 何が言いたいのかは分からないが、まちがいなく激オコである。



(はい、ムリー。ぜんぜん和解ムリー!)


 亡霊たちは凄まじい殺気を放ちつつ、さらにこちらへにじり寄ってくる。


 不幸中の幸いで、こいつら亡霊は動きは早くはなかった。




(これはもう話しかけてどうにかなる状態じゃないぞ。逃げるしか無い)


 俺は亡霊の集団が居ない場所目掛けて全力でダッシュした。



 だが、その先でももとんでもない数の亡霊に囲まれている。


 トラベラーの言うようにこいつら精気を吸うのか、それとも呪い殺されるのか、体を乗っ取られてしまうのか、頑張って分析せずともまず、捕まればろくな結果ならないのは容易に想像できた。



(とりあえず相手の亡霊の動きは全員ゆっくり。人間以下だ。俺の素早さならかわせるはず………!)



 なんとか亡霊たちの間をぬってあまり数の居ない方へ避け続ける。



「ピエーーーン ピエェーン」



 遠くでエクレアの鳴き声が聞こえる。



(あ、赤く光ったな今。あの辺にいるのか)



 あいつなら何とかできるんでは?


 そう思いエクレアの方に向かうことにした。




 たまに体にビシビシと感じる鈍い衝撃。


 どうやら、赤いひたいから発する魔力光が見える事から、たまに例の超音波を発しているようだが、亡霊には効いていないように見える。


 エクレアの放つ固有能力〈ノイジィ〉はパソコンのウーファーから出るような衝撃、あれを強くしたような力だった。


 離れていてもこの威力。


 だが、それも物理的な力には影響されない亡霊には無力であった。


 超音波は空気の振動だからな……。


 どうやら、そういうのじゃダメなようだ。



「あいつらサメのように音波は効かないのか。いけると思ったが、甘くないか。……参ったな、おっと」



 そうしている内にも沢山の亡霊は延々と寄ってくる。


 おもに常に鈍く光って目立つ俺に向かって。



(ダメだ。数が多すぎる。動きは鈍いが、とても全部かわして逃げ切れる数じゃあないぞ)



 このままではいずれ捕まって追い付かれてしまう。


 いや、取り憑かれてしまう。






 あの亡霊、確か〈アイボリーゴースト〉とか言ってたか。


 半透明なところをから察するに多分、物理的に攻撃しても効果がないと思われる。


 俺は足元に沢山転がっていた大きめの星型の貝殻を前足で払い、亡霊めがけて弾き飛ばしてみた。



「……ちくしょう。やはりダメか」



 貝殻は亡霊の体をすり抜け、慣性の法則に従って、その間には何事もなかったように地面に転がり落ちた。


 浜辺で砂が沢山あるので、それを利用して亡霊に砂でもかけまくって目潰しでもしてやろうかとも考えていたが、その作戦は根底から崩れさった。



(ん? 目潰し? あの光ならあるいは……あれからある程度回復はしたが、今あれを使えるかどうか――というか、あの数なんとかなるのか?)



 頭の中でそんな事を考えていたが、俺の一抹の不安は的中した。



「くらえ! 俺の力! ラジアルレイ!」



 ちょうちんが一瞬強く輝き、周囲の亡霊はその眩い光にコップに入れた炭酸飲料が弾けるような音を立てて消し飛んだが、やはりと言うべきか、問題は残った。



(だめだ、この亡霊、後から後から湧いてくる……どんだけいんだよ)



「もう一度だ! ラジアルレイ!」



 ジュワーっという音をたて、近くにいる亡霊は排除できる。


 こいつらに光は効く。


 それは間違いないが、俺の体力、いや魔力?はそう長くは持ちそうになかった。



(昼間の海のような強い力が出ないぞ。あれは偶然か? 何が足りない? くそっ! そんなに甘くないか……)



 どういうわけか今の俺の固有能力〈ラジアルレイ〉は、あの海一帯を照らした時のような太陽の輝きは発揮できなかった。



「ちくしょう! こんなんじゃジリ貧だぜ」


「ウボァァァァ! シャーーーー!」



 亡霊アイボリーゴーストは相も変わらず、何を言っているのか分からないうめき声をあげ、さらにどんどん湧いて星明りが照らす薄闇の浜辺を、まさにアイボリー色に染めていった。


【次回予告】


亡霊アイボリーゴーストに囲まれてしまった俺達は、それぞれ魔獣としての固有能力で応戦する。


しかし、亡霊に有効打は無く、苦戦を強いられるのだった。


「次回! ちょうちんわん公がゆく 第16話『浜辺の亡霊 後編』 今度も甘くないぜ」

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