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ちょうちんわん公がゆく  作者: イズクラジエイ
第三章 星の海と炎の海
12/63

#011 『束の間の休息』


 それからの俺たちはというと無事、トラウマになりそうな恐怖の海を乗り越え、広大でゴミ屑ひとつ無い綺麗な砂浜に到着したのだった。


 そこに人影はなく、誰かが住んでいるような建物も無い。


 そこで見たのは丁度今、まさに花開かんとするアサガオの類似種と思われる植物と奥に見える鬱蒼うっそうとした森林だけであった。




 俺はやっとの事で陸へ付いた安堵と、疲労の限界で砂まみれで地べたにヘタりこんでいると、足元で何か小さな物が動いているのに気づく。


 犬の手先にも乗るような茶褐色の甲殻類、カニだ。


 それに、よく見ると星のような形の貝殻?がたくさん転がっている。



(……カニは普通なんだな。てっきり他の生き物も凶悪な色をしてるとおもったぜ ちょっと安心した)


 海岸沿いの砂浜の広さと奥行き、たぶん島ではなくそこそこの広さのある大陸だ。


 大型の島って事も考えられるが……



(いやまてよ。日本の広さで島国なんだから、むしろ島の線が濃厚って……どうでもいいわ!)


 そんな事を一人で自問自ツッコミしながら現状分析をする。




「ピエー」


(あー、そういえば一人じゃなかった。コイツがいたな)


 そう、助けたウサギが一緒だった。


 ……どちらかと言うと、俺が助けられた方かもしれない。



 ウサギはじっと空を見上げ、何かを訴えていた。



(なんだ?)


 俺もその様子に気づき、見上げてみると、もう消えかかってはいるが、そこにはうっすらと真っ直ぐ、俺たちが来た方角から伸びる飛行機雲が見える。


 丁度、進行方向奥の林へ向かって下降していったような跡が。


 これはまず、間違いなくアレだ。


 乗っていた飛行船は激しく炎上していた。


 その理由は分からないが、良くて不時着か、最悪墜落したんだろう。


 うろ覚えだが、造られた魔獣フォビドゥンは俺含めて13種だっけか。



(もしや、他の魔獣もあの船に乗っていた?)


 ……ありえる。


 あの、異常事態の施設から〈どさくさ〉に紛れて逃げようとした奴が他にいても、別段おかしくはない。


 他の魔獣も皆、何かしら行動したと考えるのが自然か。


 あいつも俺の知らない所で何か行動したんだろう。




(バウム……)


 俺を逃がすために無茶をしたあのふくろうの事を思うと少しつらい気分になる。


 あいつは〈まだ死ねない〉と言った。


 願いを口にし、夢も希望もある素敵バードだったんだ。


 ちょっと性格に難がありそうだったが。


 何だっけ?「研究結果が人々の役に立つ事」だったか。


 ビトーって奴がバウムの事を〈博士〉と呼んでいた事から分析するに、バウムは科学者か何かで人の役に立つ〈何か〉を造っていた。



(まさか、それを俺達に託した?)


 いや、残念ながら何が〈研究結果〉かすら分からない俺にその願いの〈成就〉はできそうもない。


 しかし、あの発言の後に命を投げ出すような行動は矛盾しているようにも感じる。


 あの考え方なら普通、自分の命を最優先して逃げるべきだろし、俺ならそうする。


 ……謎だ。







 ★ ★ ★ ★ ★







 そういえば、陸についてへたり込んでからしばらく時間が経ったせいか、大分体力が回復してきた。


 この回復能力は思ったより便利だ。


 しかし、お腹が空いてきた。


 よく考えたら〈犬〉になってからもう一日以上何も口にしていない。


 そりゃあ、腹も減る。




(このカニ食えるのかな? そうだ!ウサギは? あいつもかなり披露しているはずだ。ってか何処行った?)


 遠くまで動いてるな、結構元気そうだ。


 小さな崖を登ろうとプリケツを振り、もがいている。


 ウサギは崖を登った所の草やら何やらをあの、ウサギ特有の小さな口で〈モシャモシャ〉食べまくっていた。



(俺も草でも食っとくか? あ、これでいいか)


 俺はそのへんに体に絡まって落ちていた海藻を食べてみた。



(うん。まずい)


 まずいが、まぁ食べられなくもないか。


 藻類、いわゆる海藻というものは、わかめや昆布に代表されるもの以外にも味はともかく結構食べられる。


 海藻は地上の植物と違い、比較的毒を持つ種も少なく栄養もあるため緊急時の食材としては優秀だ。


 どうしても博打を打って食べる必要が出て迷ったら、ある程度回って大量に見られる種を口にすると良い。


 植物を含む毒を持つ生き物はその種が生き残る為に進化した結果だ。


 繁殖能力を増やして絶滅を防ぐという手段で進化した生物は、他の生物に食べられることを前提としてより増えることに重点を置いている。


 つまり、他種族に食べられるのを避ける毒を持つ必要性が薄い。


 そういう傾向があるだけで、絶対ではないが。


 過信は禁物だが、この世界においても生物の生きる原理はそう変わりはないだろう。




(カニは……やめておこう)


 非常時ではあるが、アレはなんか硬そうだし、生きたままのカニを食べるのはさすがに気が進まなかった。



 名前までは分からないが、ワカメに似た海藻を食べにくい咥えてもがく犬。


 その辺の草を適当に食べるウサギ。


 ただの平和な物語になるのかと思ったその矢先だった――




(!? まただ! なにか来る!)


 今度も匂いで何かが近づいてくるのが分かった。


 移動速度はそこまで早くないようだ。ここがバレているのか?


 それともたまたま何かがここへ近づいているだけなのか?


 とにかく先の件もある警戒しなければならない。



 匂いはすでに風に乗りソコまで迫っている。


 ウサギに大声で呼びかけるか迷ったが、やめた。


 あいつは餌タイムに必死できっと気づいてない。


 そっとしておこう。



(隠れられそうな場所が近くにない。ここは気づかないままのふりが得策か。よし、普通の動物のように自然にふるまうんだ)


 匂いというモノは風向きやその種類で感知できるかどうかが大きく左右される。


 正確な位置までは分からない。



(どこだ? もう近くに来ているはずだ 見えない)


 匂いの流れが止まった。



(おかしい、もうその辺に居るはずだ)


 自然にその辺の匂いを嗅ぐ犬に見せかけながら、感覚を研ぎ澄ませる。



(上かっ!)


 見上げると、この世界の太陽の逆光に隠れ何かが空中に浮かんでいる。


 なんだ!?何が来たんだ。



(人だっ! 人が空中に浮かんでいる? いや立っている!?)


 そう、そこには黒い紳士服に身を包み、革靴を履いた人間が不自然に空中にスッと立っており、日差しの合間からその姿をあらわした――



【次回予告】

やっとの思いでなんとか陸へ到着し、一息ついた俺たちだったが、それも束の間新たな驚異が近づいていた。


「次回! ちょうちんわん公がゆく 第12話『トラベラー』 今度も甘くないぜ」

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― 新着の感想 ―
[一言] こちらでは初めまして。 続きが楽しみです。 診断の結果が反映されるのか、楽しみにしています
2020/10/16 20:27 退会済み
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