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ちょうちんわん公がゆく  作者: イズクラジエイ
第三章 星の海と炎の海
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#009 『絶体絶命の海』


 あいつ(ウサギ)は状況的に仕方ないとはいえ、半ば俺が無理やり連れて来たようなもんだ。


 本人に相談する時間や余裕もなかったけれども。


 というか、ちゃんと意思疎通できるのか?あのウサギ。


 とにかく、ここであいつを死なせてしまっては非常に気分が悪い。


 こんな事になるとは無論、想像していなかった。


 下が海なのは予想していたのに、俺の考えが甘かった。


 これは俺の分析の甘さが招いた失敗だ。








「うぉぉぉぉぉぉーーーーーもっとだ! もっと輝けーーーーーーーーー!!」


 俺はありったけの力をちょうちんに込め、辺り一帯をその光で覆った。





「……あれか!」


 離れていてウサギかどうかは分からないが、海中に黒い影が見える。






(くそっ! 潜るしか無いのか……犬って潜って泳げるのか? この手で? 無理じゃね?)


 そう俺は思ったが、やってみると案外すんなりと海中に潜れた。






 潜った後に気づいたが、海中でも分かる。


 間違いなくあの影はあのウサギだ。


 その理由は〈匂い〉だ。


 なぜか海中でも〈匂い〉がハッキリと分かる。





(どういうことだ? 鮫じゃあるまいし海中で犬の鼻がそんなに機能するのか?)


 そこからさらに潜った後、俺は異変に気づく。





(変だ。息……できるぞ!?)


 確かに今まで呼吸はしていた。走ると多少なりとも息も苦しくなった。


 この世界の呼吸は酸素とかいらないのか?それとも〈魔獣〉とやらの能力か?


 いやしかし、あのウサギ明らかに溺れて沈んでるしな……


 わからん。


 わからんが、ともかく今は助かった。


 どうやら俺は犬にも関わらず、水中に適当できている。


 ここでは俺の知る常識は通用しないようだ。





「ダァァ! ……ハアッ!」


 俺は海中で沈みゆく兎の首もとを咥え、急いで海上へ泳いで飛び出た。




「おい! しっかりしろウサギ! おい!」


(かすかだが脈動はある……生きてはいる……が、駄目だ。意識がない……くそっ!)



 このウサギまだ生きてるが、息をしていない。


 こんな陸も見えない海の上で意識不明とか、このまま息を吹き返さなければ完全に詰みである。


 どうする?


 何か、何か手はないのか。




(まて、なんだ!? この匂いは!?)


 何か分からないが、匂いでわかる。何かが高速で近づいてきている。


 まさか、もう追手が?いや、ありえない。


 あの飛行船からはかなり離れたはずだし、なにより匂いの方角は海中からだ。




 近づいてきた〈何か〉はその後すぐに分かった。



(畜生! まずいぞこれは)


 高速で近づいてきたそれは一匹の〈鮫〉だった。


 一瞬だが黒い背ビレが見えた。怖すぎる。


 己の犬としての嗅覚が優れているという事は理解したが、サメもまた嗅覚がすぐれた動物である。


 サメの種類にもよるがホオジロザメなんかは約一キロ先の血の匂いも感知できるという。


 もう治っているとはいえ、道中、出血もしている。


 ちょっと前に、何かのサイトのコラムで読んだが、サメには磁場や電流を感知することのできる〈ロレンチーニ器官〉というものがありいわゆる〈第六感〉も優れている、まさしく〈海の王者〉だ。


 しかも、泳いで獲物を狩るタイプのサメは視力もあり、光の認識能力が高い。


 サメが元々近くにいたとしたら当然あの光は感知するだろう。


 ……甘かった。


 なんとか陸まで泳げれば助かると思っていたが、それ以前のピンチだ。


 これは非常にヤバイぞ。


 海上という移動速度の問題で、今までやってきた〈逃げる〉という選択が使えない。


 この近づいてきたスピードから考えても、試すまでもなく水中ではサメの方が速いだろう。


 かといって、水中で犬がサメに勝てるイメージが全くわかない。








 今日イチ絶体絶命の危機だ――




 ――いや、諦めるな俺。


 ここまで来たらもう、ある意味〈ヤケクソ〉だった。


 逃げるのとは逆に俺は一直線にこちらに迫ってくるサメに向かって泳いでいった。



 サメが海中において強い生物なのは間違いないが、弱点が無いわけではない。


 サメはまず鼻の先で食べられるものかどうか判断するため、鼻先で獲物を突く習慣がある。


 光は感知するが、正確に獲物の状態が見えているわけでは無いからだ。


 そしてサメの鼻には多くの感覚器官や神経が集中している。そこが弱点だ。


 だから、最初にその鼻で突く接触の瞬間に鼻先をガブリと〈噛み付く〉しかない。


 おそらくチャンスは一度。


 殺るか、殺られるか。


 多分歴史上、一度もなかった対決だろう。


 今、海のど真ん中で〈犬〉と〈サメ〉の一騎打ちが行われようとしていた。




(来たっ! 今だ!)


 だが、俺が大口を開けた瞬間、サメは方向転換し、こちらへ向かうのをやめて迂回したのだった。



(畜生!なんだこのサメ。フェイント!?魚にそんな知能あるのかよ。しかも、どういう事だ?体の色が〈黄と黒〉だったぞ)


 地球とは別種なのか。


 そのサメはバイオハザードのマークのような、異様な黄色と黒の模様をしていた。


 その後、俺の周りを少しだけ離れて迂回している。


 駄目だ、完全に読まれた。



(怖すぎだろあのサメ。どうなってんだよ、この世界)



 おれのヤケクソの決断もまったく事態は好転していない。


 もはや、瀕死のウサギと一緒に海の上で食べられるのを待つ餌である。




(畜生! 助けたい……何故だか分からないが、ウサギだけでも助けたい)


 そんなウサギを見て、己の不甲斐なさを知り、心を奮い起こす。


 ……まだだ、まだ、まだ殺られたわけじゃない。


 いずれ必ず来る、もう一度奴がこっちに接触を試みた瞬間にやってやるんだ。




 起死回生の一撃を心に決めた、その時だった。



(……まじかよ)


 そう思った時、俺とウサギの周りには黒い背ビレが大量に見えたのだ。


 気づけば既に10匹以上のおぞましくも、黄色い警告色のサメに囲まれていたのだった――




【次回予告】


なんとかウサギを助けたレイトであったが、その後サメの襲来により矢継ぎ早に窮地がおとずれる。


「次回! ちょうちんわん公がゆく 第10話『泣き虫ウサギの力』 今度も甘くないぜ」


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― 新着の感想 ―
[良い点] とりあえず10話まで大変面白く読ませて頂きました!! 緊張感?のあるシーンでも生真面目な主人公のキャラが笑わせてくれますね。 終始にやにやしっぱなしでした。 次回予告までもが私を笑わせにき…
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