5話 初めての狩り マリリン討伐
「リョウさん。そろそろ狩りに行って見ませんか?」
1週間ほどたち亜人居住区にも慣れてきたころ、リリエスが唐突に口を開いた。
「えーと、狩り?食料調達ってこと?俺、罠の張り方も知らないけど。」
というか、皮の剥ぎ方とか血抜きとかよくわからんし結構グロそうだな…
「あの、いえ、その狩りではなく魔物狩りです。レベルも上げた方が何かといいでしょうし。」
リリエスがあたふたしながら説明をしてくれる。
「あぁ、なるほど!その狩りね!」
「はい、その狩りです!」
2人でうんうん、と頷く。
なるどほ、狩りねぇ…
うん、いいんじゃない?
馬鹿ルノフぶっ飛ばさないといけないし、元の世界にも帰らないといけない。
レベルは上げておくべきだろう。
「そうか、是非やろう!それで、狩りって具体的にどうやるの?」
「え?」
「え?」
2人で顔を見合わせる。
「あの、リョウさんのいた世界ではどうやっていたんですか?」
暫く気まずい雰囲気が流れた後、おずおずとリリエスが声を出した。
「いや、俺の世界では狩りなんてしないよ。魔物なんていないもん。」
「え、ではレベルはどうやってあげてたんですか?」
きょとんとしている。あぁ、そういうことか。
「いや、そもそも俺の世界にレベル何てものはないんだよ。てか、レベル上がると強力なスペルが使えるようになるって感じでいいのかな?」
「はい、装備もレベルによってできるものと出来ないものがありますし、スペルもレベルで使用出来るようになります。」
なるほど、ホントにゲームみたいな世界だ。
「わかった。とりあえず魔物を倒せばいいんだよな。でも俺武器持ってねぇぞ?」
「大丈夫です。武器はこれを使ってください。」
リリエスに渡されたナイフを手に取ってみる。
軽い割に刃は丈夫そうだ。
「うん、ありがとう、リリエス。使いやすそうだ。」
「そうですか。それはよかったです。」
ナイフを鞘に戻した俺に、リリエスは優しく微笑んでくれた。
「んじゃ、狩場デビューと行きますか。案内は任せていいんだよな?」
「はい、レベルに合った狩場に行きますのでついて来てください。」
こうして俺はリリエスに狩りの心得を聞きながら狩場へと向かった。
「まずはあれからやってみましょうか。」
リリエスが指差したのはサッカーボールくらいの大きさのこれまたボールのように丸い魔物だった。
「え、あれ?すげぇ弱そうだけど。てか、あれどうやって動いてんの?」
言いながら動きを観察する。
ぐぐ…ぽーん…ころころ…
ぐぐぐ…ぽーん…ころころ…
縮んで跳ねて転がってを繰り返している。なんか可愛い。
「あのさ、あれ名前あるの?」
「え、魔物に名前はありませんがどうしましたか?」
「なるほど、じゃああいつ今度からまりりんな。名前あった方が呼びやすいし。」
「え、はぁ…?」
不思議そうに俺を見上げるリリエスに続けて質問をする。
「ちなみにあいつ凄い弱そうだけど攻撃してくるのか?」
「はい、体当たりや噛みつきをしてきます。今のリョウさんのレベルですと体当たりをまともに食らえば内臓破裂や骨折もしますので、決して油断しないで下さい。後は下手に掴んでしまうと、指位なら噛み千切られることもありますので気を付けてください。」
「ふーん、なるほどねぇ…って、え!?」
今さらっと超危険な事言わなかったか?
内臓破裂?指ちょんぱ?嘘だろ?
マリリン超こえぇ…
冷汗が流れる。
「あの…えっと、リリエスさん?もうちょっと、その、こう、弱いのいないのかな?ほら、俺初心者だからさ…?」
「えっと、すみません。恐らくあれが最弱の魔物だと思います。」
う…マジかぁ…最弱強すぎだろぉ、もう日本帰りてぇ。
何かリリエスも申し訳なさそうにしてるし、とりあえずこの場から逃げ出してぇ。
「あの…やっぱりまだ止めましょうか。せめて防具を買ってからの方がいいですよね?私も頑張ってお金貯めますので、防具を買ってからにしましょう!」
リリエスが空気を変えようと明るい声で話し始める。
何てええ娘や…
って違う。これ以上リリエスに迷惑もかけられない。
大きく深呼吸をする。
「いや、すまん。我儘言ったな。いつかはやらないといけないんだ。行ってくる。」
「あの、大丈夫ですか?」
「あぁ、任せとけって。」
心配そうな顔をしているリリエスを置いてマリリンの近くまで歩いていく。
あと5m程と言ったところでマリリンがいきなり動きを止めた。
「ん?」
身構える。
ころころころ…
「えっと、リリエス?何かゆっくりこっちに転がって来たけど。これどういう…」
「リョウさん前を見て!」
「え?」
リリエスの形相に慌てて前を見る。
縮んでる?
「なっ!?」
縮んでいたマリリンが猛烈な速度で文字通り跳ねた。
ドゴッ!!
強烈な衝撃を腹に食らい吹き飛ばされ、受け身も取れずに転がる。
「ごほごほ、がは、ぐっ…」
「リョウさん大丈夫ですか?ヒールを!」
「コ、コマンド…ウォータースペル…ヒール!」
淡い光に包まれ痛みから解放される。
起き上がりマリリンの方を見ると、今しがた俺に強烈な体当たりを食らわせたことなど忘れたかのようにまた跳ねて転がっていた。
「くそ、舐めてんな、あいつ…」
顔が引き攣る。
「だ、大丈夫ですか?」
「あぁ、超痛かったけどなんとか。ぎりぎり腕差し込めたのがよかったんだと思う。色々と意外過ぎてびっくりしたど。」
「あの、ほんと油断しないで下さいね?」
「あぁ、もう大丈夫。」
心配そうな顔をしたリリエスを置いて再び近づく。
再び5m程まで近づいた時マリリンは再び動きを止め徐々に縮み始めた。
「同じ手食らうか!」
転がり始めた瞬間を狙い距離を詰め全力で蹴り飛ばす。
バシッ!
「オラァ!」
ひゅーんという音を立ててマリリンは遥か彼方へ吸い込まれていった。
ゴォオオオオルゥ!
「しゃあ!やったぜ!どうよ!?意外に余裕だったな。こりゃレベルアップもすぐかね?」
初勝利にガッツポーズをしながらリリエスに振り返る。
「あ、はい。タイミングはばっちりでした。あぁいう感じでやって頂ければ大丈夫なんですが…」
「だろう?まぁ、最初びっくりしたけど俺にかかればあれくらいなら余裕さ!」
腰に手を当てサムズアップ。
リリエスはそんな俺に苦笑しながら問いかけた。
「それであの…あれ、倒さないんですか…?」
・・・
・・
・
「え?」
「いえ、蹴り飛ばしてしまったら倒したかどうか確認できないですし、あれくらいじゃ魔物は倒せないんですが。」
冷静になって考える。
確かに蹴り飛ばしたからって倒したかどうかわかんねぇよな。
てか、蹴ったくらいで倒せるならこいつらすでに絶滅してるよな。
アホか俺…
恥ずかしい…
「あー、そうよね。ごめん。探しに行こうか。」
「あ、いえ、あそこにもいますのであっちをやっちゃいましょうか。」
「はい、何か色々すみません。」
「あはは、まぁ最初ですからね。気を取り直して頑張りましょう!」
リリエスの引き攣った笑顔が痛い。
リリエスの苦笑に見送られながら俺は再びマリリン討伐に精を出した。
「はぁ!」
ズシャ、という音を立ててマリリンの中に刃が吸い込まれる。
マリリンは2,3度痙攣した後その姿を小さな石に変えた。
-あの魔物…マリリンは攻撃の直前、直後に隙が多いのと硬化している時は色が黒っぽく変わります。ですので、緑の状態であれば刃物も通ります。攻撃は直線的ですので慣れてしまえば簡単に倒せますよ‐
リリエスの言う通り慣れてしまえば倒すのは簡単だった。
5m程度で一度止まり身を縮ませ硬化準備。それから完全に変色したら跳躍。
普通の状態なら打撃も効く。
それに何より…
「コマンド:アーススペル:プロテクション!」
そう、このスペルが非常に使える。
Lv.3になって覚えた全身硬化防御型スペル。このスペルの持続中ならマリリンの攻撃もある程度防げる。
「ふぅ。」
汗で濡れた額を拭う。
「お疲れ様です。そろそろ日が沈んできましたので今日はここまでにしましょうか。」
戦闘が終わったのを見てリリエスが駆け寄りながら提案をした。
「そうだな。流石に疲れた。因みに今日はどれくらい狩れたのかな?」
「えっとそうですね。120体ほどだと思いますよ。」
「マジか、結構頑張ったな。てか、あいつらひょこっと出てきたりするから近いとこに出ると結構焦るな。」
「そうですね。強い魔物がいる所では結界を張れる聖職者がいないと、いつ襲われるかもわからないので気を抜けないですね。」
そう、魔物はいつの間にか現れる。
そして、倒すと魔石というビー玉くらいの大きさに変わる。
この世界では労働以外にもそれを換金することで金がもらえるらしい。
「なるほどねぇ。因みに魔石120個ってどれくらいの価値になるの?」
「えっと、この量だと銀貨3枚くらいだと思います。」
「そんだけ…?」
「はい。マリリンは魔石の質もよくないので。」
「そうか。まぁ、3日分の生活費って考えると悪くないか。」
石ころを指先ではじきながらつぶやく。
「そうですね。明日は今日以上に効率も良く強い魔物を狩れるでしょうし、この調子で頑張っていきましょう!」
まぁ、確かに今日は初日だ。レベルも上がったし金も手に入ったと考えれば成果は上々だよな。
「そうだな。ところでつかぬ事聞くけどリリエスって酒飲めるの?」
「はい。飲めますけどどうしたんですか?」
「よし、じゃあ今日はデビュー記念に酒飲むぞ!」
「え、そんな贅沢してたらせっかく稼いだお金がなくなっちゃいますよ?」
「いいのいいの。今日だけだから!ほらいくぞ!」
「リョウさん。待ってくださいぃ!」
リリエスを置いて走り出す。
結局その日は潰れるまで飲み明かした。