4章 リリエス
「ところでどうしてあんなにボロボロになっていたんですか?」
どうやら俺はあれから2日間寝込んでいたらしい。
飯を食い終わった後、食後の珈琲のような物を飲みながらリリエスと話をしてみると、まず彼女が尋ねたのはそれだった。
「いやぁ、なんて言うかね?」
苦笑しながら顛末を話す。
「なるほど、確かにこの国は今軍事力を求めていますから、聖職者というのは求めていた人材とは違ったのでしょう。ですが、流石にその扱いは酷すぎます!」
「まぁまぁ、怒ってくれるのは嬉しいが落ち着いてくれ。」
憤慨しているリリエスを宥めながら俺は言う。
「まぁ、あいつらはムカつくし、いつか報復するけど、とりあえず今の事考えないと。俺金稼ぐ手段もなけりゃ家もないし。服もこれだけだし、これからどうすればいいんだろう…」
話せば話すほど鬱になる。
マジで俺どうやって生きていけばいいんだ?
少し考えこむがロクな案が出てこない。
やべぇ、犯罪する奴ってこんな状況なのか?なんて意味のない考えに耽っているとリリエスがふいに口を開いた。
「あの、もしよろしければなんですが…しばらくここにいませんか?」
「は?」
「いえ、あの、ですから暫くここにいてお金を稼いだりすればいいのではと…ここでなら宿泊代も食事代もかかりませんし…」
「いや、えっとさ…」
「はい?」
「それは凄い有難い提案なんだけど…部屋余ってるの?」
言いながら周りを見渡す。
小奇麗に片付いてはいるがお世辞にも広いとは言えない。
見たところワンルームみたいだし、唯一のベッドは俺が占領してるんだが…
「いえ、この部屋以外はありませんけど…やはり二人ですと狭いでしょうし嫌でしょうか?」
「いや、それはどうでもいいんだけどさ。」
「はい?」
少し間をおいてから口を開く。
「オレ、オトコ。キミ、オンナ。アーユーアンダスタンドゥ?」
「え?」
・・・
・・
・
ボッと、リリエスの顔が真っ赤に染まる。
「あ、ああああの、リョウさんはその、わ、わ、私を異性として接してくれているでしょうか?」
ん…?
え…えぇ!?
「リリエス男なの!」
「いえ、そうではありません!」
「あ、だよね…えっと…?」
沈黙が流れる。
どういうことだろう?と考えを巡らしていると、リリエスは耳をペタコンと垂れながら気まずそうに呟いた。
「あの、私は亜人ですので…」
「え、それ関係あるの?」
暫くきょとんとした後、俺の口から出たのはそんな当然な疑問だった。
「え…?」
「だって、あれじゃん…なんつうか、リリエス普通に優しいし、可愛いし、俺らとの違いって耳くらいだろ?他にもあるのかな?ぱっと見、目の色と耳以外の区別分からないんだけど…?」
「か、可愛いって!そ、そんなことありえません!」
「いや、何か言うの照れ臭いんだけど普通に可愛いよ?それで他に違いは?」
恥ずかしさのあまり視線を逸らし、ポリポリと頬を掻きながら告げる。
「えと、その…尻尾もあります…」
「え、尻尾あるの?」
「はい…その、今は隠していますけど…」
「あぁ、だから長いスカートなのね。」
「はい、だから…その…」
「ふーん、それだけ?」
「え?」
再び俯いてしまったリリエスが驚きに顔を上げた。
「あの…気持ち悪いとか怖いとか思わないんですか?こんな…動物みたいな種族…」
おどおどとリリエスが口を開く。
「いや、全く…そんなの個性みたいなもんじゃん?とりあえず人間とは違うみたいだけど、普通に話せるわけだし、なんで気持ち悪いとか怖いとか思わないといけないんだ…?俺助けてもらって感謝してるけど…?」
途端、ボロボロとリリエスの目から大粒の雫が零れ落ちた。
「って、え…ちょ…どうした?俺なんか悪い事言ったか?」
慌てて身を乗り出す。
「ひぐっ…いえ、その、嬉しく…て…」
リリエスは目をごしごし擦りながら途切れ途切れに言葉を紡いだ。
「そんな…こと…ぐす…言ってもらった事…ぐす…なかったから…」
あぁ、そうだよな。奴隷制や人身売買やってるようなくそったれな国だ。
この娘にも色々あったんだろう…
「そうか、君にも色々あったんだな…もう一度言うよ。助けてくれてありがとう。感謝してる。」
リリエスの頭をできるだけ優しく撫でる。
「うぁ、ぁああああ…」
リリエスの声が大きくなる。
俺は彼女が落ち着くまで、黙って彼女の頭を撫で続けた。