1章 異世界事情
「お召し物をお持ち致しました。」
「あぁ、ありがとう。」
「いえ、では失礼いたします。」
僧侶の一人に服を与えられ、着替えながら考える。
てか変な服だな。何だこれ。パジチョゴリか?
「ちなみにパジチョゴリとはチマチョゴリの男版である。って誰に説明してるんだ俺は…」
いかん。考えることが多すぎておかしなことを口走っている…
勇の事も心配だが、あいつはどこでもうまくやっていけるはずだし、まずここがどんな世界なのか考えないといけないな。
それに視界だ。
左上に変なマークとゲームのステータスみたいのが表示されている。
Lv1 HP1000 SP150 MP150
これ俺のステータスだよな?SPとMPはわからんがHP高すぎねぇか…?
「自分のステータスを見たい。」
変化なし。
「マップ表示。」
変化なし。
駄目か…
全く、どうなってる?チュートリアルとかねぇのかな…?
「召喚者殿。着替えは済ませられましたか?」
「あ?あぁ、今行く。」
外から声が聞こえたので手早く服に袖を通し扉を開けた。
扉を開けると先程とは違い高位の僧侶っぽい爺さんが待っていた。
「すまん、待たせたな。」
「いえ。では、王がお待ちです。ご案内します。」
爺さんの後に続き長い廊下を歩き始める。
「ところでここはどこなんだ?世界の状況はどうなっている?」
歩きながら僧侶の爺さんに尋ねる。
「ここはエリュスハイム王国首都エリエスです。エリュスハイムは主に三つの国に囲まれております。まずは北方、様々な種族が暮らすサバスト連邦がございます。そして東方、亜人の国クレイスモア王国。西方にはエルフの国、女王国アルトメアです。またアルトメアの更に西方には人間の国、神聖リューナ帝国。クレイスモア王国の北には獣人の国、デルカルロン帝国がございます。そしてクレイスモア、デルカルロンの東方には魔族国がいくつかございます。」
なるほど、まるでアニメみたいだな。流石不思議 世界。
どうでもいいけどエルフってホントに耳尖ってんのかね?
獣人ってのは多分リアル猫耳やリアル犬耳で、亜人ってのはドワーフのもっさいおっさんってイメージでいいのかな?
「そうか、種族ってのはエルフ、獣人、亜人、人間、魔族の5種でいいのかな?」
「いえ、他にも竜族がおりますよ。」
何事もないように爺さんは答える。
「え、何それ?どう考えても竜最強じゃね?でかいんだろ?」
思わず顔を顰める。
竜ってあれだろ?とりあえず火吐いたり、空飛んだりするあれだよな?
そもそもここの人間空飛べるのか?
弓矢?魔法?
駄目だ、倒せるビジョンが浮かばない…
「個々の力ではそうでしょう。ですが、竜族はその数が少なく自分の領地以外は興味がないようで、他国への侵攻等は行いません。また海を隔てておりますので、まず遭遇することはございません。」
「なるほど…竜が色んな所で暴れまわってたら世界とっくに滅びてそうだしな。でも残念だ。一目でいいから見てみたかった…」
少し安心しつつも落胆する。
なんとかして竜の背中に乗ってみたかったな…
やっぱロマンだよな…
「なんと!竜を恐れないとは流石は召喚者殿!」
爺さんは驚きながら俺を見た後、ふうっとため息をついて話を続けた。
「しかし現状魔族の動きが活発になっておりますので、しばらくはそちらを警戒しなければならないでしょう。奴らは圧倒的な力を持ち、殺生に何も感じない非常に危険な者どもです。今ではクレイスモア王国と度々戦闘を行っているとの情報も入っています。」
「ふーん、魔族は暴れん坊って事ね…ってクレイスモアってお隣さんじゃん。その亜人の国大丈夫なのか?征服されたらここもヤバくね?」
「何とも言えかねます。亜人王ダルボアは豪傑王として有名ではございますが、如何せん個々の力では魔族が優勢でございます。現在我々もクレイスモア王国と同盟締結の申し出を行っておりますが、その…我が国と隣国はあまり友好的ではなく難航しているようです。」
爺さんの顔に苦々しさが増す。
おそらく召喚なんて儀式やってるんだからこの国の軍事力はそんなに強くないはずだ。
他者と協力もしなけりゃいけないだろう。
その協力を取り付けられないんだから焦りや不満が出ても仕方ない、か。
「そうか。でも、どうせあれだろ?人間が奴隷とかいって亜人とか獣人を売り飛ばしたりしてたんだろ?もしくは今もやってるとか?」
「な…召喚されたばかりのあなた様が何故それを!」
爺さんは驚きながら歩みを止める。
「あぁ、適当に言っただけなのにほんとにやってんのね。それ止めた方がいいんじゃないの?」
思わず苦笑する。
マジでやってんのね、ここの人たち。奴隷制とかいつの時代だよ…
「そうもいかない事情があるのです。それと今の言葉、王の前では決して言わないようにして下さい。召喚者殿には我々も大いに期待しておりますので…」
「勿論。いきなり追い出されたら俺も困る。」
俺は苦笑いをしながら僧侶の爺さんと長い廊下を渡った。
しばらく歩くと衛兵二人が立っているひと際大きな門の前にたどり着いた。
「この中に王がいらっしゃいます。もしあなた様が王の御期待に応えて頂けるようでしたら、可能な限りの望みが叶うでしょう。」
「可能な限り…?」
「えぇ。左様でございます。」
「なるほど…」
いや、どうしよう。まず異世界からの召喚者って勇者だよな?
王におぉ、勇者よ!我が国を救ってくれ!とか言われるのかな?
魔王倒しちゃってハーレムとか?
綺麗な女の子とあんなことやこんなことが…
「うへへへへ…」
「ど…どうされました、召喚者殿?」
いかんいかん。妄想駄々洩れになってるな。
「いや、問題ない。気にするな。続けてくれ。」
訝しげな顔をしている爺さんにクールにほほ笑み返す。
「は…はぁ?では、王についてでございますが、王はあなた様の適正職を見抜く能力をお持ちです。ですのでまずは王の指示に従って頂ければと思います。」
お、遂にゲームスタートか。
俺の適正はなんだろう?
まず召喚者だから勇者だろ?
武器は剣かな?槍かな?勇者ってイメージじゃないけど剣なら二刀流とか格好いいし、弓とかもいいかも。
やばい、オラワクワクしてきたぞ!
「準備はよろしいですか?」
「わかった、開けてくれ。」
「はい。では、開けてください。」
爺さんが衛兵に目配せをし頷く。
ぎぃぃ、という鈍い音を立てて王の間はその姿をさらけ出した。
この時はまだ、俺はこの世界がゲームみたいに自分に都合のいい展開になるだろうなんて、そんな甘いことを考えていたんだ。