短編小説 心理テスト
私の知り合いには、人体というロボットがいる。
現在、人体は大学で心理学と生物学を専攻して、人間の心や生物について勉強している。
「いいかしら人体さん。人間の心は複雑で、具体的にどんな構造になっているというふうに定義するのは困難なことよ」
ネコバーは、人体の質問に答えている。
「ならば、どうして人を愛するや悲しむとか説明が難しいですね」
人体が現在、大学で勉強しているのは感情であり、高度な感情プログラムがプログラミングされていない人体には理解できないことであった。
「それならば、パターンごとに考えてみたらどうですか? 」
ネコバー旅館の手伝いに来ていた、私はネコバーに助言した。
「そうね。それが分かりやすいわ」
ネコバーが、納得したのでさっそく、はじめることにした。
「いいですか。私とネコバーのお話をきいて、どちらが、どんな理由で悲しんでいるか考えてください」
「分かりました」
「ネコバーさん。昨日の残しておいたケーキをもしかして食べましたか? 」
「いいえ」
ネコバーの口の周りには、クリームがいっぱいついていた。
「口にクリームがついているようですが・・・・・・ 」
「どうして、おばあちゃんをそんな風にいじめるの・・・・・・ 」
ネコバーは泣いた。
「今のお話をきいていると、あなたが悪いと思いました。逆にネコバーさんがかわいそうだと思いました」
「確かに、ネコバさんをいじめているように見えるけども、ケーキはもともと私のですから・・・・・・」
「いいえ。そのケーキには名前が書いていなかったので、所有権はネコバーさんに移っています」
ロボットにいちいち、感情を教え込むことはかなり大変である。
数時間も議論を続けて、らちがあかないと感じたので、私は追加のシナリオをつけた。
「そして、後でネコバーが大切に取っておいたケーキと自分のケーキを勘違いしたのであった」
「私の言っていることはあっていましたね」
人体は得意げに言っているが、人体の頑固さに負けただけである。
ここで、一休みでコマーシャルです。
----コマーシャル----
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----コマーシャル 終わり----
さて、そんな頑固な人体が島で起きた事件を心理テスト用いて、解決したから、皆が驚いたのであった。
今日は、そのことについて紹介する。
「いいか、みんなから苦情が出ているぞ! 」
志熊警部は、博士に詰め寄る。
「酒のつけを払っていないのは申し訳ない。しかし、払わないとは、誰もいっていないだろう」
「そうか。ならば、どうして3年分のつけを支払っていないのだ」
「物忘れが激しいネコバーが悪いだろう」
博士は、あくまで言い逃れをしようとしているので、志熊警部はさらに怒った。
「いいか、なんなら逮捕もできるぞ。それから、お前の家に怖いお兄さんを派遣するぞ! 」
怖いお兄さんとは、渋川やゆうきといった普段は怒らないが、逆鱗に触れると誰よりも激しく怒る人たちのことである。
「文句でもあるならば、議会で責任を追及してもいい。言い逃れができないように、証拠は用意しているからな」
「・・・・・・ 」
志熊警部の言い方は、ひどいが誰も止めない。
なぜならば、博士が酒のつけを支払わないことは、当たり前になってきているからである。
やっと、志熊警部が、帰ると私と大熊、博士は昼飯を食べるために、ネコバー旅館へ行った。
「ネコバーさんもひどいね。つけは支払っただろうに? 」
「10年前のつけを支払ったのでしょう? 」
ネコバーは冷たく返した。
「いや、今日は書類がいつもより倍の速度で片づいてよかった、よかった」
大熊は、わざとらしく肩の疲れをほぐすような仕草を見せた。
「大熊、頼みがあるが・・・・・・ 」
博士はいつもより優しい声で大熊に声をかけた。
「先日、給料を減らされたばかりなので、お金がないのですよ」
「そうか・・・・・・ 」
博士は諦めて、メニューを見る。
私は、机に飾ってあっただるまに目がいき、ネコバーに尋ねる。
「このだるまは、ずいぶん変った色をしていますね」
だるまの色は赤が普通であろうが、そのだるまは、黄色であった。
「金運とはではないか? 」
「ギャンブル使ったり、飲んだくれたり、あなたとは違いますよ! 」
ネコバーは博士に厳しい口調で言った。
確かに、博士の言うとおり、黄色のだるまと言われたら、金運をイメージするだろう。
「このだるまにはね、人を真偽を見破るパワーがあるのよ」
「真偽を見破るだるま? 」
私はオカルトのようなことを言っているネコバーの話に、ハテナのマークが浮かんだ。
「ほう?どんな風に真偽を見破るのだ? 」
大熊は半信半疑で、ニコニコしながらネコバーに聞いた。
「そうね。まずはこのコインを何らかの手で消してからね」
ネコバーはコインを皆に見せると、一瞬で消して見せた。
「おお!だるまがどこに隠したか教えてくれるのだな! 」
博士は興奮したように言った。
「さあ!だるまさん、どこにあるの? 」
ネコバーはわざとらしくだるまに話しかけた。
「うむ。だるまさんが言うには、その手ふきの下に紙があるから読み上げてくれと言っているわ」
「手ふき? 」
博士は、手ふきの下を探し、紙があるのを見つけた。
「ナニナニ、『テレビの上にコインがある』とかいてあるな」
博士は、そう言いテレビの上を探すとコインがあった。
そして、博士と私は、驚いていたが、大熊だけは驚いていなかった。
「来週やる出し物のマジックは素晴らしかったですよ」
「大熊さんも意地悪ね」
大熊が言うマジックとはどんなものなのだろうか。
「たぶん、この部屋のあちらこちらに似たような紙があったり、コインが隠してあるのでしょうね」
「くまさん、鋭いわね。でも、タネを言わないでね」
ネコバーは、かわいくお願いのポーズをした。
それから、昼飯を食べ終えると、ネコバー旅館を後にして旧道へ向かった。
今後、旧道や古い建物をどうするか話し合うためだ。
「この旧灯台は、観光地としては危険だな」
はがれ落ちたコンクリートを見て、博士が言った。
「そうですな。立ち入り禁止にして外から見学してもらうのはどうですか? 」
「名案だ。多少の補強工事をするぐらいでいいだろう」
旧道にある灯台は、かつて南港にある灯台と同様の役割をしていたそうだが、老朽化で使われなくなってしまったのである。
「次に、この旧道はどうしますか? 」
「うむ。我々が、開拓時に使った思い出深い道だから、整備してしまうのはおしいな」
「でも、穴ぼこは直したほうがよい気がしますが・・・・・・ 」
「そうだな。穴ぼこは、何とかしよう」
こうして短時間で、仕事が終わった。
この島には歴史的に貴重な施設が多く、観光客が多いのだが、道や交通など未整備な部分が多い。
「今日は、ごくろうさまでした」
「博士も、つけを早く払ってくださいね」
「ああ、役場の長が、こんなのでは、この島の未来が危ないからな」
博士も責任を全く感じていないわけでもないことが分かったので、私は安心した。
それから、私たちは、野口さんの畑を手伝いに行った。
午後の何もない時間は、いつも野口さんの畑仕事を手伝うことにしており、今日も大収穫であった。
「この大根は、おでんにしたら美味しいでしょうな」
大熊は、収穫したばかりの大根の土をはらいながら言った。
「そうですね。漬け物にはいいでしょうが、おでんに使うにはもっと改良が必要であると考えていますよ」
野口さんは、自分の畑から収穫できる大根の出来具合に満足しながら言った。
私は前から気になっていることを聞いた。
「この島は全てモノは自給自足なのですか? 」
「そうだね、この島の食べ物に関しては、ほぼ自給自足かもしれないけども、機械や雑貨となると全て輸入だね」
私が、次はどんな野菜を栽培したいか、と聞こうとしたしたとき事件が起こった。
「博士、事件です! 」
渋川の呼吸が落ち着いたら、事件の内容を話し始めました。
「実はですね・・・・・・ 」
渋川によると、役場の中が荒らされているということであった。
早速、私たちは役場へ向かった。
「続きは、コマーシャルの後で・・・・・・ 」
天からそんな声が聞こえた・・・・・・ 。
----コマーシャル----
「IT管理研究所からのお知らせです」
「最近、パソコン通信で誹謗中傷が頻発しています」
「一度、書いてしまった内容は世界中に拡散されてしまい消すことはできません」
「それから、相手の心の傷は治りません」
「以上、IT管理研究所からのお知らせでした」
「ログオン編集部から今週のゲームランキングのお知らせです」
「ランキングは全部で、3位まで発表! 」
「あなたのお気に入りのゲームはランキングに入っているでしょうか!? 」
「それでは、見てみよう! 」
「第3位は、PC89版『COSMOS戦記~そして伝説に』です」
「今週に引き続き、3位ですが、エレ研がんばれ! 」
「続いては、第2位です」
「第2位は、NSX版『ザ・マネージメント』」
「共栄ソフトが、また教育ゲームを販売して上位に入ったぜ」
「いよいよ、気になる第1位は・・・・・・ 」
「第1位は、X6800版『イーストⅠ』です」
「このゲームは日本ファアルコンの作品で、売上が過去最高です」
「以上、ログオン編集部からのお知らせでした」
----コマーシャル 終わり----
私たちは、役場に着くと思わず、息をのんだ。
なぜならば、役場の書類が荒らされていたからである。
「後で整理するのが大変だな」
「そうですね。一度も書類の整理をしたことがない博士にとって他人事ですよね」
大熊は、にこやかに嫌みを言った。
「そんな事よりも、盗まれたものがないか確認しましょう」
私がそう言い、盗まれたものがないか確認する。
そして、博士の現金がなくなっていた。
「たぶん、集金が力ずくでお金を回収しに来たのですね。集金さんお疲れです」
渋川は、博士の盗まれたお金よりも、集金の人のことを気遣う。
「そこまで、借金をしていたとは・・・・・・ 」
大熊は、博士を見る。
「いやいや、私は借金なんてしていないぞ! 」
博士は、本当だよ、という真面目な顔をする。
冗談は置いておいて、私は志熊警部に連絡をして現場検証を行った。
「これは、集金ですな」
志熊警部は、博士を見ていった。
「志熊警部、その冗談はもう言いましたよ」
私は志熊警部に耳打ちをする。
「そうか、ならば、殺人だな」
志熊警部は深刻そうに言った。
「すまんが、担当の警部を変えてくれないか? 」
一緒に現場検証に来ていたマルタ警部に、大熊は言う。
「すいませんね。この島では事件があまり起こらないので、意気込んでいるのですよ」
おどおどした口調で、マルタ警部は申し訳なさそうに言った。
大熊は、諦めて志熊警部に分かりきったことを言う。
「人が殺されていないので、殺人ではありませんよ」
「おお、そうか」
志熊警部は冷静にそう言ったが、このままでは事件は思いもよらぬ方向へいきそうだ。
私がそのような心配をしていたら、ロボットの人体がやってきた。
「その謎は、名探偵にお任せ!見た目はロボット、頭脳は人間・・・・・・ 」
人体は何かの探偵アニメに影響されたように言い出した。
「おお、そうか。ならば名探偵に解いてもらおう」
警察の志熊警部が言ったので驚いた。
「志熊警部、警察なのに何をおしゃっているのですか? 」
「いいではないか、疲れたから一旦、休憩だ」
志熊警部はそう言い、椅子に腰掛けた。
「いいかしら、今から心理テストを通して事件を解決するわ! 」
人体は、そう言い、心理テストの質問用紙を皆に渡す。
「いつの間に用意した!? 」
博士の質問は、その通りであるが、人体は無視した。
「まずは、名前を書いてください。それから、心理テストを開始します」
皆が名前を書き終えたのを見ると、人体が合図して心理テストがスタートした。
ここで、心理テストの内容を書いておく。
----心理テスト 質問事項----
「1、あなたは、困りごとがある(Y/N)」
「2、絶対に嘘はつかない(Y/N)」
「3、正義のためなら、どんな手段も使う」
以下、省略
「100、あなたは、犯人を知っている(Y/N)」
---- 以上 ----
心理テストの内容は、100問あり、どれも事件とは全く関係ないように思われた。
「本当にこれで、犯人が分かるのですか? 」
私は疑問を、人体に聞く。
「そうね。少なくとも、犯人はこの中にいることは確信していたわ」
「どこで、確信した? 」
志熊警部は、名探偵に質問をする。
「そうね。事件の概要と博士の盗まれたお金と聞いたときに犯人がだいたい絞れて、心理テストで確信したわ」
人体には自信があるようであった。
「それで、心理テストの結果、どこの部分から誰が犯人と分かった? 」
志熊警部は、再び名探偵に質問する。
「まず、69問目と96問目の答えの結果に書いてあるように・・・・・・ 」
人体は、心理テストの紙を再度、皆に見せる。
その紙には、『69 あなたは任務のためなら手段を選ばない』と書いてあった。
それから『96 間違っていたとしても、やり遂げる』と書いてある。
「この『任務』について、みなさんはきっと、自分の仕事や役割を考えたことでしょう」
人体は全ての人を見渡す。
「そして、『Y』と答えたらその人の仕事は、ルールや法で縛られており、柔軟な変更がきかないに仕事をしているということになります」
人体がそんな風に言うと、大熊は意見を述べた。
「つまり、公務員が犯人ということか? 」
「そう。だから犯人はある程度、絞ることは可能だわ。しかし、それでも対象が多くなるから次の質問があるのよ」
人体は、大熊の質問に適切に答えた。
「次の質問は、『間違っていたとしても、やり遂げる』ということから、戦時中に軍の関係者または、秘密警察に所属していた人ならば『Y』と答えるでしょうね」
人体がそう言い終わると、皆は一斉に志熊警部を見た。
「まさか、こんな心理テストで犯人が分かるとは驚きだな」
志熊警部は、おかしそうに言った。
「志熊警部、動機は何ですか? 」
大熊は、驚いたように聞いた。
「そうだな。動機は、恋人岬の崖に行って話そう」
志熊警部の提案で、皆は1時間もかけて、恋人岬へ行った。
恋人岬へ着くと、皆は決まった立ち位置を確認した後に再びはじまった。
「そうさ。俺は、博士のつけで困っているみんなを思ってやったのだ! 」
志熊警部は、険しい顔をしながら言った。
「やめろ、おふくろさんが悲しむぞ! 」
マルタ警部は、刑事ドラマ風のセリフを言った。
「そんなことをしても、某さんは戻ってこないわよ」
人体も刑事ドラマ風にそう言い、崖の端にいる志熊警部を説得した。
「うるさい、俺はこの崖から落ちて自殺する! 」
志熊警部は、海に飛び込んで自殺しようとする。
「そんな茶番はいいですが、もとは博士がため込んだ未払いのつけが原因ではないですか? 」
私は、皆の茶番をあきれながら見て、思わず言った。
「そうだな。俺がつけを皆に支払わないから悪いのだ! 」
博士は、おかしいと思いつつも、台本に書いてあるセリフをそのまま言った。
「博士、つけの未払いで禁固刑にする! 」
志熊警部は、そう言い、パトカーに乗せる。
「待ってくれよ!裁判ぐらい受けさせてくれよ! 」
博士は、台本にないセリフを言う。
「博士・・・・・・ 」
皆は台本に書いてあるように、涙を流しながらパトカーを見送ったのであった。
「却下だな」
大熊は原稿を見て、志熊警部に言った。
「どうしてですか? 」
「最後の一時間もかけて、恋人岬に行く意味なし! 」
注意したいことは、人体が心理テストを使って、志熊警部が犯人と突き止めたのは真実である。
しかし、最後のおかしなオチは、志熊警部が勝手に付けた足したものである。
終わり