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とある男の日常

作者: 福田有希



毎日、何も無い一日。

朝起きて、仕事して、帰ってからシャワーを浴び、

ご飯を食べて、寝て。

いつもの変わらない日常。


こんな日常が変わって行った。

そう、あの日が来るまでは。


----------


朝6時 起床。

目覚ましがけたたましく鳴り響く。

眠い目をこすりながらいつもの朝がきた。

顔を洗い、歯を磨き、

仕事の準備をする。


朝6時40分

出勤、毎日同じ道を通る。

何もなく私は会社に着く。


朝7時20分

休憩所でコーヒーとタバコを吸う。

これが無いと朝が始まった気にならない。


朝8時

仕事開始。

いつもどおりのいつもの仕事、

くそったれ! 下らんことで腹を立てる。


午後5時定時で終了

残業なんかやってられるか!

くだらねえ仕事なんていつまででもやってられるか!


午後6時半

買い物に行く、一人暮らしだから何食ってもいい。


午後7時

シャワーを浴びる。

仕事で汚れた体を洗い流し今日の疲れを取る。


午後7時半

ご飯を食べる。

毎日好きなものを食べる。 文句はねえ。


そしてそこからが俺の時間だ

どこにも行かずくだらないテレビを見て

パソコンのメールを開きメールを読む

ほとんどがくだらない業者からのメールだ

消去する身にもなれってんだ!


午後0時

寝る。

布団に入っている時間が俺にとって、

十分に安らぎを与えてくれる時間だ。


これが俺の一日のサイクルだ。

つまらねえ人生だと? ああとてもくだらねえ人生だよ。

そんな人生が俺の人生だ。

趣味も無い、何の楽しみもない、これが俺の生活だ。



俺はいつもどおりのサイクルをしていった。

毎日毎日同じサイクルを繰り返していた。


『おい 今日お前暇か?』

突然、同僚の田中から誘いがかかった。

どうせ今日、呑みに行こうという誘いであろう。

田中は俺と同期の部署違いのやつだ。

友達といえる間柄ではないがたまに誘ってくれる。

『暇に決まってるだろ どうした?』

今日、飲みにいかねえか? いつものところでさ!

俺はあきれて言う。

『あの店か、あの店はお前のお気に入りの子がいるんだっけな』

田中はちょっとムッとした感じで、

お気に入りの子がいるから飲みに行くんだよ。

誰が知らない婆さんの店に行くかよ!

確かにそうだと想いながら俺は誘いに乗った。


仕事が終わり田中と一緒にのみに行く。

そういえば田中と呑みに行くのは久しぶりだ。

数ヶ月ぶりといってもおかしくないだろう。


店に入り田中はカウンターに座る。

絶対にカウンターと決まっている。

田中のお気に入りはこの店のアルバイトだからだ。

俺ビールね。あとなんか頼んどいて。

田中にひとこと言うと俺はトイレに向かった。



トイレから戻ってみると田中とアルバイトが話している。

(戻りにくいな。さっさと注文しちゃえよ)と想いながら、

田中の注文が終わるのを待つ。

注文が終わってアルバイトが戻っていったところを見計らって、

俺は席に戻る。

『なげえトイレだな。』

(うるせーな、てめーのせいだろ)と想いながら、

呑むんだから最初にトイレで出すもん出してから呑みいてえんだよ。


それにしてもお前本当にあのアルバイトに夢中だな。

何処が気に入ったんだ?

田中は押し黙って言葉を捜してる様子だった。

『まぁ別に良いけどさ、人の好き嫌いには興味が無い』


田中はムッとして、お前は本当に無関心なこと多いよな。

好きな人とかいねえの? お前の無表情さのほうが不思議なんだよ。

確かに俺は無関心だ。自分以外のことには興味が無い。

それで生きてきたしそれで不自由なく暮らしてる。

だから不思議と田中に言われたときはなぜかわからなかった。


アルバイトの子が生ビールを持ってきた。

それと酒のあても持ってきた。

お!来た来た! やっぱり最初はビールに限るだろ?

俺も確かに最初はビールと決まっている。

『それでは乾杯しようか!』

田中と乾杯をしビールを飲む。

何についての乾杯なんだ?という疑問を残しながら。。。



田中はビールを一気に飲み干した。

こいつこんなに飲めるやつだったかとおもい、

二杯目のビールに手を伸ばしていた。

俺はマイペースに自分の好きなように飲む。

それが俺だからだ。

俺も飲み干して2杯目に手をのばすころには、

田中は4杯目に手を伸ばしていた。

お前こんなペースで飲むやつだったか?

田中に聞いてみたが答えが無い。

ほっけ開きがきたので俺は食べていた。

ほっけ美味いぞ 田中も食えよ。

ビールの手が止まり田中もほっけを食べ始めた。


今度の人事異動知ってるか?

田中が突然に口を開いた。

俺は大規模な人事異動と聞いてるくらいだ。

田中おまえ人事異動されるのか?

おれ? まさか。

ここでこういう話が来たと言うことは、

俺が人事異動か。。。

俺の心を読んだように『お前も移動しねえよ』

(おまえ エスパーか・・・)

お前は無愛想で無関心なやつだけど、顔に出るんだよ。

顔にねぇ。ぜんぜん気か付かなかったけどよく見てるな。

同期をなめるな。

わかったよ、それで誰が人事異動の対象なんだ?


『俺とお前以外のやつ全員だよ』



俺はわりと大きめの企業に勤めている。

大企業といいがたいが中小企業と言うより大きい中堅企業だ。

社員数1000人以下のある程度の規模だ。

そこで設計事業部という部署で働いている。

田中とは同期で営業をやっている。


田中が営業で持ってきた案件をよく俺が設計している。

案件は色々なところからいただいてくることが多く、

大企業から中小企業からさまざまで、設計するほうも大変な仕事だ。

俺の居る設計課は新人も入れて全部で7人。

新人に教える教育者が居るが仕事が終わればさっさと帰る人たちで、

仕事以外のつながりはまったく無い。

逆に営業がメーカーと打ち合わせをしてきて、

設計課に仕事を持ってくるので営業課とのつながりが多い。

田中もその一人だ。


会社の部署は他にも総務課、試作課、などが存在するが、

設計課が試作課や総務課に行くことはめったに無い。

横のつながりがまったくとは言わないが無い会社なのである。

その会社の人事異動が俺と田中を除いて、

全員が人事異動対象となると言うのは前代未聞だ。


何だよ、その人事異動は。会社をたたむ気でいるのか?

社長が言うには『ローテーション』だそうだ。

(どんなローテーションだよ)とおもいながら、

ビールを飲み干した。



焼き鳥くいてえ。田中が突然行った。

じゃあ俺は塩、ビールも頼んどいてくれ。

人事異動の話は俺もビックリはしたが、

移動はしないと言う言葉を聞いて安心したのか。

なぜか今日は呑みたくなってきた。

しかし田中はこの異常な移動にすごい不安を感じているようだ。

おまえさ、なぜこの2人が移動されないんだ?

ほかのやつら全員移動されるんだぜ。

2人だけ残ると言うのはお前は不安じゃないのか?

たしかにこの移動はすごく違和感がある。

それに俺と田中以外と言うのもおかしい。

移動命令がおかしいか、それとも俺ら2人だけ。

まだ何処に移動させればいいのか決めれないんじゃないのか?

それで移動命令がきてないのかもしれない。

もしくは移動命令が決めれないほど、

俺ら2人は会社にとって要らない存在なのかもしれない。

しかし考えてもしょうがない。

いつか来るかもしれない、こないかもしれない命令に、

いちいち考える気がないからだ。

なんとかなるんじゃないの? 俺は田中にそういった。



田中は昔から神経質なところがある。

昔といっても同期入社のときからでしか知らないが、

入社式のとき隣に座っていたのが田中だ。

落ち着きがなく横でイライラしていて入社式を覚えていないくらい、

こいつにはイライラした。はっきり言えば嫌いなタイプだ。

しかし田中が営業課に配属されてから、

新規の契約を営業課トップで取ってきたというツワモノである。

営業で飛び込みで契約を取ることはまず無理に等しい。

新規の会社に飛び込んでいっても、

実績が無い会社に仕事を頼むことは賭けに等しいからだ。

そのとき俺が田中の新規の仕事を設計したことが、

俺と田中の始めての仕事だった。

田中は相手企業の条件を次々と言ってきて、

無理難題を毎日のように押し付けてきて、

こいつにはいつもイライラさせられた。

しかし田中は今思うと的確な指示をしてきたように思う。

そのおかげで新規のすべての仕事が終わり、

田中と2人で呑みに行ったのが最初だ。

2人で笑いあって御互いにお疲れさまとねぎらいながら、

ビールを飲み干していた。

田中はとてもうれしそうに俺に感謝していた。

お前のおかげでこの仕事が成功したようなものだよ。

お前と組んで本当によかった。

田中は俺にそういってビールを飲んでいた。

俺はと言うと田中の的確な指示に従っただけだが、

感謝されるとうれしいものだとあの時は思った。

こちらこそありがとな。俺が田中に言えた言葉だった。



今日 呑みに誘ってきたのは人事異動のことだったのか?

田中は心配性だけどこれくらいのことで動じるようなやつではない。

俺と同じように、どうにかなるというものがこいつには備わってるからだ。

アルバイトの姉ちゃんを見にきただけというのもおかしい。

他になにかあると読んだ俺は田中に聞いてみることにした。。


『それだけで俺を誘ったわけじゃないだろ?』


田中は明らかに動揺した。

そして重たい口をあけて俺に行ってきた。

ある企業から誘われてる。

ある企業? 営業で入った会社か?

東京の企業で営業と技術者を探してる。

お前も来てくれないか?

その話に俺も動揺を隠せなかった。

田中はその企業の話を始めた。

誰にでも名前を聞いたことのある大手企業だ。

企業から直接、田中に連絡がきて、

逢って話をしてきたという。

会社にも行ってきてきたらしいが、

技術者が自分の思っていたような人たちと違い、

俺にその話が回ってきたと言うことらしい。

つまり俺は田中を通じて企業代表として俺に話を持ちかけてきた。

おれはその企業を見てきたわけではない。

そして俺はその企業との縁も無い。

そんな俺になぜ技術者候補として名が挙がったのか、

この田中が企業と交渉してきたと言うわけだ。

この答えはいつまでに出せばいい。

田中は早い返事を待っているといった。

企業訪問をさせてくれ。

気に入らない会社にいつわるつもりは無い。

月曜日、その企業が逢いに来る。

そのときにお前との話をしたいということだ。

月曜日、納期のものは全部終わり。

確かに仕事が薄くなっている日だがいきなり過ぎないか?


田中の言うとおりの企業なら俺の仕事の厚みが変わる。

すごく魅力的な仕事内容だ。

俺は少し考えたふりをして、月曜日に会うよう、

田中にセッティングしてもらうようにした。



しかし突然、物事はやってくる。

それがいいことなのか悪いことなのかわからないが、

いつ何処で何が起きるのかわからない。

いつもの日常が今日 崩された気がしてくる。

俺に不安が押し寄せてくる。

何が不安なのか? 俺にもわからない。

今日と言う日が何も無い自分だけのルーチンで過ごしてきて、

突然、違うことを行うことへの不安か?

なにも起きない人生だった自分の日常が、

一気に崩されたような不安感か?

ちがうそうじゃない。

目の前にある問題が多すぎて、

自分でどのようにしたらいいのかわからない不安感。

自分ではどうすることもできない不安が来たからだ。

世の中は常に回っている。

その世の中に取り残されていた生活をしてきた俺にとって、

世の中の動きの速度についていけなくなってきたからだ。

いつからそのように動きに耐えれなくなってきたのか。

自分ではわからないがとにかくどうしようもない不安が、

今の俺にのしかかってきているように感じる。

得体の知れない何かが襲ってきているような感覚、

人事異動? ちがう。 ある企業からの誘い? ちがう。

そんなものはなんとでもなる 何とかなるものだ。


田中? そう考えたとき思考が止まった。

俺は田中を恐れてる? なぜ? どうして?

こいつの考えは簡単だ。

ある企業に誘われた。そこに俺を入れたいと言っている。

単純なことに過ぎない。

そう言っていることはすごく単純だ。

その単純な答えに俺は恐れている? ちがう。

おれは田中自身を恐れているんだ。

なぜだ? なんでだ? わからねえ。

よく考えろ 何かが引っかかってるようにおもう。

それが恐れにつながっているような気がするんだ。

よく考えろ 月曜日。。。

わからない。考えがまとまらない。

自分はどうしたいんだ? 今まで自分のことを考えてこなかった。

自分は何をしたいんだ? どうなりたいんだ?


そうだそれだ田中は常にどうしたいのか。

こうしたい、このようにしたいと常に考えてきた。

そして自分の信じた道を常に歩いてきた。

俺とは正反対の行き方をしてきたんだ。

そこで田中は俺を試してきているのか?


『おまえはどうするんだ』


その答えを俺に求めてきている。

求められて困るところを一番俺に無いところを、

田中から突きつけられてきたからだ。

だからおれは戸惑っている。

そしてすべてを見透かしてきている田中を恐れているんだ。


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