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魔王を発狂させた元凶は僕でした  作者: トベケイキ
二章
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四十一話 ランクアップテスト その④

 〈アレウス〉中心街に位置する圧倒的な存在感を漂わせるメインコロシアム。

 ブレイブギルド公式のブレイブ同士の試合は、いつにもましてコロシアムの熱気を上げる火種になっていた。


 そんなコロシアムの地下一階、選手控え室にてーー。


「え、僕の初戦の相手は、(こん)トーナメントぶっちぎりの優勝候補でもある帝国ギルド所属の『剣遊武戯(クラウンソード)』の異名で畏怖される超実力派ブレイブ……だと?」


「負けね、間違いなく。お疲れ様」


 先日から発表されていた対戦表を試合直前の今更になって確認していた。

 僕の出番はまさかの一回戦第一試合。

 その対戦内容を聞くや否や、さっそくアティナが僕の敗北を宣言してきた。


「『剣遊武戯(くらうんそーど)』……何やら只者ではなさそうな異名ですね」


「武術界ではけっこう名が知れた男だった筈だぜ。まさかブレイブになっていたとはな」


 僕は全然知らないけど、エーテルの言い方だと相当腕が立つようだ。

 ちなみに、ブレイブのランクは、測定した魔力量と実績が基準で決まるものなので、同じBランクだと言っても同じ実力とは限らない。

 例えばBランクのブレイブだからといって、Aランクのブレイブよりも弱いとは言い切れないのだ。

 魔力の丈が戦闘力に直結することが多い故の取り決めだが、少数でも中には少ない魔力で武術や体術を極めてAランク以上の戦闘能力を有する猛者も存在する。

 『剣遊武戯(クラウンソード)』もその一人なのだろう。

 要するに僕がまともに戦って勝てる可能性は皆無ということだ。


「クズゴミ、悪いことは言いません。大怪我するくらいなら棄権した方がいいに決まってます。可能なら時には引くこともまた勇気ですよ」


 カオリンが煽りや憐れみ抜きのガチな心配の言葉を僕にかけてくる。

 しかしそれに頷くぐらいなら最初からここには来ていない。


「すまんねカオリン、もうやるって決めたんだ。それが遥か格上の敵だろうと相対すさ。なに、やばそうだったらすぐに降参するから心配するなって」


「クズゴミ……」


 ここぞとばかりにバッチリとカッコつける僕。

 カッコついたかは不明だが。


「向こうは対人のプロだから殺されることは無いと思うが、本当に無理だと感じたらすぐ白旗あげろよな」


「あんたはクズだけど馬鹿じゃない筈よ。勇敢と無謀を履き違えないでね」


「何だよ……アティナとエーテルまで」


 本番直前だからか、エーテルと今まで茶化しまくっていたアティナまで心配そうな感じになっている。

 クズだけどってのが気になるが。


「よし……ちょっとトイレ行ってくる」


「駄目よ。逃げるつもりでしょ」


「我慢しろ。どうせすぐ終わる」


「引くことも勇気と言いましたが、やはり始まる前から諦めるのは男らしくないですよ」


「三人は僕の味方なの? 味方じゃないの?」


 結局、この期に及んで逃げるつもりは無かったのだが、訳あってトイレには行きたかったので、ゴネまくったら見張りつきなら仕方ないということになった。

 どうもこの手のことは一ミリも信用されないのも悲しいことだ。



 十分後。

 控え室のドアをノックしてコロシアムのスタッフの人が顔を覗かせた。


「スターレット選手、試合開始五分前です。入場ゲートで待機していて下さい」


 そう言われ、とうとうこの時が来たんだなと実感する。

 ここから先は僕一人だ。

 もう後には引けない。

 僕の人生でこんな戦いがあるとは思ってもみなかったから、人生とは分からないもんだ。


「じゃあ三人とも、行ってくるよ。大番狂わせってやつを見せてやる」


 剣と体術を特訓をしてくれたカオリン。

 魔法と魔力を教示してくれたエーテル。

 ついでに、週一で僕の血を吸おうと強襲してくるのに、この街に来てからはそれを我慢してくれていたアティナ。


 全く期待してない様子の三人のためにも勝ってみせる……!



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ーーコロシアムにご来場の皆様、長らくお待たせしました! これより、ブレイブズバトルトーナメント一回戦第一試合を開戦いたしますっ!!」


 ドーム端にある実況席にいる、派手な服を着た実況者がそう宣言すると同時、何千人はいるであろう観客から大歓声があがった。

 観客たちもそのへんの盛り上げ方は慣れている。

 僕なんかは会場のボルテージに圧を受けっぱなしでおんまり騒ぐ気にもなれないくらいだ。

 ちなみランクアップテストって名前だと盛り上がらないから今実況の人が言った名前で呼ばれるらしい。


『さあ、まず最初に登場するのはこのブレイブ! なんとあのSランクブレイブ、バンベルク・ウォッチャ氏の推薦にて出場! 魔王軍四天王撃退に大きく貢献した実績持ち! 大会遅刻は余裕の表れか! Bランクブレイブ、イグザンプル街ギルド所属! クズゴミ・スターレットだぁぁ!!』


 実況の人の僕の紹介に再び歓声があがる。

 大会遅刻と言われたのは朝イチの警察沙汰のせいで定刻に間に合わなかったことだ。

 おかげで開会式に出れなくて、トーナメントのスタッフの人に怒られるはで最悪だった。

 なんかこの街に来てから怒られてばっかりな気がする。


「ほら呼ばれたぞ。はやく行きなさい。中央に開始線があるからそこで待つんだぞ」


「は、はい」


 後ろからスタッフの人に言われて僕は慌ててゲートを出た。

 薄暗いゲートまでの通路を抜けると、眩しいと感じてまもなく、観客たちの目線と歓声が自分に集中しているのを肌で実感する。

 それには僕としても珍しく、ここにきて緊張してしまうほどだ。


『続いて登場するブレイブはーー! 剣術武界最強の男がブレイブ業界に参戦だぁ! その技は曰く、ドラゴンを両断し! 曰く、吸血鬼を屠さり! 曰く、魔人を退けた! まさに敵無し、天下無双の侍の戦いが見られるぞ! Bランクブレイブ、帝国ギルド所属! “剣遊武戯(クラウンソード)”カズ・ブライアンーー!』


 そう紹介されるとすぐ、僕の時よりもずっと大きい歓声が響いた。

 僕は一ミリも知らなかったが、相当名の知れた人のようだし、観客の期待も大きいのだろう。

 きっと僕なんかは当て馬だ。


 ーーしかし会場のボルテージが高まる中、異変が起きた。

 紹介のコールがされたにも関わらず、カズ・ブライアンが登場しない。

 そこへ実況席に小走りで大会スタッフの人が駆け寄り、実況に何かを伝えた模様。


『ーーーーえー、会場の皆様へお知らせ致します。たった今あった連絡によりますと、カズ・ブライアン選手ですが、トラブル発生のため直ちに会場に出ることが難しい状態……とのことです!』


 そのアナウンスに、期待の声援があがっていた観客席は一変、不安が漂うざわめきが流れる。

 そしてアナウンスは続き、


『更に続けてお知らせ致します。皆様ご存じの通り、今トーナメントでは一般で行われるコロシアムのルールを一部則っています』


 ちなみに僕はご存じない。


『ルール上、紹介コールの後に五分が経過しても会場に未登場の場合、その者を失格とする……とあります。仮にカズ・ブライアン選手がこのまま現れなければ、クズゴミ・スターレット選手の不戦勝という形となりますがーーしかしわたくしの経験上そんなこと滅多には……』


 その説明に更にざわめく会場。

 そしてそのルールだけは把握していた僕は、内心グッと拳を握った。

 初戦からまさかの事態に、面白がる人や、せっかく見たかった試合が見れないかもと落胆してる人など、様々な様子。



 まあそのカズ・ブライアンは僕が下剤を盛ってやったから今頃トイレに磔になっているだろうがな。



 試合が始まる前トイレに行った時に、既に僕は行動していた。

 『オーバー・ザ・ワールド』と『ベネフィット・スターズ』第一の能力を使って相手の控え室に潜入し、誰にも悟られることなく、『剣遊武戯(クラウンソード)』の飲み物にこの日の為に入手しておいた大量の無味無臭超強力下剤をぶち込んでやったのだ。

 敵もやはり毒を盛られることを警戒してた様子で、控え室にあった飲み物には手をつけていなかったが、そんなことは想定内。

 僕が下剤を入れたのは奴らが自分で用意した飲み物だ。

 通常それに一服盛るのは困難極めるだろうが、僕の能力のおかげで容易に達成した。

 タイミングもバッチリで、『剣遊武戯(クラウンソード)』の奴が一度飲んだ後のものに入れることが出来た。

 流石にどんな慎重な警戒心の強い奴でも自分で大丈夫だと太鼓判を押したものを更に疑ったりはしないだろう。

 結果、奴は自分で用意して一度口にした飲み物に一服盛られいるとは夢にも思わなかったらしく、あっさりと飲んでくれた。


 下剤がたっぷり入った飲み物をな……!


 おかげで僕は安心してこの場に出て来れたって訳だ。

 奴が脱糞しながらでも戦うと言うなら話は別だが。


 そして紹介コールから一分が経ち。 

 二分が経ち。

 三分、四分。

 ついに、五分が経過したーー!


『タ、タイムア〜ップ! カズ・ブライアン選手、タイムオーバーのため失格! よって勝者は、クズゴミ・スターレット選手ですっ!』


 経過すると同時、時計を見計らった実況から僕の勝利が宣言された。

 やはり大衆面前の前で漏らすリスクはおかせなかったらしい。

 僕はグッと握った拳を掲げ己が勝利を誇負するが、当然こんな結果に納得のいかない観客席から大量のブーイングの嵐がおこる。


「ふざけるなー! そんなのありかー!」


「金返せー!」


「俺が代わりに出て戦かったろかー!」


 血の気の多い客から野蛮なヤジが飛び交っていた。

 空き瓶が投げられまくれ危うく乱入騒ぎに発展しそうなところだが、勝利の余韻に浸っている僕にはどうでもいいことだ。

 沈静化する大会スタッフの人も大変だナ。

 しかし、何はともあれーー。


「やった! 勝った! よっしゃ誰だよ、一回戦敗退確実なんて言ってたのはよ! 楽勝じゃないかザマァみやがれ! ガハハハハハ!」


 控え室に戻るなり僕は胸の内の歓喜を表すが如く騒ぎまくった。

 しかしそれをやや冷えた目で見つめるカオリンとエーテル。


「おいおいどうした? こうして勝利した上に五体満足の無傷で戻ってきたんだ。もっと喜んでくれよ。あんなに心配してくれてたじゃないか」


「その調子に乗った態度を見ていると心配して損したと心底思います」


「腕の一本でも折られて現実って奴を思い知って欲しかったぐらいだぜ」


 実に辛辣な言葉だが、今の僕は()()()()だから簡単に受け流す余裕がある。


「けっ、言ってろって……ところでアティナはどしたの? あんな隅っこでうずくまっちゃって」


 それより気になったのはこの事態に一番文句も言ってきそうなアティナが、やたら静かだってことだ。

 この世の終わりかのように部屋の角に向かって体育座りして落ち込んでる。


「さぁ……試合中からかなり騒いでましたがクズゴミの勝ちが決まった途端にあの様子でして。聞いてもほっといてとしか言わないのです」


「あれだけクズゴミの負けを推してた手前、予想が覆ってショックだったのかもしれねぇな」


 二人はアティナの状態にハテナの様子らしいが、僕にはピンときた。

 僕はアティナに歩み寄り、ひっそりと話しかける。


「アティナ……馬鹿が。仲間の勝利を(こいねが)う健気な女神のような思考がお前にあれば倍率百倍が当たっていたのに」


「ぐっ……何よ、知ってたって訳ね」


 そう、今回の試合には裏でトトカルチョが行われていて、僕が百倍で相手の『剣遊武戯(クラウンソード)』が1.2倍という偏ったオッズになるほど、僕の勝ちは皆無という予想が流れていたのだ。

 アティナも当初から言っていたように僕の負けを疑わず、『剣遊武戯(クラウンソード)』の勝ちに賭けたのだろう。


「絶対にクズゴミが負けると思ってたからつい勢いで財産の半分を賭けてしまったわ……結果このざまよ」


 馬鹿だこいつ。


「あ! いま馬鹿だって思ったでしょ。いいわよ! 笑いたきゃ笑いなさいよ。ギャンブルで大金をすった惨めな私をさぁ……うわーん」


「だあはははははは! ザマァみやがれ! 散々人のことを見下すからバチがあったったんだ! 同情の余地もない馬鹿な散財ゴフッ!? ちょ! 待って! 笑いたきゃ笑えって言ったくせに痛いっ!?」


 お言葉に甘えて爆笑していたらキレたアティナが暴力を振るってきやがった。

 自分の不幸を敢えて笑わせて、無理やりその代償に鉄拳を見舞ってくるとは、なんて酷い奴なんだ。


「はぁ、はぁ、だけどねクズゴミ、調子に乗ってられるのも今のうちよ。不戦勝なんてラッキーはもうこれっきりに決まってるじゃない。あんたは次で終わりよ。次で負けた分は取り戻してチャラにしてやるんだから」


 ひとしきり僕をボコボコにしたアティナは、そんなことを宣言してきた。


「うぐぐ……へっ、出来るといいな」


 フラフラになりながらも、アティナの言葉にほくそ笑んでしまう僕。

 次も番外戦術で不戦勝を狙うからアティナの損は決まったようなものだからナ。


「まあ、いざとなればクズゴミを半殺しにして試合に出させなければいいだけだしね」


「じょ、冗談だよな……?」



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 コロシアム付近のとある路地裏に位置する店。

 そこでも、ランクアップテストのトーナメントを対象にした非合法の賭けが行われていた。


「ひゃっほう! まさか勝つとは思わなかったぜい! このクズゴミってやつには感謝だな! ワハハ!」


 上機嫌で酒瓶片手に受付から大金を受け取る男。

 どうやら『剣遊武戯(クラウンソード)』が必ず勝つと予想された試合で僕に賭けてたらしい。

 倍率の高さに目が眩んだだけかもしれないが。


「……馬鹿な野郎だ、無事に帰れる筈ねえのによ」


「この店が誰が仕切っている店か知らねーようだ」


 コソコソ声で揚々と出て行く音を尻目に話す会話が聞こえた。

 どうもここの店は()()()達が営んでるようで、今みたいな大穴が的中した客には裏で回収作業を行うらしい。

 ちなみに『アイズ・オブ・ヘブン』でさっきの客の行く末を見てみようとも思ったが、恐ろしいからやめといた。

 まあしかし、そういう店だと言うのは織り込み済み。

 むしろそういうのをわざわざ探したくらいだ。


「これを」


「……! お、おめでとうございます。百倍の払い戻しですね」


 僕も受付であらかじめ自分に賭けてたおいた券を渡す。

 明らかに一瞬引きつった表情を窺わせた受付の人。

 そりゃそうだろう。

 僕の場合、必ず勝つ確信があったからな。

 もちろん、全財産をぶっぱしておいた。

 それが百倍の払い戻しなので金額がえらいことになっているのだ。

 しかし店側に払わないという選択は出来ない。

 怖い人達というのは面子を重んじる故、他の客が沢山いる手前、当たったけど金は払えませんなどという面子が潰れるような真似はしない筈なのだ。

 まあどうせ裏で証拠なく回収する金だからと、表面上はとりあえずは金を渡してくる。

 僕としてはそれで充分だった。


「また来る」


 そう言い残し、金を受け取った僕は店を後にする。

 ちなみに今の僕の格好は身バレしない様に、顔を仮面で隠し、ダボっとしたローブを着て変装している状態。

 声も練習しておいた声帯模写で変えている念の入れようだ。

 そもそも出場するブレイブ本人は賭けに参加出来ないらしいからな。

 そして僕は店を出ると同時に、『ベネフィット・スターズ』第一の能力で身を隠す。

 すると直ぐに。


「あ!? さっきローブ仮面野郎は何処へ消えた!?」


「探せ! まだ遠くへは言ってない筈だ!」


 やはり店から追ってが現れた。

 僕のこと認識出来ない奴らは、僕は入口横に立っているにも関わらず、明後日の方向へと駆けていく。

 僕に能力がなければ危うく取っ捕まって金を奪われ口封じされていたところだ。

 実に恐ろしい……!


「さて、戻るか」


 恐ろしいという思いとは裏腹にニコニコしながら僕はランクアップテストが終わる頃にはひと財産築ける予感でいっぱいだった。

 その分、ハラハラドキドキもあるが、ギャンブルはこうでなくちゃ。


 僕の場合、ギャンブルは必ず勝つギャンブルか負けても大丈夫なギャンブルしかやらないがな。

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