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魔王を発狂させた元凶は僕でした  作者: トベケイキ
二章
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三十九話 ランクアップテスト その②

 早まった真似をする前に導火線に火のついた爆弾ような状態のアティナを連れてなんとか博覧館を後にした僕。

 このままだと見境なく八つ当たりに噛みつきそうな勢いだったが、屋台の串焼きやアイスを奢ってあげたら機嫌を良くしてくれた。


「チョロい奴で助かった」


「なんか言った?」


「いや別に……そういえばグングニル元に戻ってたな。いつの間に直したんだ?」


 この間の四天王戦の時に確か半分に切られてた筈。


「ああ、あれね。何回も言ってるでしょ。そんじょそこらの槍とは違うのよ。切断されたくらいなら時間が経てば勝手にくっつくようになってるの」


「へえ」


 じゃあなんであの時あんなに凹んでたんだ?

 まあ今となってはどうでもいいけど。


「ん、なんだありゃ?」


 街を歩いていると何やら小さな人混みが出来ているのを発見した。

 様子をパッと見た感じだと揉め事みたいだ。

 ガラの悪い男が女の子にからんでいる。

 しかもその女の子というのは……。


「おっと、待ちな。そこらへんにしてもらおうか」


「あん? 何だテメェ」


 気がつけば僕は瞬時に人混みをぬけて男の前へと割り込んだ。

 睨みつけられるも僕はちょっとしか動じない。


「えっ……ク、クズゴミくん?」


 からまれていたのはスピアちゃんだった。

 普段なら自分の関係ない揉め事はスルーするかも分からないけど、スピアちゃんの危機ならば助けない訳にはいかない。

 きっとスピアちゃん達も〈アレウス〉行きのテレポートの順番待ちでこの街で足止めを喰らっていたのだろう。

 広い街中で出会ったのは何かの運命。

 ここは一つ、白馬の王子様ってやつをやらせて貰おうじゃないか。


「何があったかは知らないけど女の子相手に大人げないではーー」


「邪魔だ! 外野はすっこんでろ!」


 瞬間、怒声と共に繰り出された男の右の鉄拳がメリッと僕の頬にめり込む。

 その殴られた衝撃で一回転した僕は受け身も取れず地面へと転がった。


「ぐふぅあぁ……!」


 『ベネフィット・スターズ』の能力なしの本当の生身で喰らったためダメージは甚大。

 うめき声をあげ、ごろごろとのたうち回る僕。


「ええ……あんた、カッコつけたいのか無様晒したいのかハッキリさせなさいよ」


 心無いことを言うアティナに手を借りて起こしてもらったが殴られたところがジンジンと痛む。


「ちくしょう、もうちょっと会話の余地があってもいいのに……!」


 いきなり殴られるとは思ってなかった。

 なんて酷いやつだ。

 こりゃ許せねえな。

 今晩こいつの家に火をつけてやろうか。


「だ、大丈夫クズゴミくん……」


「まてこのガキ! 話はまだ済んでねえぞコラ!」


 ガラの悪い男は、あろうことか僕を心配して駆け寄ってくれたスピアちゃんの髪を後ろから乱暴に掴みかかった。


「っ……! 離してください……!」


「うるせえ!」


 やめさせようと僕が飛びかかろうとする直前。

 アティナの目の色が変わってることに気がついた。

 多分軽くキレてる。

 確かに見ている方も胸糞悪くなるかもだが、アティナの場合はすぐに手が出る。

 二秒後には襲いかかるだろう。

 そうなると下手したら相手を殺しかねない。

 流石にそれはやり過ぎなのですぐには止めないで二、三発殴ったあたりで止めることにしよう。


 しかし刹那。


 程度に大小あれど少なからずの怒りを感情を抱く僕やアティナを含むその場の人が、それを忘れるぐらいにすくみあがったのは、



「ーーーーおい」



 煮えたぎるマグマのような憤怒を感じたためーー。


「なにやっちゃってくれてるの、お前」


 ガラの悪い男よりも、更にガラの悪いマスクとサングラスと帽子を不自然に着用した三人組が現れた。

 いかにも関わりたくないやばそうな雰囲気を漂わせている。

 ていうかランスさん、グレイブさん、ハルバードじゃねえか。

 ここにきて兄三人のお出ましかよ。

 あのマスクとグラサンとかは変装のつもりだろうか。


「か、関係ないだろあんたらには。外野から余計な首突っ込んでんじゃ……」


 一瞬怯んだ様子を見せるも強気の態度を崩さない男だったが、直後。

 ドゴっ! という鈍い音が鳴ったと思ったら、男が宙に舞っていた。

 ランスさんの強烈なアッパーが顎に炸裂したのだ。


「口答えしてんじゃねえーっ!! 死にてーのか!?」


 既に殺す勢いの剣幕で怒鳴りたてるランス。

 更に数メートル上から降ってきた男が地面に叩きつけられた瞬間、ダメ押しの追撃に殴る蹴るの嵐が襲う。


「うおおぁ!! 見てたぞこの野郎ふざけたことしやがって!! その罪は万死に値するっ!! 生きる価値なし!!」


「タブーなんだよお前のやったことは!! 生かしちゃおけねぇ!! この世で最大級の悪を犯したらどうなるか体で思い知れっ!!」


「た、助け……!」


 三人がかりでのリンチが始まった。

 何の躊躇もなく殴りまくりだ。

 やばいことに三人とも目がいってる。

 これだもんな、この人たちの場合。

 理不尽にスピアちゃんに危害を加えた奴は皆こうなる。

 それはそれはあまりの凄惨さで野次馬が全員逃げたぐらいだ。

 一瞬たりとも鳴り止まない殴打する音が、もはや男の生死を不安にさせた。


「ひでぇ、ボコボコだ。あの……そろそろ勘弁してあげてはどうかと……」


「も、もうやめてよ、兄ちゃん達! やめてってば! 死んじゃうよ!」


 流石に止めに入る僕とスピア。

 するとそこに。


「コラーー! 貴様ら何やってんだーー!」


 おそらく誰かが通報したのであろう、警察がやってきた。


「ちっ! お巡りか! 撤収だ!」


 言うが早いか、ランスがそう合図するとものすごい速さで三人はダッシュして逃げていった。

 確かにAランクブレイブがお縄になるのは色々とまずい。

 まさか後々身バレしないためのマスクとグラサンと帽子の着用だったのだろうか……?






 〈テレポステーション〉の予約時間になり最初来た場所に集合した僕たち。


「それは災難でしたね、二人とも」


「クズゴミの頬の傷はそういうことか」


 カオリンとエーテルにさっきのことを話すと同情されてしまった。

 あの後、色々と警察から事情聴取されたりと大変な憂き目に遭ったのだ。

 なんせボコボコにされた男は病院に直行だったからな。

 スピアちゃんからは結局僕は何も出来なかったのに何故か感謝された。

 相手を半殺しにしたのはランスさん達なのに。

 今ごろ指名手配されてないか心配だ。


「クズゴミ……あんた、いくら何でも弱すぎじゃないの? ただの一般人にのされちゃって。今からでも出場は辞退した方が身のためよ」


 アティナはどうやらさっきの件で僕のことが心配になった様子だ。

 いつもみたいに煽るわけでもなく、本気で僕のことを案じたようなことを言ってきた。


「あ、あれはちょっと油断しただけだから。本番は大丈夫だって」


 僕がそう返すが、どうも不安気にこちらを見てくるアティナ。

 なに、本番の日になればその心配は杞憂だったことが分かる筈だ。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 その後、特段トラブルなく〈アレウス〉に到着した僕たち一行は、予約していた宿にチェックイン。

 疲れたから街を見回るのは明日にして、今日は宿で風呂でも入ってゆっくりすることとなった。


「そういやクズゴミ、ありがとな。スピアが絡まれてるとき助けに入ってくれたんだってな」


「いや、結局僕は何もしてないよ。それに相手をボコ殴りにしたのはハルたちじゃないか」


 宿の大浴場で僕は奇遇にもバッタリと会ったハルバード達とサウナに入っていた。

 ここはブレイブ御用達の宿なのでランクアップテストに出場するブレイブはだいたいここに泊まってるらしい。

 僕のその一人って訳だ。


「俺たちが相手をボコ殴りに? はて、何のことだ? 兄ちゃん知ってる?」


「知らんな。ただスピアに手をあげたふてえ野郎に天誅をくだしてくれた三人組がいたってのは聞いたがな」


 ハルとグレイブさんは二人してしらを切っていた。

 それにランスさんも黙って頷いている。

 どうやらこの人たちはあの件については完全に知らぬ存ぜぬを通すことにしたらしい。


「そういや一応クズゴミもトーナメント出場するんだろ? 一回戦敗退確定って認識でオーケー?」


 ハルがまたそれを言う。


「おいおい、何でみんな同じこと言うんだ。実は僕が強いって可能性もあるじゃないか」


 ここまでランクアップテストに出場すると話した知り合いほぼ全員に言われてる気がする。

 いや、スピアちゃんには言われてなかったっけ。


「まあクズゴミの真の実力はさておきだけどよ。噂では非公式でトトカルチョやるみたいなんだ。一回戦で確定敗北の奴が分かればその相手に賭ければ確実に儲かるだろ」


「マジか」


 なんて耳寄りな情報だろう。

 まさに値千金。

 丁度まとまった金が欲しかったところだ。

 自分の試合に自分で賭ければ必勝じゃないか。


「まあブレイブは参加禁止らしいけど。出場する本人なんてもってのほかじゃね」


 僕がほくほく考えてると、横からグレイブさんがそう補足してきた。

 確かにその通りかもだが僕は諦めない。

 賭けに利用されるなら僕にだって儲ける権利がある筈だ……!


「……なあ、ところでよ」


 するとここで、ずっと黙してたランスさんが口を開いた。

 何やら声が重いがどうしたのだろうか。


「時間、どれくらい経った?」


「あー、えっと……十分くらいっす」


 僕は時計を見てそう伝えた。

 そういえばサウナ入って最初に根を上げたやつが風呂上がりの牛乳奢るって勝負やってたっけ。


「兄ちゃん顔真っ赤じゃねえか。もう出たほうがよくない?」


「死ぬぞ」


「うるせえぞ。まだまだ余裕だ……」


 しかし口ではそういうもだいぶグロッキーな感じだった。

 僕もそろそろ出たいが、この三人の場合は奢るのやだってよりは最初に兄弟の中で最初に脱落するのがやだと言うタイプだ。


「じゃあ僕はこの辺でリタイアってことで……」


「よっしゃ、クズゴミの奢りな」


「冷えたやつ買っとけよ」


「俺、フルーツ牛乳で……おえ」


 ランスさんは吐きそうだったがハルとグレイブさんはまだ余裕な感じだ。

 三人とも意地はるから中々決着つかないかもしれないな。

 まあ僕は先に上がって牛乳調達しておくか。


 ちなみにこの後、三時間くらいの長時間耐久になり、死にかけの三人が運び出されることになるのを僕が知るのはまだ先のことであった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 夜。

 夕食も終わり、長い一日を終えて僕も自分の部屋に戻ろうとした時。

 エーテルから声がかかった。


「クズゴミ、寝る前にちょっとあたしの部屋に来い」


「え」


 ようやく寝れると思っていたらまさかのお誘いだ。

 何の用事か知らないが死ぬほど行きたくない。

 断ったら怖そうだけど、言うだけ言ってみるか。


「僕もう眠いんだけどーー」


「いいから来い」


 どうやら拒否権はないみたいだ。

 僕が渋々せめて早く終わることを祈りながらエーテルの部屋に行くと、何やら机に大量の本、それとノートとペンが用意されていた。


「よし、まあ座れ」


「いやいや、何するつもりだよ。まさか勉強会じゃないだろうな」


 何故だか眼鏡をかけたエーテルが自分の隣の椅子に座るよう促してきた。

 これじゃあまるで今から本当にお勉強するみたいだ。


「そうだ。当日までの間、実戦で少しはマシに立ち回れるように魔法のことを色々レクチャーしてやるつもりだ」


 お前もかい。


「レクチャーって言っても、僕そもそもの魔力が少ないから魔法を教えて貰っても多分使えないと思うけど」


「魔法だけじゃないぜ。魔力の使い方も教える。クズゴミの魔法を見てて感じたけどよ、お前の場合は魔力の無駄使いが多いから要領を抑えればもっと数をうてるようになる筈だ」


 椅子に腰掛けて聞いてると、エーテルが横で紙に殴り書きで今言ったことの要点をメモしてくれた。

 まるで家庭教師だな。


「魔力の無駄使いとか言われてもよく分かんないんだけど」


「阿保、それをこれから教えるんだろ。とりあえずまずはこの本のページを開け。その緑の付箋がはってるところな」


 そう言うとエーテルはやたら分厚い本をずしっと僕の前に置いた。

 ボロボロで大量の付箋がはってあって、かなり使い込まれてる感の強い物だ。

 エーテルが使ってたものだろうか。

 こいつ結構勉強家なのかな。


「分かったけど、何もこんな夜にやらなくたって……」


「こういうのは寝る前にやった方が覚えがいいんだぜ。おら、つべこべ言わずに早く開け」


 今更そんなの必要ないですとも言えない空気。

 こうしてエーテルとのワンツーマンでの勉強が始まった。

 これも当日まで続くのか……。

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