表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桜の木に寄り添う  作者: 月乃結海
97/138

アトリエ

 次の朝、私はヒロキくんが描いてくれた絵を持ってあのおばあさんのお店へ向かっていた。


 カランカラン


「 すみません! 」


「 はいよ 」


 おばあさんは、少し顔色が悪いような感じでゆったりとした足取りで出てきてくれた。


「 私、昨日お話した絵を持って来たんです。見ていただけますか? 」


「 あらまぁ、こんな早くに。ありがとう。見せてくれるのね 」


 私はすぐに絵をカバンから取り出し、おばあさんに渡した。


 おばあさんは何故だか、一瞬少し驚いたようにも見えた。


「 あら。素敵だねぇ。この小さい子供たちはあなたかしら? 」


「 はい。家のすぐ側に大きな桜の木があるんです。そこで小さい頃よく遊んでいて…… 」


「 そうだったんだねぇ 」


「 あのう。昨日書かれた住所、前に一度行った事があります。お花畑の所ですよね? 」


「 そうなの。あの小屋を知っていたんだねぇ。私はあそこに住んでるわけじゃないけど、おじいさんのアトリエがあるのよ。今度一緒に見に行かない?」


「 はい、是非見てみたいです 」


 その話をした途端、おばあさんの目に涙が浮かんでいた。


「 あら、年取ると涙脆くて。ごめんなさいね 」


「 いえ。もし良ければ、絵を見せて貰えませんか? 」


 そう私が言うと、おばあさんは奥へと進んで行った。

 おじいさんの絵……どんな絵なんだろう。


 おばあさんがずっと大切にしているアトリエにもきっと素敵な絵が飾られているのだろう。


 数分後……おばあさんは、何枚かの手に持ち戻ってきた。


「 これなの 」


 おばあさんが見せてくれた絵……


 そこには……。


 お花畑のような場所で遊ぶ女の子が載っていた。


「 これね。私らしいのよ。おじいさん、シャイな人だからきっと声もかけられなかったのね。あなたが見せてくれた絵にも似てるわね 」


 自分達が子供の頃の絵……本当に少し似ているような気もする。


 二枚目の絵は、大人の笑顔の女性だった。


 おじいさんが、おばあさんをどんなに愛していたか。絵から物凄く伝わってくるものがある。


「 おじいさん、おばあさんの事。愛していたんですね 」


 そう私が言うと、おばあさんは優しい表情をして絵を見つめていた。


「 たまにね。おじいさんに会いたくなるのよ。だからあのアトリエはそのままにしているの。私達が出会った場所だから 」


 おばあさんのその言葉に、私は羨ましいと思えた。


 ずっと想って大切にできる場所。


 私もいつかこんな風に想えたら……おじいさんとおばあさんのように。


 ずっと想い続ける事は簡単な事では無いけれど、すごく素敵な関係で聞いているだけで私の心は和んでいく。


 私達に似ているようにも思えた……






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ