願い事
その夜、コウちゃんが家に戻って来ることはなかった。何か、あったのだろうか。私は不安だったけれど、朝になり、東京へと戻らなければいけなかった。
「 あかりちゃん、ありがとう。またね! 」
「 うん、気をつけてね!また……戻ってきて!」
そして、私はあかりちゃんと別れた後、ゆっくりと前へ前へ前へと進んでいく。
桜の木の下へ行き、木の幹を手でなで、願い事を心の中でしていた。この桜の木は、ずっと見守ってくれているから。
私達、みんなの願い事が……叶いますように。と、私は目を瞑り、心の中でそう願っていた。
「 お待たせっ!! 」
目を瞑っている私の後ろで声をかけてきたのは、コウちゃんだった。
「 大丈夫なの?寝てないんじゃない? 」
「 全然大丈夫だから!ちょっと、飲みすぎたみたいなの。それより、間に合って良かったー!もう電車に乗ったかと思っちゃった!駅まで送るから、一緒に行こう」
コウちゃんは、楽しそうに笑っている。良かった。いつもと変わらない表情をしている。私の心配はもう必要ない。そんな表情をしていた。
そしてコウちゃんは、私の車椅子を押し始め、何もなかったかのように話し始める。
「 なつ、そう言えばさ、お店の名前ってもう決めたの??なかなか教えてくれないからさ、気になって 」
「 うん……。実はもう決まってて、上重さんにも事前に伝えてあるんだ。もうできてる頃じゃないかな?」
「 えーー!!そうだったのー?教えてよーみずくさいじゃない!!」
お店の名前は、私の頭の中で、ずっと決まっていた名前だった……。