あのマンション
あかりちゃんがコウちゃんに話をしてくれて、コウちゃんは車を出してくれる事になり、ドライブがてら買い物へ行く事になった。
車内では音楽が流れ、明るい雰囲気に包まれている。
そんな中、私はこの街に来ると、いつも安西さんの事を思い出してしまう。
考えないようにしていても、何故か頭の中にでてきてしまう。
最初の頃、お店に来て、私を指名してくれて友達になろうと言ってくれた、安西さんのあの笑顔に嘘は感じなかったからだ。
もしかしたら私は、安西さんの起こしてしまった行動全てを嘘だったと思いたくなかったのかもしれない……。
私は、私が歩み寄れば、本当に友達になれるんじゃないかと思い始めていた。
仕事も始めて間もない頃だった私は、安西さんのあの笑顔に少なくとも救われていた。
「 ねぇ、なっちゃん。何を買いに行くの? 」
あかりちゃんが私に声をかけてきた。
「 私ね、今までお世話になった人達……みんなに何か出来る事はないかなって、ずっと考えているんだ 」
それを聞いていたコウちゃんは、運転しながら言った。
「 なつらしいね。とっても 」
私らしい……。
私は何度も何度も考えて出した結論だった。
いつも自分の事ばかりで、周りを全然見ようとしていなかった。
一人で生きているわけではないのに、色んな人に助けられて今があるという事を気づいていなかった。
口では言っていた事も、本当に心からそう思っていたのか、ずっと疑問で仕方がなかった。
「 あ!ここで止めて! 」
突然、私が叫んだ。コウちゃんは、驚きながらも慌ててブレーキを踏んでいた。
「 なつ!びっくりさせないで 」
「 ごめんなさい 」
そして、私は車内から、とあるマンションを眺めていた。
「 ここって…… 」
そこは、安西さんが住んでいるマンションだった……。