説得
あのアトリエは、おばあさんの思い出がきっとたくさん詰まっているだろう。
私はそれを思うと、なんとなく緊張していた。
アトリエの鍵は、前もっておばあさんから預かっていた。
やっと明日、あのアトリエへと行けるんだ。
あかりちゃんがあの場所へと連れて行ってくれた時からずっと気になっていたあの場所。
なぜ気になっていたのかは分からないけれど、おばあさんと出会えた事の意味があるのかもしれない。
「 なっちゃん…… 」
隣に寝ているあかりちゃんが話かけてきた。
「 どうしたの?眠れない? 」
「 私のお母さん、お空で楽しく暮らしてるかな?」
「 うん。あかりちゃんをいつまでも見守ってくれているよ 」
「 だといいな。なっちゃんと最初に会った時病院だったよね?最近は病院に行っていないからお母さん寂しいかなぁと思ったの 」
たしかに、最初にあかりちゃんと出会った時、あかりちゃんはお母さんが亡くなった事を受け止めきれずに毎日病院へと通っていると言っていた。
「 あかりちゃんのお母さんは、あかりちゃんがどこに居ても見守ってくれていると思うよ。だから大丈夫 」
「 そうなのかなぁ?なっちゃん……ありがとう 」
あかりちゃんは、相変わらず大人みたいで感心してしまう。
話が終わったあと安心したかのように、私とあかりちゃんは、ゆっくりと目を閉じ眠っていた。
私は前に見ていた悪夢も今は見ることも無くなっていた……
その頃……なつみが知らないところで、こうちゃんはヒロキに電話をかけていた。
「 もしもし、ヒロキ?なつがこっちに帰って来てるんだよ!ヒロキもこっちに来たら? 」
「 ……。今は行けないんだ 」
「 二人の間に何があったか知らないけど、私には二人とも気を使って苦しんでいるようにしか見えないのよ!それでもいいの?あんた男でしょ! 」
こうちゃんは、なつみとは会おうとしないヒロキの言葉に怒りを隠しきれなかった。
「 ごめん。今は無理なんだ……もう 」
「 わかった!もういいわ! 」
こうちゃんとヒロキは小一時間は話していた。
こうちゃんの説得にヒロキは応じる事はなかった。
前までのヒロキだったら、きっとすぐに来ていたに違いない。
二人は、やっぱりもう駄目なのかもしれない……
こうちゃんは、二人のことを想うと胸が苦しくてたまらなかった。