温かい場所
こんなに大きな声を出したのは、いつぶりだろう。
途端に私は、少し恥ずかしくなった。
ガチャ……
私の声に気づいてくれたのか、ドアがゆっくり開いた。
「 なっちゃん! 」
扉の向こうにいたのは、あかりちゃんだった。
あかりちゃんは、私を見た途端靴下のまま飛び出して私に抱きついた。
「 あかりちゃん!元気だった?なかなか連絡出来なくてごめんね 」
「 元気だったよ!なっちゃん待ってたよ! 」
あかりちゃんの元気な声に私は嬉しくなった。
「 こうちゃん、今出かけてるからちょっと中に入って待っててね 」
あかりちゃんはそう言うと、私の後ろに回り車椅子を押し始めた。
家の中は、何一つ変わった様子はなかった。
懐かしいな……
小さい頃からずっと住んでいたこの場所。
こうちゃんが毎日掃除をしてくれているのだろう。
物凄く片付いていて、アロマの香りもほのかに残っている。
「 なっちゃん、こっち来て 」
あかりちゃんが手招きをし、前に私の部屋があった場所へと入っていく。
部屋の中を覗くと、あかりちゃんは笑顔でこっちを見ている。
「 なっちゃん!毎日あかりがこの部屋を掃除してるんだよ!綺麗でしょ?あとね、これ見て見て 」
「 可愛いね!」
「 こうちゃんに教えてもらって、あかりが作ったんだよ!」
あかりちゃんが見せてくれたのは、小さいクマのぬいぐるみだった。
私がアロマオイルを置いていた棚にちょこんと座っている。
「 このクマちゃん、なっちゃんにあげる! 」
「 いいの?ありがとう 」
「 また教えてもらって作るから大丈夫だよ 」
あかりちゃんの嬉しそうな笑顔に、私も心が明るくなっていった。
「 ただいま 」
キッチンの方から、こうちゃんの声がしていた。
「 こうちゃん、なっちゃん帰ってきたよー! 」
「 おかえり 」
こうちゃんは、優しく私に微笑みキッチンへと戻って行った。
こうちゃんも変わらず、暖かく迎え入れてくれる。
こんな優しく温かい場所……
私にとって癒される、そんな場所だった。
お店の事や、都会の忙しさに疲れてしまっていたのかもしれない。
そんな私の心はどんどん穏やかになっていく気がしていた。
少しの幸せを感じ、嬉しい気分になったのは久しぶりだった。
ありがとう……
私は心からそう思えた瞬間でもあった。
カタカタカタ……
私はキッチンへと移動し、こうちゃんのお手伝いをし始めた。
「 なつ、大丈夫?ちゃんと食べてる?少し痩せたように見えるよ 」
「 そうかな?大丈夫だよ 」
こうちゃんの心配性な所にクスッと笑ってしまった。