大きな心
駅に着き、周りを見渡すと……やっぱり落ち着く。
別世界のような空気感に私は、目を閉じて大きく深呼吸をした。
不安と緊張が私の胸を締めつけている。
何も言わずに手紙を届けても、私の想いが伝わるわけでもない。
きっといつか、いつかは見てくれる時が来るだろうと信じていた。
よし!と心の中で気合いを入れた私は、一歩一歩噛み締めるように進み始めた。
周りの景色……小さい頃からずっと育ってきた思い出の場所は何一つ変わらず、大きな心で私を包み込んでくれているような気がしていた。
桜の木のポストもまだちゃんと残っていた。
手紙を手に持ちポストへ。
目を瞑り、私は大きな桜の木に祈るような気持ちでお願いをしていた。
どうか、届けて下さい……と。
そしていつまでも見守って居てください。
しばらく私は桜の木の傍で、桜の木を見つめていた。
こういう場所は、もう現れることは無いだろう。
私がどこにいても繋がっていられると感じる場所だ。
パシャッ。
私はカメラを取り出し、沢山の写真を撮った。
お店のオープンも近づき、しばらくまた来られないかもしれないから。
写真を撮り終え、昔の家に向かいはじめた。
懐かしいな。この場所も。
家を見るとお母さんの事も思い出してしまうのが怖かった。
なつー!いつまでもそんな風に呼ばれる声が聞こえて来そうな気がして……
ちゃんと受け入れきれていなかったのかもしれない。
今でも、昨日のことのように何気ない会話を思い出してしまうから。
今では、こうちゃんが守ってくれている。
急に起きた現実は、なかなか受け入れられないのかもしれない。
いつも笑顔で、私の為に生きてくれていた事を今になって感じてしまう。
あかりちゃんもきっとまだ……受け入れるのは難しいだろう。
大人になった私がこんなに辛いのだから。
涙が出そうになるのをぐっと堪えて、私は大きな声で言った。
「 ただいまー!! 」